向後千里のArt Life 砥部焼の器が届いた日。

(2009.11.06)

先日松山空港からバスにゆられて40分ほどの山あいにある、砥部焼の工房へ出かけてきた。陶芸作家池本忠義さんとコラボレーションを行うためである。子供の頃、松山に育った私にとって、砥部焼はとても身近で懐かしさの漂う焼き物である。大人になって松山を訪れた時、時間をみつけて砥部へすぐさま足を伸ばした。そして、たくさんの焼き物の中から、たまたま手にとったのが池本さんの力強い鉢。これが彼との最初の出会いで、あれから20年以上のお付き合いになる。

届いた新しい器を交えていそいそとテーブルセッティング。愛用の池本氏の大鉢と小鉢。現在、90余りの窯で磁器の製作がおこなわれている。工業化が進みすぎていない、手作りの味わいが砥部焼の特徴。古伊万里の器ともよく合う。

砥部は江戸時代、砥石の産地として栄えていた。その砥石の屑を再利用して大洲藩の産業として始まったのが砥部焼の最初である。生地にこだわる池本氏の作陶のイメージは当時にまで遡る。自然に灰や鉄分がちょっととんだり、生地に少し味のある微妙な風合いが出たり、それが路地栽培の野菜と同様、自然な器の肌だという。
だから砥部の土にこだわった磁器を、手作りのかわいい登り窯で大切に焼く。彼が目指すのは自然で健康な器。近年の日本では誰も行っていない方法で、江戸時代の古伊万里や李朝陶器に通じる温かい磁器を彼は作り続けている。

四国は海に囲まれた島、太平洋の荒波もあれば、瀬戸内の穏やかな海もある。様々な海を思い描く。
ずんぐりとしたかわいい登り窯、なまずのような窯だと池本氏。
一度に茶碗で600個ほど焼ける窯は、こだわりの仲間と共に築窯。

さて、数か月前より用意してきた大切な素焼の皿に、恐れ多くも絵付けをしてきた。四国の海をイメージしたアクションペインテイングによる抽象表現。一皿一皿筆をふって水をイメージして絵をつける。呉須の濃淡が素焼きの器に描かれていく。同じ模様はできない。へとへとになって、あっという間に時間が経った。
そして先日、その“海kai”と名付けた器が登り窯で38時間焼かれ、無事東京のアトリエに届いた。

ランチの人気メニュー箱膳弁当は、「風花」オープン時にデザインを手掛けたオリジナルのお弁当箱。その箱膳弁当にピタッとおさまった。

11月1日から始まったコンラッド東京の日本料理「風花」でおこなわれる四国フェアで、砥部焼皿“海kai”は四国食材を使った料理とのコラボレーションを行っている。レストランでの主役はお料理。そこで“海kai”は凛とした存在感を箱膳弁当の上で静かに主張し、さらに風花のモダンなインテリアとの調和をはかる。早速フェアを訪れた昭和女子大学の後輩達の評判も上々。地元砥部では90余りの窯元があり、ようやく発掘調査も行われ砥部焼の研究が進み始めたこれからが楽しみだと思う。