田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》 台湾の北の港町、基隆から
『悲情城市』の九份へ

(2013.06.07)

同窓会を台北で

台湾へ旅行することになった。大学時代の友人に誘われ、同級生3人で同窓会気分の台北観光旅行だ。友人は仕事で何度も台湾を訪れたことがあるそうだが私は初めての訪問なので、ホテルの手配などは彼らに任せて、羽田・台北の自分の航空券を予約するだけ、お気楽な旅行と相成った。台湾に関しては、だいぶ前(映画『悲情城市』が流行ったころ)に観光ポスターにあった坂道の風景写真を、長崎かな?と思って見たら、九份という台湾の北にある古い小都市だった、という記憶があるくらいで、これまであまり注目したことがなかった。台湾へ行くんだったらぜひ九份へは行きたい。あとは有名な小籠包を食べ比べたり、屋台を巡り夜市で遊ぶくらいの、あなた任せ、出たとこ勝負の無計画な5泊6日、おじいさんの修学旅行?かな。


九份は日本統治時代に金鉱で沸いた山間の小さな町。
自強号に乗って

真新しく快適な地下鉄(MRT)で台北駅まで行き、台湾鉄道の窓口で基隆までの切符を買う。急行列車『自強号』は座席指定になっている。地下のホーム『月台』で電車を待つ間、駅の構内のいろんな漢字表示に注目すると中国語の勉強になって面白い。濡れた床には『小心地滑』の立て札があるし、電車のドアには『小心月台間隙』と注意書きがある。(必ず英語併記があるので理解しやすい)電車は時間通りに出発し1時間も経たず基隆に到着した。台北を出る時から降っていた雨は、こちらへ来ても降り止まない。5月中旬の台湾はまだ梅雨の季節だし、基隆は『雨港』の別名もあるそうだから、ま、しょうがないか。梅雨明け後の強烈な日射しを考えたら、傘をさしたり畳んだりの方が体には良いのかもしれない。


台北駅の巨大な吹き抜けがあるホール。自動券売機もあるが、窓口で切符を買った。
雨の港町、基隆

三方を山に囲まれた基隆港の風景は長崎と似ていて、そういえば長崎も雨で有名だし、雨の姉妹港か。桟橋近くには旧税関など植民地風な建物も残っていたが、駅裏手の旧市街は薄暗く古びたビルが密集し、ちょっとキケンな港町の雰囲気が漂う。その中にひときわ派手な、しかし霊験ありそうなお寺があった。航海安全など万能の女神、馬祖を祀る慶安宮だ。この寺へ行った日は水曜日(星期三)のお参りの日だったらしく、祭壇には線香や花、果物のお供えが盛られていた。鋏や物差し、秤、鏡などがセットになった供物(どんなご利益があるんだろう)も並び、熱心にお祈りをする老若男女の姿が、いいかげんな無信教の日本人には印象的だった。中国は占い先進国でもあるから、寺では八卦占いや干支占いが出来るらしいのだが、やり方が分らず残念だった。初めて訪れた異国の街なのに既視感に溢れた懐かしさを感じたのは、私が長崎で育ったせいか、それとも日本の統治時代があったせいか、おそらくはアジア人としての同胞意識だろうか。雨の中を小一時間歩いて腹も減ったし、そろそろ昼飯どき。薄暗い路地の、料理もよくわからない怪しい屋台などもあったが、外国人旅行者の分をわきまえて、表通りにある流行っていそうな食堂に目星をつけて、私は排骨飯、友人は叉焼飯を注文する。それぞれ排骨湯、ヤクルト付きで75元。『20年老店で口味独特』、と看板に書いてあった。そんな正直な味で、看板に偽りはない。(1元は約3円)この街の夜市は盛大だとガイドで読んだが、暗くなる前には移動しなくてはいけない、残念。


雨港の異名を持つ基隆港は、噂通り、きょうも雨だった。

馬祖を祀る慶安宮は基隆の名刹で参拝客が絶えない。

左:日光東照宮ではありません。お寺の至る所に彫刻がスゴい。
右:天秤、鋏、物差しなどの供え物は、商売繁盛の願いなのだろうか?

左:見るからに実直そうな店構え、おいしかったです。
右:排骨飯75元。食堂でも屋台でも、使い捨てのプラスチック皿を使う。
お茶より団子

駅前に戻り九份へ行くバス乗り場を通りの人に聞いて探す。時刻表がないのでいつ来るのかわからないが、5、6分待って来た。運転手に運賃を聞くと30元だという。あいにく10元硬貨がなく50元を箱に入れる。運転手の顔を見つめ、お釣りは出ないのかと表情で伝えたが、ノープロブレムだと。私には問題なんですがね、両替しないのがいけなかった、ま、いいか。九份まではヘアピンカーブが続く坂道で外の景色は霧に包まれてよく見えなかったが、乗客がたくさん降りる所でバスを降りたら九份旧道の入り口が見えた。もう少し鄙びた古い町をイメージしていたのだが、江ノ島みたいな観光地で、渋谷あたりにいそうな若者であふれ返っていた。世界的な観光地だし、ま、こんなもんか。旧道は細長いアーケード街になっていて、両側に土産物店が並び、よく見ると結構面白い商品がいっぱい。海が近いせいか海産物の店も多い。旅行前に会社の台湾大好き女子から、九份へ行くんだったらぜひ究極の癒し空間の茶坊へ寄るように言われ、旧道沿いにその店を見つけて、素敵な店内を見て回ったのですが、(階下の工房には茶器やお茶などが陳列してある)、逡巡したあげくお茶は飲まなかった。メニューの台湾茶700元という値段が、現地通貨基準に慣れて来た私には、なんとも高い! テラス席で窓外に流れる雲を見ながら淹れたての美味しい烏龍茶を楽しむ気分だけを膨らませて、店を出たケチなヤツです。遠路はるばる来たのにね。しかし、台湾茶の代わりにモチモチ系の台湾スイーツの店に入りました。店の奥のテラス席で、霧の晴れ間の風景を見ながら、ほのかに甘い餅を噛み締め味わい、それも10分の1以下の値段で大満足。とはいえ、台湾伝統茶芸とB級スイーツを値段だけで比べるなって?


『千と千尋』の温泉宿のモデルになった、とか。

病みつきになる台湾スイーツ、芋圓。氷の上に三種類トッピングして。

左:あいにくの天気だったが、麓には瑞芳の海が見える。
右:アーケードになった九份旧道は食べ物のいろんな匂いでむせ返る。

左:魚丸はすり身団子。食べる機会なかったなあ、次回の旅行でぜひ。
右:芋圓屋の店頭、奥のテラスで食べることが出来る。