Information Androidアプリ「細石」を片手に 
季語を知り、季節への愛を深める。

(2011.04.18)

桜が満開の4月某日、300年以上の歴史があるお寺「幸國寺(こうこくじ)」の和室を借りて、俳句の「季語」をテーマにした座談会が開催された。俳句歴15年という俳人の如月美樹さんにレクチャーを受けながら、それぞれに知識を深める。その後、桜の美しい都内某所へ移動し、季語の世界を堪能。参加者の多くが俳句の初心者なのに、季語を調べられるAndroidアプリ「細石(さざれいし)」に助けられて、春への深い思いを堪能できたようだ。

  

春の季語もさまざま。
「花」や「芽吹く」……「たけのこめし」も!

俳句は「季語ありき」ということで、如月さんからのレクチャーもそこから始まった。「この時期の季語に“花”がありますが、それは他の花ではなく、桜のことなんです」と教わると「へえ」と口々に感心の声が上がる。

「細石」の開発元、北都システムの田中さんよりアプリの使い方を教わりながら、それぞれがスマートフォンで“花”を調べてみた。「季語から探す」を選び、「春」で絞り込みをすると、季節にあった季語が表示される。“花”と入力しただけで想像以上の季語が見つかり、「すごくたくさんある!」と驚く一同。さらに、それぞれが気になった言葉を口にし始めた。“花霞(はながすみ)”や“花おぼろ”、“花の雨”……。

「桜の時期に降る雨を“花の雨”と言うんです。雨の日は憂鬱な気持ちになることが多いと思うのですが、花の雨と言えば許せる気がしませんか? みんな桜が好きですからね。ソメイヨシノは明治時代に広まった種なので、今の時期のお花見は明治以降に定着したんじゃないかな」(如月さん)

寒緋桜(かんひざくら)や山桜など、ソメイヨシノより早く開く桜も多くある。ソメイヨシノは花が散ってから葉が出るが、山桜は若葉の芽生えと一緒に花が咲くのだとか。

「ピンクとグリーンを一緒に見ることができるんですね! ソメイヨシノとはまた違った楽しみがありそう。生活の中で季語を意識すると、植物に詳しくなれそうです」

とは、オペラ歌手兼食いしん坊(?)の則竹さん。八百屋「瑞花(すいか)」を営んでいる矢嶋さんは、職業柄、野菜から季節を感じることが多いという。

「今の時期に旬まっさかりなのはたけのこ。やはり旬は徐々に北上していきます。“たけのこ前線”と言いたいくらい(笑)。アスパラなども合わせて“芽吹き野菜”と言って、桜の咲くその下で、芽が出てくる感じかな。もう少し早い時期、雪が解けた頃に出てくる山菜系も芽吹き野菜と言うんですよ」

調べてみると、“芽吹く”は春の季語。ところが、“たけのこ”は夏の季語とされており、今の季節は“春の筍”という別の季語が載っている。そこへすかさず則竹さんが、「“たけのこめし”もありますね!」と笑いを誘った。

如月美樹(きさらぎ・みき)
則竹正子(のりたけ・まさこ)
 
無駄をそぎ落としても、季語があるからこそ表せる。

通常使う日本語にも、新しく生まれる言葉、古くなり消えてしまう言葉があるが、季語はどうなのだろうか。

「季語も新しく増えていきます。たとえば先ほどの“花”で検索してみてください。“花粉症”とあるでしょう。最近の言葉ですよね。増えるのは誰かが作っているからなんですが、季語として認知されるのは『その言葉を季語として使った名句が生まれたとき』と言われています。ただし“花粉症”のこれ、といった代表句はまだないような気がしますね。例外的な存在かもしれません(笑)」(如月さん)

