加納忠幸のワイン飲もうよ 日本人が演じる『サイドウェイズ』。

(2009.08.20)

『サイドウェイ』と聞いてピンと来る方は、
かなり映画好きで、ワイン好きの方だと思います。

2004年製作のアメリカ映画、『SIDEWAYS』は、
二人の中年男性コンビがカリフォルニアのワイナリーを珍道中する話で、
ワインのテイスティングやうんちくあり、恋愛話ありといったコメディで、
見た後大変ハッピーな気分になれた映画でした。

ゴールデングローブ賞ほか、数々の賞に輝き、
第77回アカデミー賞では4部門でノミネートされ、
脚本賞でオスカーを獲得した名作です。

私がこの映画を見たとき、
「日本でこんな楽しい映画が撮れたらいいのにな」と思っていたものですが、
なんと、日本人が主役でこの映画のリメイク版がつくられたのです。

映画のタイトルは

『サイドウェイズ』
オリジナルの日本語タイトル『サイドウェイ』に「ズ」をつけたタイトルで、
先日、試写を見る機会があり、20世紀フォックスの試写室へ行ってきました。

この映画のプロデューサーは「踊る大走査線」の亀山千広さん。
オリジナルを見て「大人の客が楽しめる大人の青春映画」という感想を持ち、
どうして日本にはこのような映画がないのかということから
企画が始まったのだそうです。

リメイクの話を20世紀フォックスに持ち込んだところ、
とんとん拍子で話が進み、オールカリフォルニアロケ、
オールハリウッドスタッフで映画を作ることになったのだとか。

映画は留学時代の親友・大介(生瀬勝久)の結婚式に出席するため
道雄(小日向文世)がロスアンゼルス空港に到着するところから始まります。

大介は結婚式までの1週間、独身最後の楽しみのため
ラスベガスへ遊びに行くのに道雄を付きあわせたいと思っていますが
道雄はカリフォルニアのワイナリーめぐりをしたい。

そんなこんながあって結局行き先はラスベガスではなくナパへ行くことに。

そこでオリジナルとちょっと異なるのが、
オリジナルではツアーに出かける車の中でスパークリングワインを抜き、
乾杯をして飲み始めてしまうのですが、
さすがに今の日本ではそれは認められません。

大介は運転手役に徹し、
試飲したワインもきちんと全て吐き出していました。
また、他の場面でも飲んだ人は決して運転をしていません。

最初の夜に食事に寄ったレストランで、
二人は留学時代に道雄が家庭教師をしていた、
麻有子(鈴木京香)がナパに居ると知り、再会します。
道雄は当時鈴木に淡い恋心をいだいていました。

映画の中で、麻有子は現在ナパのワインショップと、
私の大好きなフロッグス・リープ・ワイナリーで働いています。
麻有子と一緒にいた友達のミナ(菊地凛子)は、
絵の勉強をしながらカフェのウエイトレスをしている日系人。

大介はレストランマネージャーの前、俳優をしていた自分を
知っているミナを口説き始めますが……。

こちらは小日向さんと、鈴木さんのシーン。

映画の中で、二人はワインのたとえ話をします。
麻有子は、カベルネが好き。
道雄はピノ・ノワールが好き。
なぜか? ワインの特徴を捉えた、それぞれの理由とは?
是非、映画を観て確かめてほしい。

結婚を隠したまま口説いている大介はミナと大接近。どうなるのか?

こちらは、オリジナルではポスターにもなったピクニックのシーン。
ぶどう畑の真ん中でのピクニックは、
この映画を見た人なら誰しもあこがれてしまうでしょう。
(ちなみにドライバーのミナ〈菊地凛子〉だけワインを飲んでいません。)

このような形で、色々なワイナリーが観光案内のように出てきながら
話が進んでいきます。

私が驚いたのは、
主人公が日本人のためその位置づけだけがちょっと異なるものの、
オリジナルを大変忠実になぞって話が進んでいるところ。

オリジナルの脚本が、アカデミー賞でオスカーを獲得するほど
優れた脚本だったので、これだけ忠実になぞったのでしょうか。
ただ、それが全然不自然なところがなくできあがっています。

映画の大道具、小道具にも気になるものがたくさんありました。

大介が最初に空港へ向かえに現れる車が、レクサス。
麻有子が乗っている黄色い4WDの可愛い車もトヨタ。
トヨタの協力があるようです。

それでもナパへドライブに出かける車は
フォード・マスタングのかなりくたびれたオープンカー。
留学時代にホストファミリーの家にあった車という設定。

もう一つ面白かったのが、iPhone.
主演4人の内、大介と麻有子2人がiPhone使いでした。
アメリカではそんなにiPhoneがはやっているのかな。

それと、更に注目したいのはミナ役・菊地凛子さんがすごく良い。
今まで彼女が出演した映画を見たことがなかったのですが、
ベテランの俳優陣の中に一人入って生き生きとした演技をしており、
画面にリズムを与えていました。

いっぺんに菊地凛子ファンになってしまいました。

さて、映画としてはプロデューサーの亀山千広さんが求めた、
「大人の客が楽しめる大人の青春映画」が、
見事に実現できている楽しい映画だと思います。

アラフォー世代がメインターゲットだと思いますが、
アラフィフの私でも「そうそう」とか「あるある」と思って
思わず笑ってしまったり、感情移入してしまったりする場面が
映画のアチコチにちりばめられており、
見終わった後も、オリジナルと同じく大変ハッピーな気分になることができました。

これは今年の映画の中でも、
かなり出来の良い映画なのではないでしょうか。
ワイン好きの方にも、そうではない方にもオススメ。
この映画を見れば、ワインを好きになること間違いなしです。

私がただ一つ残念だったのは、
映画のロケが日本でなくカリフォルニアだったこと。
確かに今の日本ではこの映画を撮ることができる
絵になるワイナリーや雄大な景色がないのかもしれません。

近い将来、日本を舞台に、
第3のリメイクができることを望みます。

 
『サイドウェイズ』

2009年10月10月全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画