花と音楽のある暮らし Music & Flower Vol. 4 – うららか- うららかな春の陽射しを
心に感じるとき。

(2009.03.25)
Music
うららかな街の思い出。
サニーデイ・サービス/東京
70年代の日本のロック/フォーク・シーンに影響を受けた、曽我部恵一、田中貴、丸山晴茂による3ピース・バンド。1995年『若者たち』でメジャー・デビュー、2000年『LOVE ALBUM』を最後に解散。『東京』は1996年リリースのセカンド。2006年には発売10周年を記念し、曽我部恵一自ら弾き語りでアルバムを再現した「東京コンサート」が開かれる。2008年夏、再結成。

「花と音楽」と題されたコラムなので、ここで紹介するアルバムは、なるべくジャケットのアートワークや曲の内容などに植物や自然が関係しているものを、と気にかけながら選んでいるのですが、今回の“うららか”の裏テーマ“桜”というお題を受け、即座に候補となったのが、このサニーデイ・サービスの『東京』でした。

古い絵葉書から切り取られたような、どこか懐かしい色合いの桜の花がジャケットいっぱいに広がるアートワーク。一目瞭然ですね。60年代後半から70年代にかけての日本のロック/フォークの香りを漂わせながらも、パンクやネオアコ、そしてDJカルチャーを通過した彼ららしいまっすぐで上質な音楽的価値観と、曽我部恵一という人並みはずれたソングライターの才覚(そしてその声色)が結合し生み落とされた、発表されたと同時に古典となってしまったような優れた作品ですが、僕にとってこのアルバムは、そのジャケットの桜の色の淡さにもよく似た、発売当時に住んでいた日暮里・谷中の情景がよみがえってくる、とても思い出深い一枚でもあります。

桜が満開の谷中霊園。『あじさい』のプロモ・ヴィデオに登場するY字路。官軍が発砲した弾痕が今も山門に残る彰義隊をかくまったお寺。カヤバ珈琲。羽二重団子。東京芸大方面に向かって歩く道すがらにあった、レコードも置いている骨董屋さん……。お寺や緑が多かったせいか、東京の山手線圏内とは思えないほど空気が瑞々しく、江戸の時代と地続きなのが肌身で感じ取れるような、緩やかな時間が流れている街。そんな谷中での生活の中で、歌詞やメロディーどころか、ほとんどアンサンブルまで暗唱できるぐらい聴き込んだ『東京』は、谷中の風景や匂いと重なり合い、切り離せない存在となっていました。

最近はほとんど谷中に足は向いていませんが、僕が一時期住んでいた10数年前より新しいお店が増えているようで、ちょっと羨ましい。ちょうど今時分の“うららか”な陽気がいちばん似合う谷中に、久しぶりに散歩に出かけたくなりました。もちろん、心には『東京』が鳴りだすことだろうと思います、たぶん。

(文/武田 誠)

 

Flower
うららかな心と春の風景。
スイートピー
種:マメ科ラティルス属
原産地:イタリア・シチリア島
開花時期:3月から5月
花言葉:優しい思い出

春うらら。代々木公園を走り抜ける。いつもより人が多い気がする。太陽の陽射しが優しく降り注ぎ、やわらかい風が吹き抜け、空は美しく青々と晴れわたる。

うららかとは、うらもなし(心に屈託がないという意の言葉)という心の状態を表した言葉が語源になっているそうです。

うららかな心。それは、母を思うときに誰しもが持つ心ではないでしょうか。

春の陽射しのように暖かく、春の風のように優しく包みこんでくれ、空のように雄大に。

知人のお母さんが誕生日ということで作ったアレンジメント。

人が母を思う気持ち。うららかな心。暖かく、優しく、そして大きな心。それは、どこか懐かしく、なんだかほっとする。いつか目にしたことのあるような。春の陽射しのように甘いスイートピーの香りとともに、うららかな春の風景を……。

(文/井上揚平)