仲原かおるのスローキャリアのすすめ 「世界の絵本読み聞かせ&子育て研究会」 World Reads for Children Project エリトリア編

(2010.11.16)

来日して6年『男はつらいよ』が大好きだという駐日エリトリア国大使エスティファノス・アフォワキ氏に大使公邸でお話を伺いました。

 

主催している「世界の絵本読み聞かせ&子育て研究会」・World Reads for Children Projectは各国駐日大使館の協力を得て、各国の子育てについて聞きます。取材にはもうすぐ2歳になる息子も同行。実際に大使から現地語での絵本読み聞かせや、子守唄・遊び歌を聞かせてもらったり、おやつをいただいたりしています。

今回はエリトリア大使公邸で駐日エリトリア国大使エスティファノス・アフォワキ氏にお話を伺いました。民族衣装も着せてもらい、読み聞かせ、素敵なランチ&おやつ、コーヒーセレモニー、歌の紹介もありとても有意義な一日でした!

エリトリア国旗色である緑、明るい青、赤、金色を使ったアクセサリーや伝統楽器の小物、珍しいエリトリア産ワインなどのプレゼントもありますのでお楽しみに!

上質なコットンの生産地でもあるエリトリアの民族衣装は手織りで白くガーゼのようにふわふわの布でできています。女性の服には刺繍が施されています。

 
エリトリアとは?

TV旅番組ディレクターをしていた頃、魅力的だが日本人があまり知らない国を探していた時にいいなあと思ったのが、エリトリアでした。アメリカで大学生だった頃のルームメイトの一人もエリトリア人でした。エリトリアはアフリカで一番若い独立国。優秀な長距離ランナーも多く、3月7日のびわ湖マラソンでエリトリア人のアブラハム・タデッセ選手が3位入賞しています。また、先史時代まで遡る考古学遺跡群、地理的そして歴史的な環境による民族の多様さ、アールデコ様式の建築群による首都アスマラの町並みの美しさ、2時間のドライブで3つの季節を体験できるという気候の豊かさ、フレンドリーかつ礼儀正しい国民性、紅海でのさんご礁ダイビングができたり、火山があったり・・・・・・観光的魅力に溢れています。

北東アフリカの紅海南東部に位置し、日本との時差は-6時間。ジブチ、エチオピア、スーダンに国境を接しています。

エリトリアの写真や詳しい歴史や観光情報はエリトリア大使館HPを参照下さい。国歌も聞けます! 

 
エリトリア基本情報

国名:エリトリア国 The State of Eritrea
首都:アスマラ
人口:2006年度推定4,670,000人
言語:英語、アラビア語、ティグリーニャ語 等
通貨:ナクファ 1ナクファ=約6円(2009年7月時点)
トリビア:1993年5月24日に、約30年間続いた独立戦争を経てエチオピアから独立
ホームページ: http://www.eritreaembassy-japan.org/index.html

 

エリトリアの首都アスマラ ハルネット通り。
海岸地方の村で。写真提供 / エリトリア大使館

 

エリトリアの童話『黄金を愛した王』を公用語・ティグリーニャ語で読み聞かせ。

エリトリアは文字が誕生する前から口承文学の伝統がある国。祖父母や親が子供に20代前までの祖先の話を聞かせるのが習慣なのだそうです! 宗教よりお墓や神社など祖先崇拝色の強い日本でも20代前のご先祖様がどんな人だったか知っている日本人は殆どいないと思います。大使自身もそういうお話を聞かされて育ったそう。エリトリアでは家族の繋がりを大切にし、子供にお話を聞かせるのが文化として定着しているのだそうです。

大使自ら『黄金を愛した王』をエリトリアの公用語・ティグリーニャ語で読み聞かせして下さいました。大使の声はとても深くて素敵な声でした。息子は勿論、私もティグリーニャ語を見るのも聴くのも初めて!
 

大使自身も小さい頃に親しんだという44の話がおさめられている本です。エリトリアでは子供が最初に読む本の定番だといいます。
訪問する前、まだ2歳にならない息子が、初めて会う大人からの読み聞かせをちゃんと聞いてくれるか心配していました。でも取り越し苦労でした! ティグリーニャ文字を指差しながら、とっても熱心に聞いていました!!

 
『黄金を愛した王』  ティグリーニャ語で「ウェルキ・ジファトゥ・ヌグス」

あらすじ:黄金が大好きな王様がいました。「触れるもの全てが黄金に変わりますように!」と神様にお願いし、願いは聞き入れられました。野原で美しい花に触れると黄金に、着替えようとして服に触ると黄金に、お腹がすいたので食事をしようとするとパンも黄金に、そしてついには娘を抱きかかえようとすると娘まで黄金に変わってしまいました。嘆き悲しんだ王は全てを元に戻してくれるよう神に祈り、願いは聞き入れられました。王は黄金よりも大切なものが沢山ある事を感じ、それらをこれまで以上に大切するようになりましたとさ。めでたし、めでたし。

ティグリーニャ語はアラビア語に似ている気もしましたが、なんともいえない聞いたことない感じです。「黄金よりも大切なものは常に身近にある」という戒めのお話でした。日本の昔話にも同じようなお話はありそうですね。

 

お話をしてくれたのは『男はつらいよ』が大好きな、エスティファノス大使。

エスティファノス・アフォワキ大使 知的で穏やかな印象しかし独立運動に身を投じた元革命家で、混迷を極めた時代に投獄された事もあったそう。「自分より大切な存在、家族を持つと人は守りに入ります。だから、結婚後は派手な政治活動はしなくなりました」実は映画『男はつらいよ』の大ファン。「初めて見た時はあまりの面白さに2時間笑いっぱなし。あのジョーク感覚はエリトリア人は皆大好きなはず。ぜひエリトリアで放送して欲しい。」希望が叶うといいですね。映画関係者はぜひエリトリア大使館にご連絡を!

