田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》 紫陽花を見に、
極楽寺あたりまで。

(2012.07.13)

梅雨の真ん中で

梅雨に入った頃だったか、テレビのニュースで鎌倉の紫陽花見物ルポをやっていた。それが有名な明月院とかじゃなく、由比ケ浜から超望遠レンズで撮った映像で、一直線の階段の両側に並木のように整列した紫陽花が見事で、ああ、行ってみたいなと思った。たぶん極楽寺の切り通しあたりじゃないかと見当は付けたものの、行けないまま6月が終わった。7月になり、私は定年退職の身分、先月とは違っていつでも何処にでも自由に行ける。そうなればなったで、毎日ぐうたら過ごしてしまいがちなのだが、まずは身近なところからと、カメラを持って鎌倉の極楽寺まで散歩することにした。もちろん、あの紫陽花の坂道の映像を確かめるために。

極楽寺山門前にちょっとだけ紫陽花が。
海の遠足

鎌倉までバスで行き江ノ電に乗って、と考えたが、砂浜を材木座から由比ケ浜まで歩いて行くことにした。誰と約束したわけでもないし、一人気ままに、思いつくまま。由比ケ浜では7月1日に海開きをやっていた。警察のブラスバンドも繰り出してオープニングを祝っていたのだが、今にも降り出しそうな梅雨空にトロンボーンの音色も湿りがちだった。この日は明るい梅雨空、雨の心配はないが蒸し暑い。海の家はまだあちこち建築中だし、平日ということもあって海水浴客の姿は見えない。潮が引いて広くなった砂浜を元気に歩いていたら、アリの行列のような小学生の一団が見えた。小学生たちは滑川までくるとリュックを砂浜に置いて、砂遊びに取りかかった。遠足だったのかな、おじさんも遠足だよ、一人だけどね。海の遠足って、いいなあ。

由比ケ浜から134号線にあがると、地下駐車場の上の公園は緑がきれいなシロツメクサの丘になっていた。植樹したり花壇を作ったりするより、シンプルで素敵な公園だ、こういうの好きだなあ。でも少し考えたら、海沿いは潮風が強くて砂も飛んでくるし、クローバーぐらいしか生育出来ないのかもしれない。私のマンションのベランダの白いバラも、先日の季節外れの台風4号の強風と潮風で大被害を受けたしなあ。海の近くに暮らすのは気持ちいいけど、いろいろ大変なこともあるんです。住んでみないとわからない。

海の遠足、楽しそうだな。
クローバーの丘、見てるだけでスキップしたくなる。
湘南の夏祭り

和田塚駅で江ノ電に乗り、由比ケ浜、長谷、そして三つ目の極楽寺で降りる。単線なので、電車に乗ってる時間より待ってる時間の方が長い。が、私は時間を気にしない身分になったので、そんなこと全く問題ない。トンネルを抜けた谷底にある地獄と呼ぶ方が似つかわしい極楽寺駅を出て、坂を上り、線路の橋を渡るとすぐ右手に導地蔵堂があった。引き込まれるようにお堂の中を覗くと、山車に載せる武者人形と飾り幕が陳列してあった。お堂で暇そうにしていたおじさんに話しかけたら、今度の日曜が本祭りで、人形はめったに見れないからアンタはラッキーだ、と応えが返って来た。江ノ島でも同じ日に神輿が出るそうだし、そういえば逗子小坪でも14日からの夏祭りの準備で笛や太鼓の練習が始まった。七夕が過ぎればもう夏だ、梅雨も終わり。

地蔵堂を後に、すぐ隣の極楽寺もさっと歩いて(境内には撮影禁止の札が立っている、紫陽花を撮ろうと思ったのだが残念)海に降りる切り通しの坂へ向かう。道路に平行して成就院へ向かう参道があったので上ってみた。山門をくぐり切り通しの上に出ると突然、海が見えた。テレビで見覚えのある映像を反対側から見ていることに気がつく。長い坂道が遠近法のように続いて、消失点の向こうには海と由比ケ浜が広がる絶景なのだが、肝心の紫陽花が、ない。根元からきれいさっぱり刈り取られていた。遅かりし由比ケ浜。悔しいけどしょうがない。ない花は見れぬ。また、来年くればいいか、紫陽花は毎年咲くし。


左・極楽寺の向かい、地蔵堂には夏祭りの提灯が。
右・紫陽花が切り落とされた、ただの坂。切り通しの正面は由比ケ浜。

左・成就院の境内にはハマナスの花が咲いてた。
右・成就院にはハマユウの花も。海の寺だなあ。
花より団子

切り通しを坂ノ下(これ、地名です。鎌倉にはこんな普通名詞が地名になる例が多い。四ツ角とか、岐れ道とか)まで降りて行くと、甘党の私でなくてもフラッと入りたくなる店構えの饅頭屋があるので、フラッと入る。昔の様子は知らないが、昔のままの陳列棚に、あんこ餅が並んでいる。たいして歩いたわけでもないが、「力餅」という名のあんこ餅を買ってしまう。まだ糖尿病の恐れはないので全く問題ないのだが、なぜか言い訳するような買い方をするのは、よくない、きっぱり買うように心がけよう。長谷まで来たから長谷寺へ行って、眺めのいい食堂で坊さんがサービスしてくれる「お寺のカレー」でも食べようかというアイデアが浮かんだが、すでに地蔵堂と、極楽寺、成就院、三つもお参りしたから寺はもうやめて、江ノ電で鎌倉へ戻り、西口のトンカツ屋に入ったのでした。


坂ノ下のポストに寄り添う紫陽花は赤くなって。


左・饅頭屋の店内は、時間も休んでるようだ。
右・切り通しを下りたら甘いもので一休み。