田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》 早朝の台北、
行列のできる朝ご飯屋を探して。
(2013.07.10)
台北で朝食を
外国の知らない街のホテルに泊まった朝は、ゆっくり起きて、ホテルのロビー奥にあるレストランでのんびりと朝食をとりながらガイドマップを開き、さて今日はどこを見て歩くかな、なんて考えるのが旅の醍醐味ではある。私が台北旅行中に泊まったホテルは朝食が美味しいことで有名らしいのだが(旅行から帰った後に食道楽の女友達から聞いた情報)、駅に近い便利な場所で、歴史的な建物や公園もあるし、台北の道路の並木はびっくりするほど大きくて美しいし、南国の街の空気を吸い込みたいし、なにより、台湾の都市に暮らす大半の人は朝食を外で食べる習慣がある、ということを何かで読んだ記憶がある。ホテルの快適な朝食もそれは捨てがたいが、ここはひとつ台北の人のように街に出て歩いてみることにしよう。
市場の上の食品工場
さて、友人の情報をもとに私たちが目指す朝飯専門の食堂『阜杭豆漿(フーハントゥジャン)』は、地下鉄(MRT)板南線で台北駅のすぐ隣り、善導寺駅を出てすぐ、片側3車線はある大通り(忠孝東路)に面した華山市場ビルにあるらしい。到着したのは朝8時前、ビルの1階にある市場を覗いてみると、八百屋と肉屋が営業しているくらいでシャッターが下りた店のほうが多い。
食堂を探しながらおそるおそる階段を上ると、2階は体育館のような広いホールになっていて、奥のカウンターへと行列が続いていた。もしかしたら『阜杭豆漿』はここかな? 行列に並んで奥を見渡す。広い厨房で制服姿の職人さん達がテキパキと、パン生地を捏ねたり切ったり焼いたり揚げたりしている。なんだか、食品工場みたいだぞ、すごい。究極のオープンキッチンだ。だが工場見学に来たわけではない、朝ご飯を食べに来たんだ、カウンター上のメニューを見ながら、さて何にしようか。
あれも食べたい、これも飲みたい
豆漿(トゥジャン)は日本の豆乳の親戚。熱いのと冷たいのがあるようだ。油條(ヨウティアオ)は揚げパンだな、たぶん。薄いのと厚いのがある。蛋餅(ダンピン)ってなんだろう、卵が入ってるのかな、厚焼餅もあるし……、なんて、フランス語と違って漢字を見ると意味の類推はできるが確信は持てないので、やっぱり外国語だなあ。かなり悩んで、すごくシンプルに、熱豆漿と油條に決める。合計42元(約130円)。もっと冒険すれば良かったかも。
カウンターで待つ間、注文した品物が次々とトレーに載せられて行く作業もシステマチックで工場っぽくて見飽きない。みんな働き者だ。台湾って南の国だしアバウトかなと思っていたが、とんでもない。体育館のような広い店内には大きなテーブルがたくさんあるのだが、がらんと空いている。あれだけの行列はどこに消えたのと客を観察していると、大半の人は袋に入れてお持ち帰り(外帯)している。そのまま通勤して会社で食べるんだろうか。窓際の席に座って雨の善導寺を見ながら、ちぎった油條を熱豆漿に入れて飲んでいると異国情緒がほわんと沸いてくる。ほのかに甘い大豆の香りが、朝の胃袋に優しい。これが台湾風の朝食なのかな、自然でいいなあ、ちょっと物足りないけど。もう一つ何か注文するべきだったか。
後で調べたら、この店では毎朝5時前から豆乳作りをするそうで、新鮮さが美味しさの秘訣らしく、台北でも超人気だそう。ほの甘い豆漿だけでなく、鹹豆漿というしょっぱい豆乳もあって、ネギやザーサイなど薬味を入れて食べると美味しいそうだ。塩で固まりかけの豆腐みたいなものかなあ、今度試してみよう。
高校生と中国語のお勉強
また別の日の早朝、ホテルの裏通りを歩きながら、観光ガイドにはとても出てそうにない普通の早朝食堂を見つけた。歩道に張り出したテラス席(?)が気持ち良さそうだったのでこの店に決める。カウンターの上に掲げてある1号から6号までのセットメニューを眺めながら、店のおばさんに注文するのを躊躇っていると、少し前にこの店に来たらしい男子高校生風が親切に日本語で通訳してくれた。地下鉄の中でも何度か子どもたちに席を譲られたりしたが、台北の子は礼儀正しくて優しいな。2号餐を注文して50元払う。カウンターの向こうの鉄板でおばさんがパパッと作ってくれる。蛋餅(ダンピン)は台湾の朝食の定番で、クレープっぽい薄焼き卵に刻みネギの薬味。猪排は豚肉のソテー、熱狗はホットドッグではなくソーセージだ。女乃茶(ナイチャ)はミルクティー、中杯はミディアムサイズ、か。私も通訳してくれた男の子に倣って、中国語を勉強しようかな。