遠藤伸雄のAgenda Musicale 三木たかしさんを偲ぶ。

(2009.05.14)

5月になって、「音楽界の巨星堕つ」の報が続いている。
2日の忌野清志郎さんに続き、三木たかしさんの訃報である(11日)。
清志郎さんの方は、同じ世代とは言え、そんなに熱心な聴き手ではなかったので、小生に彼の音楽を語る資格はない。

作曲家三木たかしさんの作品は、1960年代から1990年代にかけ、その時代時代を代表する誰もが知る名曲が目白押しであるが、大ヒット曲は何といっても歌手に注目が集まり、作曲家が脚光を浴びることが少なかった。しかし、今から振り返ってみると、この曲も三木さん、あの曲も三木さんのものだったのか、と改めてその才能に驚かされる。
代表的な作品をちょっと挙げてみるだけでも、良き時代の日本の歌謡史を俯瞰することが出来る。

1969年 『禁じられた恋』(森山良子)
1973年 『みずいろの手紙』(あべ静江)
1974年 『木枯しの二人』(伊藤咲子
1977年 『津軽海峡・冬景色』(石川さゆり)
1984年 『北の蛍』(森進一)
1986年 『時の流れに身をまかせ』(テレサ・テン)
1987年 『追憶』(五木ひろし)
1994年 『夜桜お七』(坂本冬美)

どれも素晴らしい曲ばかりだが、三木さんの創作の絶頂期は、やはりその歌手活動のピーク時に提供したテレサ・テンへの一連の作品であろう。前記『時の流れに身をまかせ』(本当に名曲だ!)をはじめ、『愛人』、『つぐない』、『別れの予感』(いずれも作詞家荒木とよひさ氏との共作)など、カラオケでも定番のポピュラーな曲の他にも、『三木~荒木~テレサ』作品では、『水の星座』、『恋人たちの神話』、『冬のひまわり』、『涙の条件』などの圭曲が並ぶ。

その多くは、『道ならぬ恋に耐え忍ぶ』薄幸の女心の切なさを歌った曲が多いのだが、その切なさを増幅させる三木さんのメロディ・ラインが、聴くものの琴線に触れる。
その歌々は、大きな括りで言うと、『演歌』と呼ばれるジャンルに入るのだろうが、都会的・洋楽的なセンスも随所にちりばめられていて、三木作品が『エンカ的ポップス』あるいは、『ぽっぷす的演歌』と呼ばれる由縁である。
又、これらテレサ・テンが残した楽曲の伴奏のアレンジ、オーケストレーションも秀逸で、『レコード芸術』(あえて「CD」とは言わない)としての完成度も極めて高かった、と言えよう。

私見だが、日本の(歌謡曲を含む)ポップス・シーンにおいて、三木さんは、90年代以降に活躍しだした織田哲郎氏と並んで、稀代の「メロディー・メーカー」であると思う。
織田作品に、坂井泉水という稀有なシンガーが必要だったように、テレサ・テンという天才歌手がいて、彼女からインスパイアーされた素晴らしい歌の数々が三木さんから生まれ出てきたかも知れない
(それにしても、まだ若かったこの二人の歌姫も、もうこの世にいない、とは何と悲しいことだろう!)。

いままで長く愉しませていただいた、又これからもずっと歌い継がれていくだろう、多くの名曲に感謝するとともに、三木たかしさんの御冥福を心よりお祈り申し上げます。
合掌。

 

若かりし頃の三木たかしさん。
『時の流れに身をまかせ』。日本レコード大賞、全日本有線大賞を受賞した。
『つぐない』

PS:奇しくも5月11日は、もう一人のポップス界の巨星TKに対する有罪判決が下された日でもあった。