田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》 明るい森の中のポーラ美術館へ
『モネ、風景をみる眼』展を見に。

(2013.09.03)

明るい林のトンネルと橋を渡って美術館へ

睡蓮

鎌倉八幡宮の源平池で見たハスと睡蓮から連想したわけではないが、箱根のポーラ美術館でモネの展覧会が開催中なのを知り、友人を誘って見に行くことにした。友人をピックアップして海沿いの国道を江ノ島、茅ヶ崎と走る。松林を過ぎて西湘バイパスに乗ると、小田原まで続く砂浜が助手席側の窓いっぱいに広がる。

9月に入り、海の透明度が一段と増したようだ。乾いた空にも秋の気配を感じる。やがて箱根湯本の温泉街を抜け、強羅を過ぎ、保養所などが点在する深い森の中でちょっと迷いながらも、なんとか美術館へ到着した。小塚山の森の斜面に建つこの美術館は、ヒメシャラの明るい林を抜けて玄関へ向かうアプローチが気持ちいい。館内に入っても、ガラスの屋根や壁面から自然光が贅沢に降り注ぎ、なんだか印象派の作品を鑑賞するために作られた美術館のように思われた。

青い空が館内にあるような感覚
青い空が館内にあるような感覚
公私の2美術館が共同企画

展覧会のタイトルは『モネ、風景をみる眼』。モネを中心とした「19世紀フランス風景画の革新」がテーマだが、画期的なのは、私立のポーラ美術館と国立の西洋美術館が共同で企画展示したことにある。両方の美術館が収蔵するモネや同時代の作品の中から、テーマが似たものや制作に影響関係があるものを持ち寄り、それらを並べて展示する。別々の美術館に行くよりも同時に比較しながら見ることで理解が深まったり、新たな視点が生まれたりと、インターネットで検索するような感覚でリアルな絵画を目の前で鑑賞できる。こういう、絵を見る観客側に立った美術館の試みは、どんどんやって欲しいな。箱根のポーラ美術館での展示が終わったら、12月からは上野の国立西洋美術館に移動するそうだ。すべての作品をそのまま移すのではなく、一部作品の入れ替えがあったり、両美術館の独自性も打ち出すそうだから(ポーラ美術館ではガレのガラス工芸品が展示される)、上野にも行って比べてみようかな。

『バラ色のボート』と『舟遊び』、両横綱のそろい踏み
『バラ色のボート』と『舟遊び』、両横綱のそろい踏み
印象派の風景

会場に入ってすぐ正面に、モネの『バラ色のボート』ポーラ美術館蔵と、『船遊び』国立西洋美術館蔵の2点が並んでいる。圧巻だ。二人の娘がボート遊びをしている同じ主題の絵だが、両作品ともに人物の目鼻立ちは意外とさらっと描かれ、風景の一部にとけ込むようだ。むしろ刻一刻と変化する水面の一瞬の様子を捉えることにモネの興味があることがわかる。『バラ色のボート』では流れにうねる水草の動きと水底の深さ、『船遊び』では水面に映る雲や人の顔に、画家の眼が向いていることが鮮明だ。

会場には、ピンクやブルーなどの色壁面に2館共同企画で実現した比較作品が展示してあるのでわかりやすい。展覧会では気に入った絵を好きに解釈して見る楽しみもあるが、時には画家の眼になって、何をどう描きたかったのか考えてみることも鑑賞が深まるようで興味深い。念願の『睡蓮』も見たし、『ルーアン大聖堂』も見た。モネを中心に、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャン、ピサロなど100点ほどの風景画を見て歩くうちに、私はパリのオルセー美術館にいるような気分になった。あそこのレストランの天井画は見事だったなあ、上を見ながら食事したわけでもないが、すごーく高い天井で、テーブルの席から見上げるのが大変だった。

  • 『ウォータール橋』など、ロンドン3部作
    『ウォータール橋』など、ロンドン3部作
  • 時代を追って展示されているので、表現の変化を楽しめる。
    時代を追って展示されているので、表現の変化を楽しめる。
ジヴェルニー

そろそろ昼時。美術館1階にある『アレイ』へ向かう。明るく開放的なレストランは平日だというのに(平日だから?)女性客メインの大盛況振りだ。窓際の席でと考えていたのだが、大きなガラス窓の外には白いパラソルが並んだテラス席が見える。もう暑くもないし、印象派の絵を見た後はマネの『草上の昼食』に倣って、やっぱり屋外でしょう、フランス人でなくても。

メニューを開いて、せっかくだから『ジヴェルニーへようこそ』という企画展コースメニューに決めた。光のようなバラ色の『ローズカクテル』(ノンアルコール)に始まり、オードブルは鱒のタルタル クロード・モネ『バラ色のボート』、メインディッシュは『仔羊のロティ モネが愛した南仏の野菜とともに』、いやあ、さすがにみんな絵に描いたような美しい盛りつけ、そして品のいい旨さ。焼き加減が絶妙な仔羊は久しぶりだ。最後の『モネのデザートガーデン』は、白ワインゼリーとヨーグルトアイスにスグリやブドウなど季節のフルーツをのせた一品。

2,730円は、私のランチ感覚としては値段の上限を超えているが、美しい森と青い空が広がるテラスで、野鳥のさえずりも聞きながらのゆったりランチであれば超おすすめ。鼻と舌、眼と耳がたっぷり満足し、腹ごなしに美術館を周回するブナとヒメシャラの『風の遊ぶ散歩道』をそぞろ歩くか、仙石原のススキにはまだ早いか、などと考えながらレストランを出る。エスカレーターを上り出口へ向かう途中に、ヘンリー・ムーア『座る女』のブロンズ像があり、友人が熱心に見ている。何か気に入った様子。ムーアの作品は、すぐ近くの『彫刻の森美術館』にもたくさんあるよ、ということで私たちは急遽、強羅へと向かうことになった。

  • 白いパラソルが秋の気配
    白いパラソルが秋の気配
  • 『バラ色のボート』に見立てた鱒のタルタル
    『バラ色のボート』に見立てた鱒のタルタル
  • 『仔羊のロティ モネが愛した南仏の野菜とともに』
    『仔羊のロティ モネが愛した南仏の野菜とともに』
  • エスカレーターの踊り場にヘンリー・ムーア『座る女』が
    エスカレーターの踊り場にヘンリー・ムーア『座る女』が

  

ポーラ美術館
『モネ、風景をみる眼 19世紀フランス風景画の革新』展
開催中〜11月24日(日)
住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
TEL:0460-84-2111(代)
開館時間:9:00〜17:00(最終入館16:30) 無休
入館料:大人1,800円、大・高校生1,300円、中・小学生700円(土曜日無料)、65歳以上1,600円
  
レストラン『アレイ』
営業時間:11:00〜16:00LO
企画展メニュー「ジヴェルニーへようこそ」2,730円(税込)
(オードブル/メインディッシュ・仔羊/デザート/パンまたはライス/コーヒー、紅茶またはハーブティ)