向後千里のArt Life お酒がおいしい季節。目黒の大鳥神社、酉の市へ。

(2009.11.23)

独立した年に友人に誘われ、今では20年近く続く年中行事となったのが酉の市詣で。年々熊手を大きくすると会社も育つと言われて始めた。値切ったり江戸っ子らしくご祝儀を気前よくふるまったりする。そんなやり取りの後、3本締めで威勢よく締めてもらう。これが結構心にしみて、いつも初心に帰る気がする。で、今年は酉の日が11月12日と24日の2度しかない。こういう年は苦労する。友人とスケジュールを何とかやりくりして結局12日、一の酉の午前中、目黒の大鳥神社に出かけた。

目黒・大鳥神社の酉の市。
おかめさんの顔にしめ縄のまかれているナチュラルなものを購入。アトリエ玄関奥のいつもの場所に祀る。

 
さて、酉の市の頃においしくなってくるのが日本酒。秋の味覚とともにいただく日本酒は味わい深い。寒仕込みの味が落ち着いてくるのもこの頃。ここ数年日本酒に御縁があり度々酒蔵に足を運んでいる。特に今年は四国のお酒を飲む機会に恵まれ、ちょっと四国のお酒好き。でも残念ながら東京ではほとんどお目にかかれず、地元と関西圏で消費されているというのだから、もったいない話だ。

例えば、愛媛には“しずく媛”がある。愛媛県が開発した酒造好適米でつくられたお酒で、統一ブランドとして今年の4月に各酒蔵さんから出たばかりのもの。名前のようにほのかに甘くやわらかい感じが飲みやすく、ゆるゆるとした気分を醸す。とはいえ各酒蔵さんで味が異なる。それが日本酒のおもしろさでもある。

お隣の香川に行くと“さぬきよい米”という酒米が作られている。金毘羅詣でに行きがてら立ち寄るなら“西野金綾”さん。金毘羅宮のお神酒をつくる酒蔵さんでもあり、お酒のできる工程を資料館で見ることができるからだ。ここのお酒はちょっと男前。きりっとした感じで日本酒好きにはグッとくる。

思いがけない味だったのが徳島県産山田錦でつくった“穴吹川”。吉野川に流れ込む源流水は四国一の清流で、その水質の高さがみずみずしく爽やかな旨みのお酒に。そう、ついつい飲んでしまううまく造られたお酒である。もう1本、徳島の山廃仕込み“鳴門鯛”。鉄板焼のお肉をいただくなら、NYのソムリエに絶賛されたというこのお酒もおもしろい。

最後に高知。詩人・大町桂月にちなんだ“桂月”。酒米“吟の夢”で造られた昔ながらのバランスのとれた上品な味わいで…と、たくさんある四国のお酒の一部ではあるが、今回「風花」で味わえる純米酒はなかなかの顔ぶれ。讃岐漆器や砥部焼、焼き〆の大谷焼など地元の器でいただくと、四国の豊かな風景がより一層目に浮かぶ。秋の夜長、お酒好きを誘ってゆるゆると行きたいものだと思う。

金毘羅街道沿いの讃岐の西野金陵さん。古くから造り酒屋専用の印、杉の葉で作られた
丸い球「酒林(さかばやし)」がかかる。