遠藤伸雄のAgenda Musicale 『鳥のうた』よいつまでも……。 〜カザルスホールの存続を願って〜

(2009.02.20)

2月4日の朝刊を開いてとても驚きました!「室内楽の殿堂 閉館へ カザルスホール 来年3月」(朝日)との見出しです。

同ホールのサイトによると、「(日本大学は)……中略……お茶の水キャンパス再開発計画の策定に着手するに当たり、同キャンパスに所在する日本大学カザルスホールの貸し出しを含む使用を、平成22年3月31日をもちまして停止することといたしました。」ということです。

ホール関係者によると、「未だ閉館が決まったわけではなく、来年4月以降の利用予約の受付を行わない、ということだけが決まっている」ということらしいのですが、この報を聞いて、「旧お茶の水スクエア一帯を再開発し、高層ビルを建設するために、同ホールが入っているビルも取り壊されるのでは……」との危惧をいだいている音楽ファンは大勢いることでしょう。

筆者自身は、そんなに頻繁に通って来たわけではありませんが、1987年に主婦の友社によって開館された直後から、サポーターの組織「カザルスホール・フレンズ」の会員にも登録して、数々の素晴らしいコンサート(内田光子さん、 Les Arts Florissants、アルディッティSQ etc…) を体験してきた場所が本当に無くなるということになれば、誠に残念です。

カザルスホールは「貸しホール」として、ハードを提供する単なるコンサートホールであることに留まらず、「ヴィオラスペース」や「ハイドンの交響曲全曲演奏会」シリーズ、「アマチュア室内楽フェスティバル」など大変ユニークなホール自主企画公演も行って来た輝かしい「運営上のソフト」の蓄積を持つ、日本が世界に誇り得る音楽堂です。

又、若い音楽家へのサポートにも積極的で、漆原啓子さん、豊嶋泰嗣さん等レジデント・クァルテットであったハレー・ストリング・クァルテットのメンバー達や清水和音さんや吉野直子さんなど、ここから巣立って世界的な活躍をしているアーティストも数多くいます。

開館当初より総合プロデューサーであった萩元晴彦氏の逝去による求心力の低下、主婦の友社の経営の悪化による日大への譲渡などの紆余曲折はありましたが、1997年には「メセナ大賞」も受賞しているカザルスホールは、その物理的な規模は小さくとも、多くの演奏家ならびに聴衆である音楽愛好家にとって大きな存在です。

それになによりも、音楽の使徒ならびに平和の使徒でもあった偉大なる「パブロ・カザルス」の名を冠したホールを、わずか20年そこそこで閉めてしまうとなっては、「日本の音楽文化の底の浅さ」を世界中の人々に印象付けかねません。

パウ・カサルス翁は晩年、ホワイトハウスや国連本部で「世界平和を祈るため」に故郷カタルーニャの民謡「鳥の歌」を演奏し、「私の生まれ故郷の鳥は、『ピース、ピース』と鳴くのです」と語ったのは有名な話です。この「鳥」とカザルスのイニシャル「C」を象ったのが「カザルスホールのロゴ」です。この鳥がお茶の水からいなくなるのは、とっても悲しいことです。

多くの優れたアーティストを輩出してきた藝術学部を擁する日本大学関係者の皆様には、「カザルスホール存続」を前提として再開発計画を進めていただきますよう、切にお願い致します!!

一方、この素晴らしいホールで演奏をしてきた音楽家の皆さん! その演奏を愉しんできた多くの愛好家の皆さん! 結束して「カザルスホール存続」の大合唱を共に歌おうではありませんか?

 

輝かしい「運営上のソフト」の蓄積を持つ、日本が世界に誇り得る音楽堂、カザルスホール。
ホール創立10周年(1997年)記念に設置されたパイプ・オルガン。
ドイツの名匠ユルゲン・アーレント製作。
パブロ・カザルスのイニシャルCと、カタルーニャの民謡『鳥の歌』の鳥を象ったロゴ。