一瀬恵のパンクなドイツ 歌舞伎『春興鏡獅子』とドイツ・メルケル首相&EUバローゾ委員長のスピーチ。

(2009.02.03)

新歌舞伎十八番の演目『春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)』。

この演目は、獅子と胡蝶を組み合わせるというポップな発想で遊び心を感じますが、実際舞台では色も鮮やか、演技も大迫力! そして演出も長い年月を得て計算された優美さと日本人の美意識の高さが表現されていて、本当に素晴らしいです。

先日、この演目を観劇する機会を得ました。 
まず「中村屋!」の大向こうと大きな拍手とともに小姓弥生後に、獅子の精を演じる中村勘三郎さんが登場し、華麗で優美な舞を披露します。その後、正面奥の伴奏者の舞台が左右に分かれ、真っ赤な着物を着た、胡蝶役の8歳の片岡千之助さん中村玉太郎さんが、なんとも愛らしく登場します。そして後に、獅子となった勘三郎さんの雄々しい獅子と、小さく軽やかな胡蝶は舞を遊ぶのです。

この豪華で勇壮な衣装に白い髪の大きな獅子と、ピンクで羽ばたくように袖を広げるキュートな胡蝶の対照的なコントラストは、驚くほどにアッサンブラージュ(調和のとれた)!! 見事です☆

見せ場が満載で、役者さんがビシっ☆と決めると、我ら観客も舞台に夢中で入り込み大きな拍手をする。まさに熱気と興奮に包まれて、会場が一体となる瞬間でした。

その空間にいながら、ドイツのメルケル首相と欧州委員会バローゾ委員長のスピーチを思い出しました。

それは2007年の1月に当時EUの議長国を務めていたドイツが『未来に向けたヨーロッパ』をテーマに開催したGrüne Woche『グリーンウィーク』という世界最大農林業のイベントの開会式でした。

「有機エネルギー」や「再生可能なエネルギー」などをテーマにドイツそしてEUの立場と協力関係を繰り広げた両者のスピーチでしたが、メルケル首相とバローゾ委員長のスピーチは、本気で熱く、そしてエレガントでスマート。まさに「聞かせるプロ」の演説でした。

スピーチの「聞かせ場」や「重要な主張場」には適度な間をとり、観客の反応を見、時には拍手を仰ぎ、また観客も積極的にそして自発的に拍手や掛け声をかけ、スピーチを盛り上げる。

この演説者と観客が積極的に双方向のコミュニケーションをとることにより、会場が一丸となり、より一層盛り上がり、ダイナミックな空間へと変化していきました。

歌舞伎『新興奮鏡獅子』とドイツのメルケル首相と欧州委員会バローゾ委員長のスピーチ。

この2つは分野も、国もまったく違いますが、演じての本気さや温度の高さ、そして見せ場や聞かせ場に観客が積極的に反応するという会場の盛り上がりが非常に似ていました。

やはり本気というのは素晴らしいです。新年に向けて身が引き締まりました。

歌舞伎座のこの夜景ももうすぐ見られなくなります。来年の4月をもって建て替え工事に。
Grüne Wocheの開会式で演奏したブランデンブルグの青少年フィルハーモニーのコンサート。背景にはヨーロッパの川、森、山、町並みなどが映像で映し出されるなどの演出もあり、開会式全体が、「歴史あるヨーロッパが一つとなり協力し未来に向かう」という強いメッセージを発していました。
Grüne Wocheの開会式でスピーチする、ドイツのメルケル首相。
Grüne Wocheの開会式でスピーチする、EUのバローゾ委員長。