桂真菜の演劇ダンス道 20世紀に進化したバレエ、スタイルの違う名作3本が同時に見られる!

(2010.10.11)

動物を見て思わず微笑む、そんな経験は多くのかたがお持ちでしょう。澄んだ瞳や敏捷な仕草が、人類の内部に息づく野生を刺激するせいかしら。動物をモティーフにした踊りも、愛されているわ。白鳥はじめ、多くの生きものが振付家にインスピレーションを与えてきました。その伝統を驚くべき作品に結晶させたのが、新国立劇場の舞踊芸術監督デヴィッド・ビントレー。

ウェイター姿のペンギンは、ユーモアたっぷり。Photo / Bill Cooper

ビントレー振付の『ペンギン・カフェ』は観客をファッショナブルな演出でわくわくさせつつ、静かな哀しみに浸らせていくの。素敵なコスチュームに身を包んだ鳥獣は、それぞれの特性を生かしたムーヴメントで観客を魅了。でも、ユーモラスに祝祭を繰り広げる動物たちは、いずれも絶滅の危機にさらされていた……。愉快なステージは、動物と人間が共存するハーモニーの尊さを語りかけます。
 

ユタのオオツノヒツジは、ショーダンサーの香り。Photo / Bill Cooper
テキサスのカンガルーネズミは、子供に大人気。Photo / Bill Cooper

 
躍動する地球の仲間たち、もう消えないで……。祈りにも似た思いに私たちを導くパワーは、かつてペンギン・カフェ・オーケストラを率いたサイモン・ジェフェス作曲の音楽にも宿っています。振付に応じアレンジしたものを、東京フィルハーモニー交響楽団が演奏。観客を陶酔させながら大切なメッセージを届ける『ペンギン・カフェ』は1988年の初演から22年たつ今、より深いレベルで輝くでしょう。

豚鼻スカンクにつくノミは、シャープに動く。 Photo / Roy Smiljanic

そのうえ、この公演は豪華3本立て。フォーキン振付『火の鳥』とバランシン振付『シンフォニー・イン・C』も同時に見られちゃう! 民話からインスピレーションを得た『火の鳥』と物語なしで音楽を視覚化した『シンフォニー・イン・C』は、情熱の炎うずまく具象画とクールな抽象画を見較べるような楽しさ。2本とも、ロシア生まれの偉大な振付家たちの代表作です。フォーキンとバランシンは20世紀前半に、バレエ・リュスの創設者ディアギレフに協力。『火の鳥』の音楽はストラヴィンスキー、『シンフォニー・イン・C』の音楽はビゼー。ロシアの芸術家たちは国境を越えて当時の最先端アートと出会い、シアターアーツ全体に影響を与える変革を起こしました。21世紀の現在、日本に赴いたビントレーも、社会をおびやかす問題や急展開する文明に向き合いつつ、新国立バレエ団とともに画期的な表現を目指します。

 

ビントレー振付『ペンギンカフェ』
同時上演
バランシン振付『シンフォニー インC』
フォーキン振付『火の鳥』

日時:2010年10月27(水)、28(木)、30(土)、31(日)、11月2(火)、3(水)日
*土、日祝は14時、平日は19時開演
会場:新国立劇場(初台)
http://www.nntt.jac.go.jp/
Tel. Box Office:03-5352-9999、問い合わせ 03-5351-3011