一瀬恵のパンクなドイツ ドイツOPELとイタリアFIAT。

(2009.05.18)

「オペル救助者、マセラッティに乗って現れる」との見出しで、先日ドイツの経済新聞『Handelsblatt(ハンデルスブラット)』 の一面を飾った記事がある。

その記事の最初はこのような書き出しだ。「地中海風のラフなブルーのセーターにマセラッティ・クアトロポルテに乗り、フィアットCEOのセルジオ・マルキオーネ氏はオペル救助の第1案を持ってドイツ連邦経済科学省に出向いた。」

マセラッティフィアットの傘下であるし、マルキオーネ氏はスーツでなく常にセーター姿がトレードマークとなっているため、このスタイルで現れることは自然なことのように思うが、一方でこれを一面の見出しと記事の書き出しに強調するのがいかにもドイツらしいな、と思ってしまった。

というのも多分この一連の現われ方とスタイル……つまり「ラフでゴージャス」……は、経済科学省に出向くに当たって、そして大きな交渉をするに当たって、ドイツにはない発想と文化だと思う。

このブルーのセーターにマセラッティ、そして鞄の中にはオペル社救助のコンセプト……というマルキオーネCEOとフィアット社のスタイルは、個人的には好感を持っているが、ドイツ的な感覚で捉えるとドイツの政治界、経済界などでは大きな仕事の前にはないであろう。やはり個人差にもあるが、ドイツ人は「しっかりしていて地味」、基本的に真面目で質実剛健なところがある。

さて一方アポイントを受けたドイツ連邦経済科学大臣は、貴族系の良家出身 Dr. Karl-Theodor Freiherr von und zu Guttenberg(ドクター カール・テオドール フライヘアー フォン ウント ツー グッテンベルグ)氏で、今年2月に大臣に就任して以来、期待の若手大臣として大注目を浴びている。そしてスーツの着こなしも身だしなみも振舞いも優雅で清潔感がある。

名前にあるFreiherr(フライヘアー)とは男爵の意で、貴族系の名前には途中にvon(フォン)や zu(ツー)がつくことが多いが、グッテンベルグ氏は両方ついている!

ということで、ドイツ国内での人気や経済危機下における中で大臣に就任したこともあり、彼はマスコミによく取り上げられているが、今回のオペル社救助案に関しては「オペル・ブランド、ドイツのオペル本社及びドイツ国内の3つの工場を買収する案であった」とコメントしている。

誌面によると、マルキオーネ氏がフィアット会長に就任した際に、人員削減をせず会社を黒字に再生した彼の業績を高く評価しているが、ドイツで経験のない彼に委ねるかどうか疑問のようだ。

今回の記事を通して2社の今後の発展が楽しみではあるが、いかにヨーロッパが多彩で人間味あふれているかに関心が行った。

ドイツ貴族系の政治家グッテンベルグ経済科学大臣と、経営者であるイタリア人マルキオーネ・フィアット会長の対照的な人物像、そしてマルキーネ氏の地中海風の登場を見出しで大きく取り上げるドイツのマスコミの反応、そしてオペル救助案の議論などなど……ヨーロッパが社会的に1つになり協力し合っている中で、それでもやはり個々のそして国民性の違いはあり、その特徴を個性と生かしつつ、1つのテーマにおいて利害関係が一致すると業界を越えて強い団結力を現す。このメンタリティーと特長がヨーロッパにはあり、オペルとフィアットのみならず、ヨーロッパの存在と未来にさらに興味を持った。

ドイツ経済新聞Handelsblattの一面で取り上げられる、フィアットによるオペル救助案記事。
写真はWikipediaより
フィアットCEOのセルジオ・マルキーネ氏。
ドイツ連邦経済科学大臣のDr.カール・テオドール・フライヘアー・ツー・グッテンベルグ氏 ⒸBMWドイツ連邦経済科学省