北原徹のバカ買い! Smells Like Teen Spirit - 9 -  SUNSET CRAFTSMAN バッグに男の愛をいっぱい詰めて。

(2009.05.28)

パリを見下ろす丘、モンマルトル。

石畳の美しさを朝の青い光が輝かせる。絶妙なライティングだ、すべてが幸福という色に移り変わっていく時間。止まるのは“時”なのか、人を愛するという“心”なのか?

カップルは石畳の上をダンスするみたいに手をつなぎながら、くるくると回っている。握り合うその手は、まさに”愛”という文字、そのものだった。

女の無邪気な朝の笑顔に、男は両手を叩いて、そして“さあ、おいで!”とでも言わんばかりに胸を開き、手を広げた。

女はすいこまれるように、男の胸に滑り込んだ。

愛は、心を開いて信用することから始めようよ! 男の態度はそんなボディランゲージに見えた。コケティッシュな女の笑みに男は永遠を感じたのだろうか? 男は女を抱き上げ、ぐるぐると彼女の体を回した。

愛の加速度が早まるように、女の体も早く回転する。

朝の光が揺れた。

長いキスは男が求めた。男は不安を取り除くように、熱く、濃く、深く、キスを続けた。

そのまま、二人は夏の光を求めに海へと、車に乗って向かった。後部座席には大きめのバッグがひとつ、放り投げられたかのように極々自然に、その佇まいを見せていた。

男のロマンティックが見え隠れする。

モンマルトルに彼女を誘ったときから、男は海に行きたかったのだ。男の心に、大きくなり始めた愛の欠片を、ひとつをふたつに、ふたつをみっつにして、男の愛は徐々に自信をつけ、この女(ひと)を“恋人”という存在にしていく。もうひと目惚れではない。

ビーチタオルと海パンとビーサン、そしてたくさんの愛を詰めた、紺と白のストライプのバッグ。男の“本気”を象徴するように、砂浜で彼女の頭の下で枕になっていた。

好きって気持ちでいっぱいのバッグの上で彼女は気持ちよさそうな寝顔を見せた。

だけど、女の気持ちはまだわからなそうで、男はちょっと不安を覚えた。
夕日が男をセンチメンタルにさせた。

このバッグは〈Stevenson Overall (スティーブンソン オーバーオール)〉のために〈SUNSET CRAFTSMAN(サンセット クラフツマン)〉が作ったものだ。スティーブンソンの話はまた今度書くけど、面白いのがこの〈SUNSET CRAFTSMAN〉。デザイナーの名前は忘れたけど、彼は週のうち五日を運送会社で働き、残り二日でこのバッグを手作りしているのだという。ネームプレートも手作り、手でも刻印している。ぼくは、これからの世の中は人の顔が見えることがいいと思っている。結局のところ、手間を惜しまないことが売れるものを作る秘けつなんだと。今回初めて買ったバッグだけれど、穴が空くまで使ってみたい、その穴が空くころにまた、このバッグのよさがわかる気がして。

 

『POPEYE』北原副編集長の手描き原稿、タイトル。
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今回はちょっと違ったアプローチで迫りました。
〈SUNSET CRAFTSMAN〉のバッグを机の脇に、ペンを走らせたのでした。
今週は展示会で大忙しの北原 副編集長でした。