新岡淳のトラディショナル・コスチューム サクラ咲く。

(2010.03.16)

きものの世界では、もう定番と言って良い絵柄が松桐薄桜。
どれも季節を代表する植物。花札で言うところの「四光」。
その中でも特にこの国の人々に愛されるのが、桜ではないでしょうか。

花見という行事は、元々平安時代に貴族、皇族が梅を見ながら一句、梅を見ながらお酒を食べる 事から始まったという説が有力です。しかし武士の台頭に伴い、梅より満開の状態が華々しい桜が主流になったとか。
確かに梅の時期は野外の花々を見るには肌寒い……加えて、一気に花が開き、一気に花が散る桜には、諸行無常の生き様を、命の遣り取りとしていた武士階級には潔い と映ったのでしょう。

筆者自宅のさくらんぼ ソメイヨシノより約1ヶ月早い満開を迎えます ゴールデンウイーク頃にたくさんのサクランボの実を付けます。

確かに近年に於いても、桜の花の散りようを尊ぶ風潮が続いており、先の大戦時にも、我が命桜の如く と戦場に命を捧げる姿勢を評価されたりしたものだそうです。予科練のシンボルは、五つ釦に桜に錨 ですもの。

しかし桜の花は自己の子孫繁栄のため咲くもので、決して人のために咲く訳ではないのです。花は一瞬の期間に咲き散って行きますが、花を咲かせた木自体は枯れたりしないのですから。人はそれを知っているから花の散り際を賞賛できる。

どうも話がずれましたが、サクラです。

こちらは刺繍でサクラを表現。
桜モチーフの友禅。
雪輪の中にももちろんサクラ。

きもののモチーフになるのは冬のサクラや葉サクラではありません。7割が花を咲かせたピンク色で、残りが花びらが可憐に舞う姿。洋服でピンクを着るのには、かなりの勇気が必要ですが、きものであれば殆どの人が若い頃に母親、祖母の見立てで着たことがあるのではないでしょうか。
その華やかさに、サクラをモチーフにしたピンク色のきものにうっとりした筈。
そして他人にはなかなか言えないし、自分でも認めたくはないけれど、年齢を重ねた今でも憧れが残っているのでは?

きものに長年携わって来て本音を申し上げますと、美白が流行りの現代、年齢がいってもピンクのきものは似合うのですよ。色黒な方にはあまりお勧めしませんが、若い色の人 などと諦めずに昔のきものを取り出して着てみられると良いでしょう。体型が変わっていなければ……。

その時に是非裏物(八掛と胴裏)、特に八掛を今風に色に取り替えて見て下さい。あの前あわせがチラリと翻った時や、袖の内側に付いている裏地の事です。お値段はそんなに高くありませんので。

きものは季節先取り。サクラが咲き始める前にあなたのきもので季節の先取り。
とってもオシャレな自分が登場してくる筈です。
 

地紋にもサクラをあしらって。
サクラの花びらが舞っているきもの。