田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》 白い灯台と、白い水仙。
ミシュラン二つ星の城ヶ島まで。

(2014.02.04)
安房崎灯台は海の青、空の青にも染まらない純白
海辺をドライブ
昨年の暮れに江ノ島シーキャンドル(展望灯台)まで出かけたことが引き金になったのかどうか、正月を過ぎてからも『灯台』のイメージが頭の隅にずっと引っかかっていた。海岸の岬や孤島に白い灯台がひっそり佇む風景は、なかなかいいものだ。冬晴れの、海も空も青い日ならばなおさらのこと。よし、きょうは城ヶ島の灯台までドライブしてみよう。そろそろ水仙も咲き始めている頃だし。

灯台は孤独で美しい灯台は孤独で美しい
岬の灯台、三崎のマグロ
私が小学生の頃(1957年)に、『喜びも悲しみも幾年月』という木下恵介監督の映画が封切られた。高峰秀子と佐田啓二の灯台守夫婦が、日本各地の灯台をあちこち転勤?するドラマ、ある種のロードムービー、らしい。映画は見ていないが映画と共に大流行した主題歌は今でも覚えている。♪オ〜イラ岬の〜、灯台守は〜、妻と二人〜で、沖行く船〜の、無事を祈って、灯〜をかざす、灯をかざす♪ などと独り口ずさんで右手に海を見ながら、運転席の窓を半分開けて快適に走っているうちに、やがて三崎港。そのまま城ヶ島大橋を渡ると城ヶ島。江ノ島3個分ほどの東西に細長い島で、灯台は相模湾の入り口にあたる島の西にある。大橋の袂にある駐車場にクルマを停め、灯台を目指して歩き始めると、城ヶ島バス停近くにマグロ料理の食堂や土産物屋が並んでいる。三崎港といえばマグロ、ここはやっぱりマグロ丼でしょう。きょうは島の西から東まで往復(約2km×2)する計画なので、まずはしっかり腹ごしらえだ。
城ヶ島灯台 昔は灯台守が住んでいたのだろうか?
城ヶ島灯台 昔は灯台守が住んでいたのだろうか?
小高い丘の上に立つ城ヶ島灯台
小高い丘の上に立つ城ヶ島灯台
灯台守は絶滅危惧?
日本の洋式灯台は、幕末に開国を迫る諸外国の要求に沿い外国人技師が設計した歴史がある。明治2年の観音崎(横須賀)灯台が最初で、城ヶ島灯台は翌年、日本で5番目に点灯したそうだ。しかしその後両方とも関東大震災で倒壊し、大正時代にレンガではなくコンクリート造りで再建される。日本の灯台の総数は3,300基あまり、職員が住み込む最後の女島灯台(長崎五島)が2006年に自動化され、現在はすべての灯台が無人になったそうだ。とはいえ、灯台を見ると『喜びも悲しみも〜』の灯台守のイメージが色濃く植え付けられたせいか、人間味溢れる郷愁を覚えてしまう。蒸気機関車を見る時のアナログな感傷と似ている。私は灯台の中を登る螺旋階段が好きだ。暗いところを登り切ったあとの開放的な明るさ、上からの眺望もさることながら、電球を囲む鳥かごのような巨大なフレネルレンズの、遠くまで光を届けてくれる造形の力強さは美しく見飽きない。だが城ヶ島灯台は外から眺めるだけで、残念ながら中には入れないので、今度は見学可能な観音崎灯台へでも行ってみよう。ところで灯台が白いのは光を反射して目立つように、ということらしいが、北国では雪の白と区別しづらいので、赤白や黒白のボーダーの灯台もあるらしい。そのうち宗谷岬にも行ってみるか。灯台四十八カ所巡り、なんちゃって。 
城ヶ島灯台城ヶ島の交番は灯台仕様、社会を明るく照らします
左:城ヶ島灯台
右:城ヶ島の交番は灯台仕様、社会を明るく照らします
城ヶ島ではマグロが待っているマグロ丼もいいけど、かま焼きも好きす
左:城ヶ島ではマグロが待っている
右:マグロ丼もいいけど、かま焼きも好き
ミシュラン二つ星
城ヶ島の南側(外海)は断崖絶壁の海岸が続く。この日は春の先駆けのように暖かかったが、強烈な南風で白波が立ち、磯へ降りると風に押されて足元が危なっかしい。城ヶ島がミシュランのグリーンガイド・ジャポンで二つ星を獲得したことは意外と知られていない。荒々しい自然むき出しの磯伝いに歩くのに疲れて崖の上の遊歩道へ登ると、笹やぶの足元の水仙はもう七分咲きだ。写真を撮ろうと膝をつきしゃがみ込むと、突然濃厚な水仙の香りに包まれてくらくらしそう。水仙の花は、海岸によく似合う。こんなに魅力的な姿と香りを持っているのに、スイセンはヒガンバナ科の有毒植物なのだ、美しい花には何とやら。水仙ロードを東の端の公園まで行って展望台に登ると、もう一つ小さな灯台が見えた。安房崎灯台だ。海の向こうに安房の国(千葉館山あたり、同じ“あわ”でも阿波の国は徳島)が見えることからこの名が付いている。急な石段を下り、荒磯の先にある灯台まで行ってみると風はますます強く、波しぶきが泡になってボタン雪のように吹き飛んで来る。春は名のみや、風の寒さや
長年の荒波と強風で穴があいた馬の背洞門
長年の荒波と強風で穴があいた馬の背洞門
崖の上の水仙ロードは笹が防風林となり陽当たりも抜群
崖の上の水仙ロードは笹が防風林となり陽当たりも抜群
ミシュラン二つ星、自然むき出しの海岸潮のしぶきで鵜が育つ、と白秋が詠んだ海鵜の生息地
左:ミシュラン二つ星、自然むき出しの海岸
右:潮のしぶきで鵜が育つ、と白秋が詠んだ海鵜の生息地
飛沫が雪のように飛んで来る公園の中の水仙の丘
左:飛沫が雪のように飛んで来る
右:公園の中の水仙の丘