池田香代子ブログから 池田香代子ブログから “嘘と真のこのくにのメルヒェン”
もう政治家には幻想などもたない

(2011.06.30)

政治家への幻想が霧散した 福田さんと菅さん

元外交官の孫崎亨さんがツイッターを始めました。多くは朝一番に、その時どきの政治の動きを連続ツイートで鋭く分析しておられます(こちら)。18日には、直近のウィキリークス報を踏まえて、福田首相辞任は、アメリカがアフガンへの陸上自衛隊派遣を要請したのを断ったことが原因、と断じています。

「今私は確信する。福田首相は自分の首と米側要請拒否を引き換えにしたのだ……福田首相『国民生活のために新しい布陣で政策実現を期してもらいたい』と述べ辞任。多くの日本人にこの説明は意味不明。皆唐突な政権放出の福田首相を非難……意味不明に見えた『国民生活のために』は重要なメッセージを内蔵していたのだ。」(孫崎)

「巨額の資金」とは200億ドルだそうです。「あなたとは違うんです」と、高飛車に苛立ちを隠そうとしなかった最後の記者会見で、いっそう悪い印象を残して官邸を去った福田さんですが、私は自公政権最後の総理総裁の中では、わりと評価できると思っていました。それで、ウィキと孫崎さんの分析にも、すなおに頷けるところがありました。

さらに20日には、孫崎さんは続報をツイートしています。

「福田首相が撥ね退けたのは日本にとり正解である。ではこの時、周りの官僚や政治家は福田首相と共に戦っているか。残念ながら違う。政治家や官僚は自分こそ米国と協力できる人間であると売り込んでいる。鳩山首相が普天間で戦った時と同じ構図がここでも見える……首相が戦う時に政治家、官僚米国にすり寄れば米国当然首のすげ替え計る。戦後日本が一貫し辿った道」(孫崎)

そして、ウィキから実名を拾って記しています。せっかくですので、ここにも転記します。こういうことは、ことあるごとに記述・記録しておかねばなりません(肩書きは当時)。

アメリカのアフガン戦争に協力しようとした人びと:町村官房長官、石破防衛庁長官、山崎拓、衛藤征士郎、岡田克也(民主党)、前原誠司(民主党)、梅本外務省北米局、河相外務省外務審議官、西宮北米局長、高見沢防衛庁局長

アメリカのアフガン戦争政策とは一線を画そうとした人びと:福田首相、高村外相、斎藤統幕議長

私がなぜ福田さんを評価するかというと、このブログにも書きましたが、日印原子力協定をドタキャンしたからです(09年8月3日の記事はこちら)。いかにアメリカなどの圧力があろうとも、NPTに加盟していないインドに原子力技術を提供することはできないと、まさにこの協定のために来日したシン首相にじきじきに断ったのです。これはずいぶん胆力のいる力業だったろうと思います。

これを書いている今は6月21日ですが、去年のこの日のブログは、奇しくも「どうしてインドに原発を売るの?」でした(こちら)。1年前の今日、インドをはじめとする新興国に原発を売り込むことが新たに明記された民主党マニフェスト菅バージョンに、ため息をついたのでした。その菅さんが、東電の原発事故をうけて、このくにのエネルギー政策を大きく方向転換させようとしています。再生エネルギー促進法案、つまり誰がどのように発電した 電気でもすべて定額で買い取ることを電力会社に義務づける法案です。3年たったら廃止を含めて見直す、などというよけいなおまけもついた、隙だらけの法案ではありますが、これを自然エネルギー社会への突破口にすることは大いに可能です。

菅さんは、もうすぐやめるからと約束して、不信任決議 を辛くも乗り切ったばかりの、いわば末期政権のトップです。その菅さんが、この法案に意欲を示した先週のいわゆる「エネシフ勉強会」、私も参加しました。 孫正義さんが40分のプレゼンテーションをし、与野党の議員さんやマエキタミヤコさん、飯田哲也さん、宮台真司さん、加藤登紀子さん、小林武史さん、松田美由紀さんなどなど、エネルギーシフト派が350人以上も参集して、たいへんな盛り上がりでした。首相がNPO主催の勉強会に参加したのは、もしかしたら憲政史上初かもしれないとのことです。そこでの菅さんの短いスピーチのある箇所は、地上波テレビでも繰り返し流されました。

その前段はおおよそ、「今お話を聞きながら、ともに戦ってくださる同僚議員、応援してくださるみなさん、それでも足りない時はどうしようと、作戦を練っていました」でした。いかにも少数会派から百戦錬磨の末に首相の座に登りつめた「策士」にふさわしいことばです。あんまりいい感じは受けませんでした。と同時に、私はこの菅直人という政治家に感じ入ったのです。たしかに、つぎつぎと辞任へのトラックにハードルを並べて、ゴールを遠ざけようとしている。辞任を高く売りつけようとしている。けれど、その取り引き材料に、はっきり言えば延命策に、再生エネルギー促進法案を使うというのなら使ってほしい、と思いました。福田さんは、黙って自分のクビと引き替えに、このくにがアフガン戦争の泥沼に引きずり込まれることを阻みました。菅さんは、派手に騒いで、このくにのあり方すら変えるかも知れないエネルギー革命の1丁目1番地の法案を通そうとしています。どういうやり方でも、みずからの政治的リソースを使い切ってするべきことをするのが政治家というものなら、菅さんにもやっていただきたいものです。それでこそ、菅さんだって本望でしょう。もしも、菅さんがほんものの政治家であるならば。

私はこれまでなんとなく、政治家に政治信条だけでなく、いい感じや倫理観も求めていたように思います。そうではないのだと、先週、議員会館のもっとも広いホールを埋め尽くす人びとの前で、異様に高揚した菅さんを見ながら思い知りました。政治家は好き嫌いで選んではいけない、すべきことをするかどうかをこそ評価するのだ、と。政治家にたいする幻想が最終的に吹き飛んだ瞬間でした。

かくなるうえは、菅さんに は辞任へのトラックにもっとたくさんのハードルを並べていただきたい。東電原発事故を徹底検証しうる独立した調査委員会の設置、発送電分離、東電解体、それから、それから……。それらをやりとげるまで支えるというか、倒れることを許さない、なぜならば、ポスト菅に名乗りを上げている政治家のうち、再生可能エネルギー社会を目指すと表明している人は今のところ与党にはいないのだから。菅さんが脱原発を明言しないのは様子見であり、限りなくソフトランディングを計っているからだと解釈することで実際にそのように動いてもらうのだ、そんな世論がこのところじわりと醸成されてきている、私はそう信じています。
(2011年06月22日00:22)

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