“花”は“桜”のことだという説明が最初にあったが、もちろん“桜”自体も季語だ。桜にまつわる句を如月さんがいくつか紹介し、それぞれ解説を加える。

さまざまの事おもひだす桜かな 芭蕉

「毎年季節が巡って必ず桜が咲くので、記憶の分身のような気がしますよね。いろんな思い出が積み重なっていきますし」

さきみちてさくらあをざめゐたるかな 野澤節子

「桜はピンクのイメージがありますが、ソメイヨシノはよく見ると白っぽい。満開の桜を見たらすごく青白く見えたという。こんな風に、はっと思った瞬間に詠むのが俳句。私はスナップショットみたいなものだとよく説明するのですが、俳句はその瞬間を切り取るものなんです。ですから、自分が嬉しい、悲しいなどと感情を読むのは野暮とされているんですよ」

写真は、撮った人の感情を直接的に語るものではないが、撮った人の思いが伝わってくることはある。スナップショットという例えは、初心者にもわかりやすい。学生時代に詠んだ俳句が入選したこともあるという菅原さんは「当時は自分の気持ちを表してしまっていました。野暮だったんですね……」と苦笑した。

「無駄なものを徹底的にそぎ落としたのが俳句。その表現を助けるのが季語です。例えば“桜”という言葉にはもう千年以上の歴史があり、その間ずっと使ってきた思いや、事象が詰まっています。たった5・7・5で世界を表現できるのは、季語の助けがあるから、というのが俳句の考え方なんです」(如月さん)

矢嶋文子(やじま・あやこ)
菅原さくら(すがわら・さくら)
 
季語を多く知っていると感性も変わる。

俳句は想像で作ることはできないのだろうか、と疑問を投げてみる。如月さんは「いま、ここ、われ」と言った。

「私たちが幸國寺で集まって話している、“今ここにいる我”を詠むのが俳句の極意。俳句を始めるとしたら、まずは季語を覚えるとすごく上達が早いうえ“いま、ここ、われ”を理解するのに役立ちます。例えば今日のような暖かい日なら“春うらら”や“春暑し”という季語が使える、と気づき、桜が咲いていたら桜の季語がいくつも思いつく。情景から季語がすぐに浮かぶと俄然楽しくなります。ちょっと暇な時間ができたときに、このアプリを使って季語を眺めておくのがおすすめ」

言葉を知らないと、“美しい”も1種類しかないような気がしてくる。ところが、表し方をいくつも知っていると、感じ方も変わってくるもの。何でも「かわいい」「やばい」で済ませてしまう現代の風潮とは相反する、豊かな世界があるのだろう。

「昨日はとても寒かったのですが、“冴返る(さえかえる)”という季語が使えます。冬の季語で“冴ゆ”は寒いこと。あたたかいはずの春にまた寒くなると“冴返る”になるんですね。先ほどの“花の雨”と同様に、“寒いな、イヤだな”じゃなくて、違う言葉にするだけで季節が愛おしくなりませんか」

則竹さんがアプリで“凍返る(いてかえる)”を見つけた。冴返るよりももっと寒い季語だということがわかる。
 

音や色にもこだわると上級者の仲間入り!?

音の妙に気づいたのは矢嶋さん。「日本語ってすごいなといつも思います。音で心を動かしていきますよね」確かに、“春うらら”は気持ちが和んで華やぎ、“凍返る”“冴返る”ではずいぶんイメージが変わる。
「俳句を作るときも、たとえば「冴返る」の「さ」に薄ら寒い雰囲気を感じて、「S」の音をたくさん入れるといったテクニックもあるんです。かなり上級者向けですが」と、如月さん。

また、桜では次の句も紹介してくれた。

山ざくら咲く直前のさくら色 右城暮石

“さく”が3回も出てくるこの句。季語が2つあるように見えたので尋ねると、「季語を2つ使う『季重ね』は御法度。「山ざくら」と「さくら色」で季語が2つあると思ったのかしら? 色は季語ではないんです。あえて作句上のテクニックとしてぶつけているのではないかな?」とのこと。

