遠藤伸雄のAgenda Musicale ザルツブルクでレクイエムを歌って来ました!

(2010.09.29)

1年あまりのご無沙汰です。

知人からは、「遠藤さんのコラムを時々覗いて見ているのですが、相変わらずドヌーヴの哀しげな顔の写真ばかりで見飽きました。いつになったら更新されるのですか?」と叱れています。そこはカトリーヌの美しい姿に免じてご容赦を。彼女もあのシェルブール駅で歌っていたではありませんか?「いつまでも貴方を待っている……」と!

いきなり余談ですが、そのドヌーヴが先日開催されたヴェネチア国際映画祭にも出品した映画で、傾きかけた雨傘(!)製造会社の社長夫人役で主演しており、なんと岡チャンみたくジャージ姿でスクリーンに登場している、と言います。邦題『しあわせの雨傘』(2011年正月公開予定)。その「雨傘」工場は、もちろん彼女の出世作へのオマージュなのでしょう。フランス映画人のシャレたお遊びには敬服しますね!  http://movies.yahoo.co.jp/m2?ty=nd&id=20100905-00000007-flix-movi

さて、1年ぶりのコラムは、小生の「海外公演のレポート」です!!
ザルツブルク音楽祭が開催中の去る7月30日(金)夕刻に、作曲者の生地の大聖堂(Salzburger Dom)で行われたモーツアルトの「死者のためのミサ曲(レクイエム)K.626」(※注1) の公演にコーラス(モーツアルト祝祭合唱団 (MFCJ))のメンバー(Bs)の一員として出演しました。

W.A.モーツアルト作曲「レクイエムKV 626」演奏会
2010年7月30日 @ ザルツブルク大聖堂
all photos / naomichi ochiai

指揮は同大聖堂音楽監督ヤーノシュ・ツィフラ氏、管弦楽は同大聖堂管弦楽団、ソリストは、シャルロッテ・ピストール(S)、ベルナデッテ・フルヒ(A)、辻秀幸(T)、大門康彦(B)各氏。合唱は、我々日本から参加した総勢計111名のMFCJ(パート別割合では、ソプラノ約40%、アルト約40%、テナー10%、バス約10%と女声が圧倒的!)に、地元の同大聖堂聖歌隊のメンバーも加わり、150名を超える大コーラスとなりました。

各種音楽団体の海外公演の企画・アレンジメントで定評の高い旅行会社ラテーザ(※注2)が「ザルツブルク音楽祭で歌うモーツアルトのレクイエム・ツアー」と称して募集した臨時編成の合唱団MFCJには、東京周辺のアマチュア合唱団で日頃歌っている合唱好きが、多数参加しました。 その殆どは、今回ソリストを務めた辻、大門両先生がそれぞれ指導している団体のメンバー達で、筆者も所属している混声アンサンブル「ムジーク・フロイント」(※注3)の常任指揮者大門先生からお誘いを受け応募した次第。

大聖堂付設の専用練習場での初回練習風景。

そして、4月中旬の初回練習に参加して少し驚きました。小生はメンバーの中でも多分最高齢グループになるのでは? と思っていたのですが、とんでもない!大半が 60歳代後半以上の方々だったのです(「モーツアルト祝祭合唱団 (Mozart Festival Choir of Japan) 」と言うより、「立ち上がれ日本合唱団」と言った方がよいかも知れません)。最近の報道の通り、合唱に限らず様々な趣味の分野での、こういったいわゆる「熟年」層のパワーは凄まじいものがあります。

さて、一行は、モーツアルトのレクイエム歌唱経験者が多かったとは言え、4月~7月の10回を超える練習での両先生の熱心な御指導(数え切れない程の駄洒落を交えた、ラテン語歌詞の解説や楽曲分析など)のお陰でなんとかギリギリ纏まった仕上がり(と思います……)でザルツブルクに乗り込みました。

本番の指揮者ツィフラ氏との練習は、大聖堂でのゲネプロを含めわずか2回しかなく、主にフレージングの修正に重点が置かれました。つまり、4秒を上回る残響を持つ大聖堂内での演奏では、「各フレーズの最後をあまり伸ばさず、短く切れ」とのご指示。本番を翌日に控えて、とても重要なアーティキュレーションの変更に当初は戸惑ったのですが、さすが熟達のメンバー連、プローベの終盤では指揮者の要求にまずまず答えることが出来たようです(と思います……)。

