田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》 北フランスの旅 2 
野外彫刻が楽しいリール近代美術館。

(2011.06.14)

団体旅行。

今回の北フランス旅行は、パリ在住の稲葉さん、由紀子さん、マンハイム経由でパリへ来たのりこさん、それに私、アラカン4名のご一行様。実は、ドーバー海峡をフェリーで渡ってイギリスへ行く計画を春に立てていたのだが、3・11大震災の影響で(話すと長くなります)計画がキャンセルになり、でも予約済みのTGVの切符をムダにするのもなんだなあと、団塊アラカン世代はケチな性分だし、終点カレーの手前のリールまで行って見ようかと妥協案が出て、一晩のホテルだけ予約して、あとは行ってみて、天気次第、出たとこ勝負の旅となったのであります。

緑のミシュラン。

成り行き任せとはいえ、フランス旅行のマイスター稲葉さんが魅力的なプランを提案してくれた。リール郊外の(1)マレ・ステヴァンスの建築と(2)プールの美術館、それに(3)リニューアルした近代美術館に行って見ようかと。私は予備知識ゼロの白紙状態だから、うん、いいかも、稲葉さんが薦めるんだったらと、全く任せっきり。由紀子さんにはミシュランの緑のガイドブック(フランス語版)で観光案内してもらったり、フランス国鉄の駅で集めた時刻表(ミシュランはドライブ旅行なので、電車の情報は皆無)をもとに、行き先への移動情報を確認してもらったりと、おかげさまで何も努力せずに、らく〜な楽しい旅ができました、ありがとう。

ところでミシュランって今では赤いレストランガイドが有名ですね、緑のたぬき、じゃない、旅行ガイドが昔は日本でも翻訳されて便利だったけど、最近見かけなくなった。パリなど大都市のガイドはいろいろあるけど、ちょっと田舎の街を調べようと思うと困る。インターネットに頼らず、紙の本のガイドを使う人は今や少数派なのかなあ、不便だなあ。


 

ダーガーとの突然の出会い。

プールの美術館からリール都心へ戻り、さらに南の郊外へ地下鉄とバスを乗り継ぎ、ようやく辿り着いたのがリール近代美術館(LaM)。川が流れる広大な敷地の中にレンガ造りの旧館と、それに隣接して白いキューブ状の新館が見える。昨年の秋にリニューアルオープンしたらしい。野外の緑の木立といっしょになったピカソの巨大な彫刻や、カルダーのモビールが風に吹かれて静かに回る風景の中にいると、ひと時いろんなことを忘れて、旅行中であることも頭の中から消えてしまう。

昼の夢から覚めて、美術館の中へ入る。旧館と新館は、館内で有機的に繋がっていて、ゆったりした空間にはブラックやモディリアニ、クレーなどの近代絵画と、作者の名前を(私は)よく知らない現代の作品も並んでいる。新館の壁面の、レースの編み目のようにくり抜かれた窓から入る外光が、白いスクリーンを通して美しい。

予備知識なしで入ったのだが、館内にはアール・ブリュット(アウトサイダー・アート)のコレクションもあり、予期せずヘンリー・ダーガーの少女たちの絵に出くわして、こんなところで会うなんてと驚いた。アール・ブリュットの一連の作品からは、人間の心の深みに直結するようなむき出しの感情がストレートに伝わって、他人の日記を盗み読みするような、ある種の後ろめたさや危うさをいつも感じてしまう。広く静かな薄暗い館内、一人っきりでダーガーの絵を見ているのは、ちょっと危ない体験かもと気にしながら、つい見入ってしまう。


 

ベルギー国境の街へ。

一泊だけでパリへ戻るのはデザートを忘れた食事のようで、何かもの足りない。リールに着いた前日の夕方、旧市街のカフェで休みながら地図を広げて明日はどうしようと思案中に、のりこさんが適当?に指差したベルグという街に行って見るかと、とりあえず決めていたので、16時46分発のダンケルク行きに間に合うようリール駅へ戻る。

終点の一つ手前のベルグまで小一時間、駅前はすぐに堀と城門に通じていて、ほどなく街の中心の広場と塔が見える。ミシュランで調べると、函館の五稜郭のような、運河と城壁に囲まれた中世の都市だということで興味が湧く。前日、由紀子さんに予約してもらったホテルに荷物を預け、広場のカフェで冷たい飲み物を注文すると、高い塔から15分おきにカリオンが聞こえる。なかなか暮れない夏の夕方、とりあえず今晩のホテルは確保できたし、さて晩ご飯はどうしようなどとのんびり時間をつぶすのは、旅のいちばんの楽しみだ。

この旅の顛末は稲葉さんのブログ『ばにゅうのやど』にもあるので、こちらからどうぞ。