Creators 妄想→イラスト→チクチク。
ドールアーティスト、nuico。

(2011.04.04)

不気味な音が集まり生まれた不思議な生きもの「Dololo(ドロロ)」一家がテーマの『ドロロ狂想曲』、寂しい現代人の食事相手になる野菜のぬいぐるみ『FOODIES』、友達のいない女の子Tiludaの妄想ストーリー『Even April can’t fool Tiluda – ティルダのキテレツ妄想30日間-』など、自由なイマジネーションによりファンタスティックな世界を作り出すドールアーティストnuico。

これまでに、ファッションブランド20,000,000 fragmentsのヤングアーティストコラボレーションとして、表参道のセレクトショップ『LOVELESS』のウィンドウディスプレイに携わり、ファッションブランド『YAB-YUM』の 渋谷パルコストアリニューアルの際には、マネキンドールを特別に制作。2009年には、『omoh gallery』にて開催されたグループ展への参加、『LAMP harajuku gallery』での初個展、青山の『YOKe hair』での展示『もじゃもじゃ髭のある男(ヒト)』など。さらには2010年、伊勢丹新宿店にて開催されたチャリティキャンペーン『19 Animals x 13 Artists』に参加し、極東ロシアの沿海州の森で暮らす動植物をモチーフにした作品を製作。新宿店本館ウィンドウで展示されるなど作家としても精力的に活動を行ってきました。

Doll Artist(人形作家)
nuico(ぬいこ)

1984年福岡県生まれ。2008年武蔵野美術大学空間演出デザイン学科ファッションコース卒業。ぬいぐるみの手法を使った彫刻的な立体作品や、物語性のある空間演出を手掛け、制作は全て手作り。テーマやストーリー、人形の性格に合わせて生地、ボタン、レース、ビーズ等を選ぶ。縫い目やカタチは時に不細工な事もあるが、その『不完全さ』が個々の作品に個性と感情を与える。
http://www.nuico.info/


ファッションコースから人形作家と人形作家へ
ー人形作家というと、彫刻や立体製作からスタートする人が多いというイメージですが、nuicoさんはファッションを勉強しドール作りへ進んだそうですね。経歴を教えてください。

武蔵野美術大学空間演出デザイン学科ファッションコースを2008年卒業しました。ファッション専攻でも、服は作らず、ずっと人形を作っていました。ファッションコース担当はパトリック•ライアン教授で「YAB-YUM(ヤブヤム)」のデザイナーでもある人物でした。とてもおしゃれで素晴らしいバランス感覚を持った人でしたので、その感覚的なバランスの取り方を学びました。

大学4年生の時、就職できず困っていました。そしてその頃インターンでお世話になっていた会社を卒業する時、社長にポートフォリオをみせたら、「お前が望んでいる様な仕事は存在しない! やりたいことをするなら自分でやれ」といわれ、ディスプレイの仕事をくれました。それが一番最初のお仕事でした。それからこれが自分に出来る事と思って人形制作を続けています。

卒業後、友人たちとアートとファッションのギャラリーショップ『homo-Faber(ホモフェイバー)』を作って共同経営をしていました。そして2009年からは『nuico』として1人で活動を始めました。

ちょっとコワイキャラクターは場所を妄想することから
手作り作品の丁寧さはともすると暑苦しく押し付けがましくなることがありますが、nuicoさんのドール作品が少しとんがったセンスでおしゃれなのはファッションコース出身のバランスのよさなのですね。さてnuicoさんのカワイイけどちょっとコワイキャラクターがいっぱいですね。これらのキャラクターはいったいどこから生まれてくるのでしょうか?

ドールを作るときは、最初からキャラクターを想像するのではなく、まず場所を妄想します。場所から物語を妄想します。それからその物語に登場する人物、キャラクター妄想します。そして、イラストを起こしていきます。さらに、それらの人物が頭の中にリアルに存在する生き物になるまでもっていきます。そしてそれらの生き物のイメージに合う布を探しに行きます。そして、人形作りにかかります。

ー「妄想が創造の母」といったところでしょうか……。イラスト化後、リアルに存在する生き物にまで頭の中で育てて、ドール素材を選ぶ、というとところが興味深いですね。イラスト、ドール製作に使う道具でお気に入りがあったら教えてください。

かっちりとしたイラストを描くときに使うのは『PILOT』のHI-TEC0.5です。人形のフォルムを決めていくときは、柔らかなラインが描ける色鉛筆を使うのが好きです。

布を裁断するのに愛用しているのは『cocca』で買った金の裁ちバサミです。そして、ドールに綿を詰める時に使うのは、初めて買ったミシンについていた、おまけのマイナスドライバー。高級な道具とかではないですが、何となく使いやすいものを何となく使っています。

エンターテイナーのように人を楽しませ、見た人に想像力を与える作家に

将来はどのようなアーティストになりたいですか? 尊敬するアーティストは?

尊敬しているのは子どもの頃からずっと、宮崎駿さんです。子どももおとなも、みんなワクワクしたりドキドキ出来て、見る度に新しい発見がある。その発見から気づかないうちに学んでいる事もたくさんありました。エンターテイナーのように、人を楽しませ、見た人に想像力を与える事ができる作家に憧れます。

作品を見てくれた人が、イマジネーションを膨らませ、その人なりの物語や想像力を作品にプラスする事によって、作品の世界観がどんどん無限に広がっていく……そんな事が出来ると素敵だなと思っています。うまく言えないけど、見た人に寄り添う様な作品づくりをしていきたいです。

私はアーティストという程強い何かを発信する自信もないし、不器用なのでスマートには振る舞えない。どちらかと言えば、野暮ったい印象を与えるかもしれないけれど、作る側も見る側もきちんと気持ちがぶつかるような作品を作っていきたいです。

繊細な線描と、幻想的なカラーで、オリジナルのキャクターをイラストレーション化。ここまでは巷のイラストレーターもやっていることであるが、それをさらに、物語に質感を与える生地、物語の重要な記号となりうるパーツ、縫製でカタチあるものにするセンスとテクニックを持ち合わせている。驚きである。「縫い子」である。

オリジナルなファンタジーをカタチにする情熱と、確かなる手作業のワザを持ちあわせた、21世紀の本物のアーティストのひとりである、と観察しました。