本番前日のゲネプロ(総練習)風景。

そして本番。主催者側の発表では、当初の予想をはるかに上回る500名の聴衆の前での演奏、筆者自身は夢中で、ヨーロッパ屈指の大バロック建築である大聖堂の例の素晴らしい残響を楽しむ余裕もなく、客観的評価は難しいのですが、出来はまずまずだったようです。

国際色豊かなソリスト達。

詳細は、辻先生の愉快なブログ内の 「ザルツブルク音楽祭演奏旅行日記」をご覧下さい。

7月30日(金)の演奏会を終え、ほっとする間もなく、8月1日朝は、同大聖堂での日曜ミサの聖歌隊席に立ちました。ハイドンの「テレジア・ミサ」を歌うためです。

実は、筆者は正直のところ、レクイエムよりこのミサを歌う方を密かに楽しみにしていました。金曜日のような正式な演奏会という形で歌うのも良いのですが、ヨーロッパの聖堂での日常的な礼拝行事の中で、そのために作曲されたミサ曲を演奏するのは、とても貴重な機会です。それも、時はザルツブルク音楽祭の最中で、世界中の好楽家はもちろん、音楽祭出演中の著名な演奏家達も日曜礼拝に参列している可能性もあります。
「テレジア・ミサ」(全曲)の進行は司教様の説教の合間に演奏される、という本来の姿で行われました。演奏者総勢は、小オーケストラ(といっても、トランペットやティンパニも入る。指揮は、もちろんツィフラさん)及び我々合唱団(日本からの参加約30名に地元聖歌隊約20名)とソリスト4名というかなりの人数となります。普通の教会の聖歌隊席では、まず無理ですが、そこは欧州一、二を争う大きさのザルツブルク大聖堂の聖歌隊席(礼拝席の背後上部、大パイプオルガン及びオルガン奏者席が配置されているフロアー)のスペースは広く、まだまだ余裕がありました。

管弦楽、大オルガン(あの名手メッツィガーさん)、合唱が一体となって大聖堂一杯に広がる厳かかつ、ハイドン特有の晴朗な響きには、大聖堂上部の聖歌隊席で歌っている我々も格別な感動を覚えました。そして今回の練習及び本番を通じ、ハイドンのミサ曲の魅力を再認識出来たことも大きな収穫です。

新婚旅行以来31年ぶりに訪れたザルツブルクは相変わらずの可愛い街でした。31年前と異なる点は、祝祭大劇場の周辺と、当時全盛を極めていたカラヤンが、早や歴史上の人物となって生家の庭で銅像となって指揮していることぐらいでしょうか?
ザルツブルクは、特に音楽祭シーズンの夏場は観光客で溢れかえるのですが、次回は晩秋か冬場に、今回都合で連れて来れなかった家内と再訪したいと思います(いえ、別に無理して書いている訳ではありません!)。

最後に今回の事前練習及びツアーで大変お世話になりました大門康彦・辻秀幸両師匠、それに上月光社長(この方も合唱指揮者です)やヴェジタリアンの遠藤明さんはじめ(株)ラテーザのスタッフの皆様、カメラマンの落合直道さん及びモーツアルト祝祭合唱団のメンバー各位に篤く御礼申し上げます。

演奏会プログラム(部分)。※クリックで拡大

※注1
(音楽)業界人はモーツアルトのレクイエムを「モツレク」という略称で呼びますが、筆者は好みません。
フルトヴェングラーを「フルヴェン」、メンデルズゾーンのヴァイオリン・コンチェルトを「メンコン」とか、チャイコフスキーのそれを「チャイコン」とか言うのもいただけません。それじゃベートーヴェンのコンチェルトは「ベトコン」となってしまいます。

※注2
海外演奏旅行やオペラ・コンサート鑑賞ツアー等にご興味のある方は、下記にどうぞ。
http://www.lattesa.co.jp/

※注3
混声アンサンブル「ムジーク・フロイント」では、来る2010年12月19日に第3回定期演奏会(@池袋・明日館)を開催します。
詳細は⇒http://homepage3.nifty.com/musikfreund/3rd-concert.html
この演奏会に読者の方をご招待しますので、ご希望方は下記コメント欄にその旨明記の上、お申し込み下さい。先着5名様にご招待状を当日受付にて用意いたします。