藤原陽祐のホームシアター日乗 音楽が空間を包む気持ちよさを
気づかせてくれるスピーカー。

(2011.06.20)

1年かけて椅子とスピーカーで世界一周の旅。
そうして見えてきた両者の不思議な関係とは?

 ホームシアター誌(ステレオサウンド社)で行った「椅子100脚座ってみました」企画の予想を上回る反響を受けて、今度は、編集長から「フジワラさん、小型スピーカー100でいきましょう」という話がきました。メーカーや輸入商社を訪ね、延べにして1週間弱、世界各国のスピーカーを次々に聴きまくりました。

すでに聴いたことのあるスピーカーも多かったのですが、再度、じっくり聴き直して見ると、「こんなに重くて、太い音がで出るんだ」とか「これは高域、ちょっと頑張りすぎでしょう」、あるいは「このヴォーカル、ニュアンスが凄い!」などなど、以前に聴いた時とだいぶ印象が違うモデルも数多く、けっこう楽しい、実りの多い取材になりました。

中でも大きな発見だったのが、前回、100脚座った椅子とスピーカー、意外に共通点が多いってこと。どっちも木工技術を駆使した製品ということもありますが、世界中、ほとんどの場所で生産されていますし、デザインも個性的なものが多い。そして椅子にしてもスピーカーにしても、メーカーから提供されている情報(スペック)だけでは、その善し悪しがわからず、実際に座ったり、聴いてみないと、購入に踏み切れないというのも一緒ですね。

詳しくはホームシアター(椅子/スピーカー100選は昨年の秋号から今年の夏号まで掲載)を見て頂きたいのですが、ここではもし自分で買うとしたら、何を選ぶのか真剣に考えてみました。自分で買うわけですから、座り心地や音質、色、デザインだけでなく、大きさや、使い勝手も大切になりますし、もちろん価格も極めて重要です。

ドイツの名門『エラック』から登場した、
超お値打ち価格の三つ星モデル!

まず椅子ですが、新宿のOZONEにある「にっぽんフォルム」で見つけた『安楽イス』を選びました。これはスェーデン人のデザイナーが、日本人用として設計したアームチェアで、和室に馴染むデザインと、畳の上で使っても不安定になりません。座面が広いために、疲れたらお尻を動かしやすく、その気になればあぐらを組むこともできます。また2台、3台と横に連結させることもできるので、将来的にソファとして使えるのもいいですね。8万8200円という価格も納得です。

そしてスピーカーですが、これは迷う余地なく、『エラック』からこの春登場した50LINEで決まりです。ご存じの方も多いと思いますが、『エラック』はドイツの老舗スピーカーメーカーで、日本でも熱心なファンが少なくありません。特にオーディオベンディング・ウェイブ方式と言われるJETツゥイーターと、紙とアルミのハイブリッドコーンを採用したウーファーが有名で、これが同社のイメージテクノロジーになっています。

50LINEはエントリーラインということもあって、一般的なドーム型ツゥイーターとペーパーコーンの組み合わせで、ブラック仕上げのデザインも質素な雰囲気。ラインナップはトールボーイタイプのFS57.2、ブックシェルフタイプのBS53.2、BS52.2という大/中/小の3タイプですが、このうち特に良かったのが「小」のBS52.2。なぜかこのモデルだけバスレフポートのない密閉型で、内心「低音でるのかな」と心配していたのですが、いざ音を出してみると、5秒もしないうちに、その不安は見事に吹っ飛んで、印象が180度、変わってしまいました。

ELAC BS 52.2 42,000円 H210×W136×D165mm/2.3 kg

ユキムオンラインストア

ジャンルを選ばない鳴りっぷりのよさ。
5年に1度登場するかどうかの逸材だ。

そのサウンドは実に開放的で、スケール感も十分。コンパクトなサイズからは想像できないような鳴りっぷりの良さで、密閉型の小型モデルにありがちな窮屈な感じもありません。音の出方はスムーズで、音調としてもニュートラル。クラシック、ジャズ、ポップス、ロックと、色々と聴いてみましたが、特定の色付けを感じさせない自然体の聴かせ方で、どれも破綻がなく、楽しく聴かせてくれました。特に中低域がコントラストが鮮やかで、芯の食った勢いのある音が実に気持ちいい。さすがにグンと沈む低音はだせませんが、1日中つきあっても、邪魔にならない馴染みのいいサウンドは魅力的です。

実を言うと、このスピーカー、発売のタイミングの関係で、ホームシアター誌での掲載は見送りとなってしまったため、公の場で紹介するのは今回が初めてです。私もこの仕事を始めて30年近くになりますが、3年に1度、いや5年に1度出るかどうかくらいの逸品。しかも価格はペア、税込みで4万2000円。CPの高さでもライバルを圧倒しています。いまスピーカー購入を考えている方、ぜひチェックしてみてください。

「季刊ホームシアター vol.55」(ステレオサウンド刊) 1,500円