向後千里のArt Life 未来はどこへ続いていくのか。

(2009.10.22)

ヨーロッパのリゾート地として名高いスペインのカナリア諸島。イベリア半島よりアフリカにほど近く常夏のカラリとした気候、最大の島テネリフェ島には16世紀の町並みが世界遺産登録されていて、この街を目当てに訪れる人も少なくない。

世界遺産登録されている「サン・クリストバル・デ・ラ・ラグーナ」の16世紀に建てられ修復された教会“IGLESIA DE NUESTRA SENORA DE LA CONCEPCION”
スペインの入植者により作られたコロニアルスタイル。これがアメリカのコロニアルスタイルの原型ともいえる。光と影の陰影が街を彩る。クリックで拡大

一方、サンタクルーズ・デ・テネリフェに建てられたTEA美術館(ヘルツォーク&ド・ムーロン設計)の美しく近代的な建築物は、展示だけでなくレストランや24時間開かれているライブラリーを内包し、市民の文化拠点として街の文化活動を支えている。

海岸沿いに作られた水の公園“プラザ・デ・エスパーニャ” (ヘルツォーク&ド・ムーロン設計)

この美術館で9月22日~27日まで国際的な非営利団体ART TECH MEDIAによって国際デジタルメディアカンファレンス『ESPACIO ENTER』が開催された。

アート、サイエンス、テクノロジーが国際社会の中でアクションを起こしている様子を世界各国から集まった人々によって紹介された。例えばアーバンエコとして、テクノロジーで野菜を育てるNYのアーティスト、食をテーマにしたパフォーマンスやクリティカルな食の映像なども紹介され、アーティスト活動が様々な垣根を越えて広がり、食の分野も無縁でないことにとても刺激を受けた。

サンタクルーズ・デ・テネリフェからほど近い海岸。朝の8時に陽が昇る。

大抵、午前中のシンポジウムが終わるとTEAのモノトーンのレストランで参加者達が食卓を囲む。するとそこでもコミュニケーションが始まる。シィエスタタイムをはさみ再び街中が活動をはじめる夕方にいくつかのディベート、パフォーマンスが続き、ようやく夜中に夕食となる。街中が一度眠りにつくシエスタ、そして再び活動を始める生活は圧倒されるほどの灼熱の太陽に合わせた生活のリズム。カラリとした陽気な会話を夜中まで続ける情熱的でタフなスペイン人達に、北欧や東欧のアーティストのテクノミュージックパフォーマンスが交差し、久し振りに音楽のシャワーをおもいっきり浴び、心地よい時をすごした。

TEA 美術館(ヘルツォーク&ド・ムーロン設計)自然光の入る外壁。

この島は日が落ちると海風が冷たい風を運び込み、昼間の暑さが嘘のように急に冷え込む。サボテンしか育たない厳しい環境、その中心にそびえる標高3,000m級の山は今も赤茶色の地肌をさらけ出し、山を切り開いて作られた南島の楽園カナリア諸島の素顔をのぞかせるが、街路には樹が茂り、木陰にはベンチがならび、カラフルな町並みに緑があふれる。ベンチにはお年寄りたちの笑顔が並び、街が住みやすいことを無言で伝えてくれる。

TEA内カフェレストラン。
ティピカルなシーフードレストラン”EL PUNTERO”
じゃが芋料理“PAPAS ARRUARUCADAS”

昔は世界の海を渡り歩いたというSEA MANを名乗るタクシードライバーで出会った。「本当に地元の料理だけどいい?」と言いながら街の一角にあるレストランを教えてくれた。地元の典型的な料理だというじゃが芋料理。といっても、皮ごと白く塩蒸し、イタリアンパセリを刻んだカナリアソースをつけていただくといういたってシンプルなもの。ゆでエビやビネガーゆでのタコ。グリルしたイカや魚を、そのじゃが芋と一緒にいただく。昔からの食べ方は今も地元の人気メニュー。隣の常連客はフルコースに仕立てたそれらの料理を大事そうに食べ、最後にフランをいただいていた。素朴な味わいが息づいているのも魅力の一つ。地元の人に交じっていただく雰囲気もごちそうの一つだった。

さて、未来はどこへ行くのか。考えたいことは山ほどある。