 

エリトリアの典型的なコーヒーの飲み方を体験。

コミュニティーの結束を深める大切な伝統、コーヒーセレモニー『ブーン』を体験させて頂きました。

現地から持ってきたという道具一式を使った本格的なコーヒーセレモニー『ブーン』。「ブーン」とはコーヒーという意味。

まるで日本の茶道のように手順があるコーヒーセレモニー。

1.豆を炒る前に、乳香を焚き、皆で香りを楽しみます。
2.コーヒー豆を生豆から炒る
3. お客様が炒ったコーヒー豆の匂いをかいで、その色を見る。
コーヒー豆を挽く
4.特別のポットに入れてコーヒーをゆっくり沸かす。
5.コーヒーを小さなカップに入れて頂く。最低三杯おかわりするのが慣わし。

 
カップも小さく、コーヒーは薄めなので3杯といっても、量は大きめのコーヒーカップ一杯分くらい。エリトリアではお昼ごはんの後はゆったりと近所の皆でコーヒーを飲み、噂話や相談事をするのが生活の一部なのだそうです。真似したいスローライフ習慣ですね。昔茶道を習っていた時、お湯の沸く音を聞きながら立ち上る湯気を眺め、先生の所作を見ていると、とても心が落ち着きました。コーヒーセレモニーにも同じような感覚を覚えました。

そのほかエリトリアの典型的な子供のおやつを頂きました。全粒粉で作られたお餅のような「ガアット」と、イースト醗酵パンの「ハンバシャ」です。レシピは大使館のHP料理コーナーでどうぞ。
 

お茶菓子としていただいたエリトリアのお菓子。左はガアット、練った全粒粉の形を整えて、マイルド・ベレベレという真ん中の調味料(辛そうな色ですがほとんど味はしない!)と周囲のヨーグルトをかけていただきます。もちっとした食感で、きわめて薄味のデザートです。右はシンプルなマッシュポテト、離乳食のような感じ。
 
イースト醗酵パンの「ハンバシャ」は、ほんのり甘くてとっても美味!!息子も自分の顔の半分くらいはあろうかという一切れを完食してしまいました。日本の近所のスーパーで手に入る材料とフライパンでできてしまうそうなので、レシピを参考に皆さんもぜひご家庭で作ってみて下さい。

 

エスティファノス大使に訊くエリトリアの子育て。

おいしいコーヒーとお菓子をいただいたあと、可愛い子どもたちにエリトリアの人々はどのように接しているのか? エリトリアの子育てを大使に質問してみました。

 

(英語)children should be raised in the community.
(日本語)子供は地域全体で育てられるべき。

エリトリアでは子供を地域が育てるのが常識なのだそうです。「日本だとこの家の子が隣の家に勝手に上がり込んだりしたらおかしいですが、エリトリアではそれが普通なのです」と大使。日本では、「他人に迷惑をかけない、他人からも迷惑をかけられたくない」という風潮もあってか、最近は子供を見守ったり注意してくれる大人も少なくなってしまいました。それが子供の「オレ様化」に繋がっているような気もします。日本の会社や社会の仕組みから言って、特に核家族の都会の子供は母子家庭で育っているようなもの。近所づきあいの煩わしさが無くなった分、親子の孤立化は進んでいる気もします。

そしてドイツの大学で学んでいる20代の娘の父親でもある大使に、ご自身のお子さんに何を望むのか聞いてみました。

I just want her to be herself. I never tell her to do something or be someone. My family never did that to me either.
娘には彼女自身であって欲しい。何かしなさいとかこうなりなさいなどと言った事はないし、私自身の親もそうはしませんでした。

子供が成人してしまっても親にとって子供はいくつになっても「我が子」。良かれと思って、ついついあれこれ口をだし手助けもしてやりたくなってしまうものだと思うのです。放任でもなく過保護ではないバランスって難しそう。過干渉にならないよう私も気をつけなくっちゃ!

 

エリトリアのリサイクル工房で働く少年。写真提供 / エリトリア大使館

 

エリトリア大使公邸での読み聞かせ会を終えて。

子供に、世界には日本以外にもたくさん国があるのよ、と教えることも大事ですが、実際にその国の人に会って、その国の子供達が親しんでいるお話をその国の言葉で語ってもらう。おやつを一緒に食べたり、笑い合ったり、という同じ時間を過ごすことは、「知識以上の何か」を子供は感じ取るのではないでしょうか。