佐藤友美の東京バカンス 独断と偏見ご容赦 2008年・美術展ベスト10(後編)

(2009.01.26)

5位 米田知子展 / 原美術館

彼女の写真作品の一貫したテーマは「見えないものを見る」ということだ。おだやかな海水浴場の写真だと思って見て、近づいてタイトルを見ると「ノルマンディー上陸作戦があった浜辺」と書いてあったりする。さっきまで見えていた平和な風景写真は一変してしまう。それが、歴史的に悲しい出来事があった場所の今現在を撮る「Scene」シリーズ。また、亡くなった高名な文化人愛用の眼鏡を通して、実際に見ていたもの(作曲家なら手書きの楽譜、作家なら書いたラブレターなど)を撮る「Between Visible and Invisible」シリーズも。代表作だけでなく、未発表新作までもが並び、米田知子集大成といった模様。

こんなにも美しく、緊密な写真の数々。見ていて無言になってしまうというか、非常に真摯な気持ちになれた。自分が知的な人間になった気さえしてくる。静謐であればあるほど雄弁。私みたいなのがおいそれと好きです、と言ってはいけないような気さえする作品たち。

『米田知子展』はこれまでの集大成といった感。

4位 中西夏之新作展 絵画の鎖・光の森 / 松涛美術館

一枚で絵画、二枚からインスタレーション、ともいうべき配置で、中西ワールドが大炸裂! 横浜トリエンナーレの出展のよりも、こちらのほうが個展なので世界を作っていた。

中西独特の紫や白や緑の絶妙な使い方が、なんだかもう神業の粋にまで達している。本当にいい絵画っていうのは、インスタレーションなんだな〜と思った。周囲の気をも変えてしまうというか、鑑賞者を包みこむものなのだ。

独特の紫や白や緑の絶妙な使い方が、なんだかもう神業だった『中西夏之新作展 絵画の鎖・光の森』

3位 大正の鬼才 河野通勢展 / 松涛美術館

どうしてこうもこの時代の画家は、これだけのひたむきさで、尋常ではない熱量で絵を描きつづけられるんだろうという、めまいにも似た感動。国立近代美術館の常設展示にいつもある、有名な自画像はほんの氷山の一角だった。うねる木々、キリストの絵、いろんなものを見つめたおして描いている。今みたいにインターネットもケータイも、娯楽がほとんどない時代に、ただただひたすら絵に打ち込む姿勢。たくさんの自画像に囲まれて、自分と向き合って見つめて描いた時間の長さを思い、またもや圧倒されて無口になる私。地味な展示ながら、掘出し物の上質な展覧会だった。

シュルレアリスムが好きにはたまらない『シュルレアリスムと写真 痙攣する美』

2位 シュルレアリスムと写真 痙攣する美 / 東京都写真美術館

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シュルレアリスムが好きだ。そんな私にはたまらない写真の数々。あれも好き、これも好き、で会場をずっとうろうろしてしまった。特に好きな岡上淑子がフィーチャーされていたこともうれしかったし、シュルレアリスト全員参加?のような、しっかりと網羅された写真展だった。文学やファッション、広告などへの影響も計り知れないほどであることもわかった。美しくユニークな視点も、挑発的なやり方も、すべてが今でも新鮮に感じる。現実と非現実の間すれすれのものに、目で見る楽しみがある。

 

そして栄えある第1位は…

『パラレル・ワールド もうひとつの世界』展はネオ・シュルレアリスムともいうべき作品群。

パラレル・ワールド もうひとつの世界 / 東京都現代美術館

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ネオ・シュルレアリスムともいうべき作品群。このユーグ・レプという作家自身の作品とキュレーション力のチャーミングさに、ずっと顔がほころんでいた。

ロゴとかチラシとか、アートワークも、ポップでキッチュでかわいくて、珍しいキノコ舞踊団かと思った。これくらいばかばかしいのが好き。出展者の人気作家・内藤礼目当てで見に行った人は「何じゃコリャ」って思ったかも。

図鑑から超拡大した、ぺらぺらの植物や、春雨を蛍光ピンクに着色して作ったでっかいプードルとか、名和晃平の剥製がゆがむシリーズとか、私のツボの作品が続いて、ずっとニマニマしっぱなし。テーマ性、出展作家のレベルの高さ、トータルで大満足。ホームページも可愛いので、ぜひ見てみてください。

ただ、評判をあまりきかなかったので、私以外にこの展覧会を評価している人はいないのかしらん…と検索してみたら、いらっしゃいました! 坂井直樹さんがブログですすめてました。さすが!

 
 

以上、ベスト10でした。読み返すと、顔から火がでそうな程、えらそうに語っちゃってますね、恥ずかしいです。

でも、いい展覧会というのは、見終えた後に、体温が二、三度高くなったような感じになって、軽く興奮してしまうものなんだなーと、2008年を振り返って思いました。

今年もそういう作品にたくさん巡り会えるといいなあ。
(早速であっちゃいました!ICC[インターコミュニケーションセンター]での「ライト<イン>サイト」展はオススメです! 光と影がテーマです、2/28までです!)

 

次回は本職の落語のことを書く予定です!