北原徹のバカ買い! Smells Like Teen Spirit - 35 - 日本酒の流儀。騎士道のようなスタイリング。『美酒の設計』。

(2009.11.26)

日本酒をぬる燗で飲(や)る。
徳利から猪口に注ぐとき、ちゅうちょしてはいけない。思い切りよく注がないと、どうにもキレがない。徳利をつたって、だらだらとちゃぶ台の上に垂れるのはよろしくない。

潔さを求められる、まさに武士の酒なのではないか、と思うのは、所作にムダのない動きが必要だからだと思う。

作り手にも気合いを含め、まるで魂の動作でもあるのだろうか、人間を越えたものだけが作りえる、それが“酒”。

旨い日本酒に巡り合う困難。

日本酒はブランドではなく、作り手の発信する研ぎ澄まされた精神とでも言えばよいのだろうか? 徳利から猪口に、もしくは一升瓶からコップに注がれた、上質な日本酒を口に運ぶ。口から鼻に抜け広がる芳ぐわしい、複雑な香り。米と水、米麹……醗酵の産み出す神秘は、味わいを越えて官能で感じる最大級の道楽。

全身を身ぶるいさせるような快感を与えられてくれる日本酒は年に数回でいい。本物に出会う瞬間はすべからく自己演出さえ要求される。精神を持って作り上がられた“作品”に対峙するとき、できるなら直前に全身を風呂で洗い……むしろ浄め(きよめ)、自分をさらの状態にしてから臨みたい。

たとえは悪いが、昔読んだ名作『俺の空』(本宮ひろ志先生!)でのマイ・フェイバリット・エピソードを挙げたい。

主人公がヒッチハイクで長距離トラックの運ちゃんと仲良くなる。運ちゃんは風呂でも行こうと、主人公を誘う。すると運ちゃんは公園に車を止め、トイレかどこか、流しのあるところで、おもむろに躯を洗い始める。主人公にも、躯を洗うことを勧める。

話しはソープランドに行く、という設定なのだが、ぼくはこの運ちゃんの男っぷりが記憶としてもかなり大好きで、もちろんヒッチハイクの主人公にソープランドをおごり、男義溢れることをしてくれるのだが、それ以上にソープランドにいる女性のために身を浄める行為に男惚れしたのである。

身だしなみ。

ゾクッとくるではないか!?

“美出しなみ”と書いてもいいと思う。

あらゆる男の行為の中で、この身だしなみに神経を注ぐ瞬間ほど、男っぽさを感じることではないか?

それはまさに男だけの時間。女に見せることのない極上の男だけが精神とチンコの洗浄タイム。

荒ぶる魂を抑えながら、肉体的にも精神的みも汚れを落とし、男を磨く姿なのである。

……で、日本酒。

 
 

旨い日本酒と向き合う前には、これくらいの気持ちでいたいものだと思うのだ。

肴はあぶったいかでいい……、と思うが、旬の肴も捨て難い。日本酒をこよなく愛するマスター、もしくは女将のこしらえる肴に間違いはない。

身も心も、酒を用意してくれる“主(あるじ)”に任せればよいのだ。

きちんとしたものに対して、身だしなみを整えて向うのは男の性(さが)。

考えてみると、この身だしなみってのが、もっとも大事なんではないか、と思えて仕方がない。人の手によって、米と米麹と水と微生物たちの競演を手助けしたある種の芸術品を前にするとき、衿を整える必要もないけれど、心の身だしなみをきちんとする、というか、たとえ気分だけでもシャワーを浴びて、上等なものづくりに気遅れしない姿勢でいたい。『美酒の設計』(藤田千恵子著)をめくっていると、美しく作られた日本酒を前に、ぼくらも潔く、きちんとしていなければならない、と思うのだ。

今回は物だけを撮るやり方をやめてみた。というより、自分なりのスタイリング(とは言え、コレクションで見たスタイリングがベースになっているけれど。)


<ナンバーナイン>を着こなす北原。右下写真は藤田千恵子 著『美酒の設計』(マガジンハウス刊)1,575円(税込み)

七分丈の袖のフード付きジャケットは、女性的という見方もあるかもしれないが、ぼくにとっては大好きなレイヤードができる、とても重宝するアイテム。自分は七分で着るけれども。彼女はジャストで着る、なんというマジカルな2WAYな着方も愉しめて、なんとなくラッキー?

下に着たダメージニットは、少し前にグレーのレイヤードで紹介したもの。そのときから、この組み合わせも考えていた。

パンツは、同素材でハーフパンツも購入。こちらはクロップド丈で、スリットにホックが付いた細みのシルエットがかっこいい脚を演出してくれる。

白のハイソックス、くるぶし丈のブーツ、ハットとそれなりにコーディネートしてみたが、全体としては日本酒の持つ武士道の気骨というよりは、騎士道的な雰囲気となった。

ハットとブーツ以外は<ナンバーナイン>なのだけれど、男義溢れるデザイナーの心意気は、武士道から騎士道へと、その想いを変化させていたたのだろうか? (何の根拠もない強引な文章です。すみません)

今日のようなコーディネートをする日は、朝もシャワーを浴びたくなる。きちんとした身支度をしたくなる。

きちんとした身支度をしたからには、旨い日本酒を久々に味わって、感じてみたくなるものだ。

仕込水をチェイサーに飲る日本酒も、またこの上ないひとときを作ってくれる。

 

日本酒がおいしい季節になってきました。ぼくのお気に入りは静岡県H酒造の『K』というお酒。お正月用に早々に購入してしまった! ふふふ。
H酒造の杜氏Tさんの作るお酒のファンなのです。おいしい日本酒の飲めるお店が好きです。そういえば
元プレスさんが始めた『豆吉』というお店、日本酒とお肴がサイコウにおいしかったです、雰囲気もよかったです、また行きたいです。
よく行くのは四谷3丁目の『Y』。もっとしょっちゅう行きたいのですが、ちょっとお財布が心配。おいしいんですけどね……。
さて先週の金曜日は原宿ジャイルにできたコム デ ギャルソンとビートルズの
コラボショップ『Traging Museum』のパーティへ行ってきました。
オノ・ヨーコさん、川久保玲さんにご挨拶。コム デ ギャルソンのミュージアムのような作りが面白かったです。
今回のコーディネート、気に入ってもらえましたか? もっと下からアオって撮ってって言ったのにぃ~。プン。この冬も着倒れて参ります。よろしく!