アプリ「細石」では、季語だけでなく日本の伝統色も調べられる。「色の名前を知らなくても“赤系”“青系”で調べられるんですね。日本の色では青系が一番多いと聞いたことがあります。私の先祖は藍染め屋だったので……」とは則竹さん。幸國寺の住職の娘でもある矢嶋さんは、「青系に“瑠璃色”がありますね。お寺の敷地内に“瑠璃殿”という建物があるのですが、納骨堂なんです。瑠璃とはガラスのことで、仏様がガラス製なのでその名が付いているんですよ」と解説。如月さんは、色について次のように言う。

「俳句に色を使うのはなかなか難しいと感じます。伝統のある色の名前は趣がありすぎて、迷ってしまいそう。私も、このアプリで初めて日本の伝統色に触れることができたので、今後の詩作に活かしていきたいですね」

「俳句を作るだけでなく、さりげなく季語の話をしたり、手紙やメールにの挨拶に入れれば知的な女性と思われそうですね」と一同。「季語を知っていると、季節に対する愛が深まる、というのが私の持論」という如月さん。レクチャーのあと、桜のある場所に移動して、思い思いに季語を調べながら季節を堪能した。この日に詠んだ如月さんの句を最後に紹介しよう。

待つことのひと日ひと日にさくらさく 美樹

田中 満里絵(たなか・まりえ)
栃尾江美(とちお・えみ)


「俳句作成支援アプリ 細石」のオープニング画面
俳句初心者でも始めやすい
季語や伝統色が調べられる
「俳句作成支援アプリ 細石」。

「細石」は、俳句を趣味とする人はもちろん、季語を知らない初心者でも俳句を作り始められるスマートフォン向けアプリ。電子辞書のように季語を調べたり、作った俳句を記録しておける。


気になったキーワードで検索。

アプリを起動するとオープニング画面が現れ、すぐにキーワード入力が可能になる。たとえば「桜」や「さくら」と調べると、季語や枕詞、伝統色などから俳句に使える用語が検索できる。音声検索も可能なので、外出先で入力がままならないときでも安心。

辞書検索では、キーワードで入力したり、「季語」などの項目から検索できる。
例えば、「さくら」で検索すると44件もの言葉がマッチする。


キーワード検索だけでなく、条件で絞り込みもできる。「春」「夏」「秋」「冬」「新年」の季節に加えて、「時候」「天文」「地理」などの分類が指定可能。条件を指定しておけば、キーワードを入れなくても環境にあった言葉が見つかるので、まったく知識がなくてもいい。実際に探してみると、美しい日本語に驚く人も少なくないはず。初めて聞いた言葉でも、情景が浮かぶものも多い。

伝統色を探すと、一覧画面に色が表示される。全部でその数なんと465個。表したい色がきっと見つかるに違いない。美しい色の名前にも注目したいところ。
 

キーワードが浮かばなくても条件で言葉を探せる。
伝統色から「赤系」で探すと52種類も表示される。微妙な違いも一目瞭然。


 
俳句を作ったら「句帳」に記録。

季語のページで「この語句から俳句を作る」をタップすると、用語がコピーされたノートが開く。俳句を作ってそのまま保存できる「句帳」も用意されているのだ。日付も一緒に保存するので、“情景を切り取る”という俳句にぴったり。句を詠んだ場所や時期をすぐに思い出せるというもの。自分でタグを付けておき、後で検索に役立てることもできる。

句帳に俳句を書き込んで保存できる。保存する際にTwitterに投稿も可能

また、詠んだ句を人に見せたくなったらTwitterで投稿してみよう。アプリにアカウントを設定しておけば、直接投稿できる。誰からから反応があるかもしれない。


 

 

アプリ名 俳句作成支援アプリ 「細石」
配信元 HokutoSystemCo.,Ltd.
価格 630円
プラットフォーム Android 1.6 以上
対応端末 スマートフォン
公式サイト http://product.hscnet.jp/sazareishi/