田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》 早春のアムステルダム

(2012.05.24)

質実剛健

4月下旬、パリへ出張の途中アムステルダムへ寄った。オランダの南、ドイツとの国境に近い町フェンローで開催される花の博覧会(フロリアード)を視察するのが目的だ。オランダへ行くのは始めて。シャルル・ドゴールから空路スキポールへ着くと、近距離なのに別の国に来たことを強く印象づけられる。大柄なオランダ人、ドイツ語に似た骨太な音がするオランダ語、空港の標識デザインに使われる書体も太く色使いも強い、などなど、全体にゴツくて質実で機能的というか、お洒落なフランスとは落差が大きい。空港からアムステルダムへ行く電車に乗ろうとチケットの窓口へ行くと、列車の正面衝突事故が起きたので迂回路を通るように指示された。到着早々、前途多難かも。

シャルル・ドゴール空港の出発ロビーで、久しぶりにクロワッサンを食べる。
スキポール空港の到着ロビーには花屋もある。さすが花の国オランダ。
アムステルダム中央駅

ドイツでもそうだったが、オランダの鉄道駅には改札口が無い。切符はみんな買うものという性善説に基づき、チケットを持ったままホームまで素通り出来るので、荷物が多い旅行者には都合がいい。パリの、あの非人間的な性悪説で出来た改札口は今や時代遅れというより、人権問題なんじゃないかと腹立たしく思い出しながら、アムステルダム中央駅でロッカーを探す。夕方の電車でフェンローへ行くまでトランクを預けないと身動きが取れないし。駅にはガイドの人があちこちに立っていて、親切に英語で案内してくれる。パリではこんなサービスなかったなあ。ロッカーの場所はすぐにわかったのだが、そのモダンなロッカーの使い方が皆目わからない。上下3段、20列ほど並んだロッカーを、タッチパネルを見ながらクレジットカードを差し込んで操作するのだが、旅行者がやっているのを見てもなかなか理解出来ず困っていたら、可哀想に思ったのか、無知な異邦人と思われたのか、係りのおじさんが手を取って教えてくれた。ありがとう。ロッカーの扉を閉めてカードの暗証番号を入力すると課金されて、バーコード付きの引き取りシートが出て来る。馬鹿みたいに簡単。デジタルシステムに弱い私には、わかりやすいコインロッカーの方がいいなあ、やっぱり。外国語に堪能だったらシステムの問題は関係ないのでしょうがね。

アムステルダム中央駅は東京駅のモデルになった。正面右の塔には時計、左は風向計。
ここはハウステンボス?

4月末なのに、気温は11度。アムステルダムはロンドンより北の町。駅前にはトラムがいくつも走っていたが、行き先も経路もわからないので、地図を頼りに歩き出すと、駅の前からすぐに絵はがきでお馴染みの運河の風景が始まる。ベネチアみたいだ。しかし道路はベネチアより広く、放射状に整然としているので迷うことはない。ベネチアでは地図を見ながら歩いても迷ってしまったからなあ。運河沿いに5階建てくらいの建物が整然と並ぶ。黒っぽいレンガ建てが多いのでベネチアほど繊細ではないのだが、運河がまるで道路のように張り巡らされているのには驚いた。運河の水面と道路の高さが近いのはベネチアのようだ。水の都を比較しながら、始めてのアムステルダムに既視感というか懐かしさを感じたのは、長崎のハウステンボスに何度か行った時の記憶からかも。いやはや、主客転倒だよなあ、参った。運河沿いの道路の一部には、ガードレールがないところもあって、(ハウステンボスでは考えられない)水面が近いので人やクルマが落ちても大事故にはならないのかもしれない、とはいえ落ちたくないな。少し広い道路では真ん中をトラムが走り、両脇をクルマ、そして自転車専用道、川沿いの危険なところが歩道になっている。つい、自転車道にはみ出して歩き、何度もあおられた。オランダでは自転車に注意しながら運河に落ちないように歩きましょう。

旧市街をトラムが縦横に走っている。1時間有効チケット2.7ユーロ。
絵本のような家、大きな窓、可愛い船、絵になるなあ。
運河は海に通じてそうだが、水は濁っている。汚れた町に白鳥が一羽。
4月下旬、ようやく芽吹いた街路樹。晴れる日は少ないらしい。
欲望の町

アムステルダムは運河沿いにきれいな家や船が並ぶ絵本のような町なのだが、見かけとは裏腹に欲望の町でもあるのだ。HEADSHOPとか COFFEE SHOPとか、静かな町の風景に溶け込んでいるのだが、実は大麻などを売る店だ。なにげに飾り窓もあるし。この国の事情は詳しく知らないが、こういうことに厳しい日本国民としては、やっぱり違和感を感じてしまう。コーヒーショップではない、普通のカフェかどうかを確かめて運河沿いの店に入った。昼ご飯にサンドイッチを注文する。やがて出てきたサンドイッチには、挟みきれない山盛りのハム。酪農の国だからチーズも美味しいのだが、パンが私の好みじゃないんだなあ。給食のパンとまでは言わないが(今どきの給食事情は知らない、私が小学生の頃です)、なんか熱意が感じられないのだな、オランダのパンは。ビールは軽くて美味しいと、同僚が褒めていましたが。お腹も出来て店を出ると、隣りはホテル・ヨーロッパでした。玄関に立派なドアマンが立っていたけれど、ホテルの建物はハウステンボスの方が立派に見えたけれど、どうなんだろう。

ちょっと寄って見るわけには行かない。脱法ではなく合法ハーブ有ります。
ハムもチーズも美味しいのに、パンがねえ、ビールは合格。
ホテル・ヨーロッパのドアマンは威風堂々、背が高くイケメンだった。
この街ではクルマより自転車の方が多いかも。