北原徹のバカ買い! Smells Like Teen Spirit - 38 - ちょっと疲れる”東京”の街。昔見た、質実剛健な”重ね着”。<n(n)>のダウンベスト。

(2009.12.17)

日々の生活とはまさしく麻痺の繰り返しではないだろうか。

ブランド志向が強まれば、高いお金を出しても、それが”高い”ということにさえ気がつかず買ってしまう。

デフレが生活に忍び寄ってくれば、安いことが当たり前になり、適性価格があるだという疑問さえ抱かずにやり過ごし、さらに安い物を追い求めてしまう。

麻痺とは本当に怖い感覚なのではないか? 

東京に暮らして45年になる。

最近とみに”東京”に麻痺してきていることに気づく。

東京。狂気に溢れた街。息を吸い、手足を開、重い足を運び、道に一歩踏み出す。そんな基礎代謝みたいな動きをするだけでも、神経をすり減らし、何かに焦り、イラ立ちを感じ、あるいは時にムカつき、時に憤りさせ覚える。

数えきれないほどの”人”がいるはずなのに”人”の匂いがしない街。

“便利”という言葉で周囲を包み、”本当”を見えにくくする。それはまるで、ドアを開けたら勝手に蓋が開くトイレみたいに、過剰な親切はあり余るほどあるに、だれかが本当に困って立ちすくんでいても、誰も助けようとしない、手さえ、貸そうとしない。一体、人はどこにいるのだ!?

レトルトパックを温めるだけの食事のように……それをあたかも手作りです! と言って差し出すように、張りぼての装飾に彩られ、上澄みや口ばかりのお世辞、調子のよさだけの真実になり得ない真実を作り上げ、でっち上げ、何も実体がなくなっていくような感覚に陥る。

根拠のない自信はどこから来るのか? 中身のないプライドは何に寄りかかっているのか? 追い立てるように、人間から”個”という意識を飲んでいく。

他人を利用し、他人を裏切り、他人の大事な部分を搾取する。その感覚さえ麻痺していく。

誰かのために、明るさと温もりを与えようとしながら灯るのではなく、見せるためだけに、何かを誇示するためだけに灯る哀しげなキャンドル。

何でも売っているはずなのに、一番大事なものは手に入れることができない。

夢を持ったり、夢を語ったりしたくても、その前にある見たくもない現実がサブリミナルのように、強制的に脳にすり込まれていく。聴きたくもないノイズが、24時間、フルタイムで耳に響き渡る。ダスティなぎらついた手触りにうんざりしながら、それでも”今日”という一日を凌いでいかなければならない街。

“東京”。

人として生きる、ということに常に自問自答していかなければ、ちゃんと生きられない。

すべては虚構なのに。

なんて、もしかしたらある一面の”東京”と言っているのかもしれないけれど、何かこう、いろんなことに麻痺してしまって、あくせくしてしているイメージが”東京”にはある、と思うんだ。

空はどこにでもあって、空はつながっている。それは本当のことなのかもしれないけれど、東京の空、少しスモッグがかかったグレイッシュな東京の空は、本当に他の街とつながっているのだろうか。

だけれど、悪いところばかりでもない”東京”。

世界で一番”おしゃれな街”と言う。

おしゃれを競うのは、かつてはパリっ子たちだった……とぼくの知らない時代の人は言った。だけれど今の東京っ子は本当におしゃれを競うように、それぞれの華を見つけ、華を咲かせているように思える。


ぼくは最近<n(n)>のアウトドアな雰囲気のリバーシブルベストをスタジャンや、ジャケット、コートの上にレイヤードして、東京の街を歩いている。

この着こなしがいいのか、悪いのかは置いておいて、昔、東京で見たアメリカ人(アメリカから来たテレビの撮影クルーだと人から教えてもらった)のコーディネートを参考にしている。

その人は、寒かったからだと思うけれど、アウター(うろ覚えだが、MAー1風のジャンパーにスタジャンもどきを重ねていた)の重ね着の上にダウンベストをさらに重ねていた。特別にレイヤード(おしゃれとしての)をしようという感覚はないと思うし、きっと「寒いから重ねたんだよ!」とでも言いたい雰囲気がひしひしと感じられたのだが、その質実剛健なコーディネートがぼくの頭の中にこびりついていた。

引き出しの奥にひっそりとしまい込んでいた古い写真でも引張り出したみたいに、ぼくは俄かに、あの時のアメリカ人のスタイルが気になって、今、アウターの上にベストを着ている。

マイブーム。

そんな感じが、今の気分。

寒い部屋で手がかじかんで、字が上手く書けないのだけれど、スタジャンにベストをオンするのは本当に暖かい。使い捨てカイロもいらないくらい。一層のことその格好で外で書いたほうがよかったのか?
今度はゴワゴワとして、字を書くどころじゃないんだろうなあ。

年の瀬ですね。忘年会5連チャン、なんという日々を送っています。
月曜日は大学の先輩でS学館重役氏らと西麻布『Donguri』で。
ここの『石焼海鮮パエリヤ』が絶品で。石焼ビビンバの器で作られる
パエリヤですよ。
おいしかった! でも、出版の世界、これからいったいどうなって
行くんででしょう? あまりに厳しい状況……。
仲間内との小さな忘年会は、新宿区A町の『T』にて。
湯びきしてポン酢でいただくふぐがサイコー!
ふぐのヒレ酒をお茶をチェイサーにしてやるのがよくって。
「お茶イサー」ですよ。
そのあとはみんなで歌いまくり、なぜかママがオーバー60の
バーばかり10軒覗いてしまいました。
来月5日にバースデーを迎える北原の
そんな年の瀬です。