遠藤伸雄のAgenda Musicale 「9月になれば」

(2008.09.09)
「猛暑の後はゲリラ豪雨」と大荒れの8月が終わり、9月に入り早1週間が経ちました。 

この季節になると毎年、「9月になれば」と「セプテンバー・ソング」、このアメリカンポップスの名曲2曲を想い出します(筆者よりもう少し若い世代(特に女性)でしたら、竹内まりやの「セプテンバー」でしょうか?)。

 

中学、高校時代の多感な頃、欧米のポップス(今で言うところの「洋楽」)の新曲をAMラジオの「ヒットパレード」番組で、夢中になって聴いていましたが、その頃、それらの番組の他に、「電話リクエスト」の番組があり、主にヒット・ポップスがオン・エアーされていました。

 

このいわゆる「電リク」番組では、リスナーが電話で簡単なメッセージをつけて、曲をリクエストをするのです。「A子さんからB男さんへ、『誕生日おめでとう』」とか「C夫さんからD子さんへ、『この前はありがとう』」といった具合ですが、流行りのラブソングのリクエストとともに、想いのたけのメッセージを託して、それとなく告白するといった手段にもしばしば使われていました。今と違って、携帯やメールのない、実に素朴で微笑ましい時代でした。

因みに、Wikipedia によると、日本の放送局で最初に「電リク」を始めたのは、1952年12月24日のラジオ神戸(現・ラジオ関西)、とのこと。筆者も良く「ラジ関」の「電リク」を聴いていました(今
でも数局のラジオで「電リク」はやっているようですが……)。

 

その「電話リクエスト」で、8月の終わりから9月の始めによくかかっていたのが、「9月になれば」と「セプテンバー・ソング」でした。

「9月になれば」は同名のアメリカ映画(1961年製作)のテーマ音楽で、同映画にも出演していたボビー・ダーリン作の軽快なインストルメンタル曲です。映画の原題 “Come September”の邦題「9月になれば」は、そのものズバリですが、なかなかシャレた訳でもあります。映画そのものは、当時人気のロック・ハドソンとジーナ・ロロブリジーダ主演の他愛のないロマンティック・コメディで、日本でヒットしたのかどうかあまり記憶が定かではありませんが、主題曲「9月になれば」(ボビー・ダーリン楽団やビリー・ボーン楽団)は、映画公開後もずっと人気があり、9月のテーマソングのように毎年ラジオから流れていました。

「8月の終わりから9月の始め」といえば、学生達にとっては、長い夏休みが終わり、新学期が始まろうかという頃で、去り行く夏への追慕と新しい学期への若干の期待感が入り混じった複雑な心境と、この曲が重なりあって、ロングヒットになったものと思われます。

 

「セプテンバー・ソング」の方は、ご承知の方も多勢いらっしゃると思いますが、しっとりとしたバラードで、今でもスタンダード・ナンバーとして良く聴かれます。フランク・シナトラやアンディ・ウイリアムス等のヴォーカリストの名唱もありますし、ジャズの方では、チェット・ベイカーやアート・ペッパーが好んで演奏していました。

この曲は、もともと1940年代にクルト・ワイルがブロードウェイ・ミュージカルのために作曲したものですが、アメリカ映画「旅愁」(1950年製作。主演ジョセフ・コットン&ジョーン・フォンテーン)の主題歌(ウォルター・ヒューストン歌)として転用され、ポピュラーになりました。映画の原題 “September Affair” にちなんで、使われたのでしょう。

ちなみに、「9月になれば」もこの「旅愁」も、イタリアを舞台にした映画で、偶然とは言え面白いですね。

 

「セプテンバー・ソング」の歌詞の内容は、以下拙抄訳ですが、

 

5月から12月までは長い日々だと思っていたのに、 

9月に入ると1日1日が短く過ぎて行く……

 

秋になると木の葉は色づきはじめ、君が僕に振り向くのを

を待っている時間は少なくなって行く……

 

9月……11月……と日々はだんだん稀少さを増していく……

この貴重な時間を君と過ごそう

この大切な日々を君と過ごそう ♬

 

といったもの。

 

もちろんティーンエイジャーの頃のリスニング能力(及び人生経験)では、歌詞の内容はわからなかったのですが、歌のサビの部分で、「September……November……」と盛り上がっていくメロディ・ラインが、大人っぽくてカッコよく、とても印象に残っています。

今あらためて聴くと、人生の初秋を迎えた筆者にとっては、身にしみる歌です。

 

ちょっぴりセンチになった(わー懐かしくも陳腐な表現!)ので、最後に愉快な話で締めましょう!

 

前記の「電話リクエスト」でのあるDJのトークです。

  「……ここでナイター速報が入りました。 

後楽園球場の巨人対太洋(現横浜ベイスターズ)は、4対0で巨人の勝ち。それでは、りクエストに戻って、『太陽がいっぱい(*)』をどうぞ!」

[(*)当時大ヒットしたアラン・ドロン主演の同名映画のテーマ曲)]

……お判りですか?『太洋が一敗』なのです……

(これ本当の話……と記憶しています……)

 

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『9月になれば』DVD 1,500円(税込み)/ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン