新岡淳のトラディショナル・コスチューム 大島紬。

(2010.04.15)

大島紬って、2回織り上げる って、ご存じでしょうか。

大島紬は、この国の三大紬 というキャッチフレーズの時には必ず名を連ねる織物。

三大産地、日本三景、日本三大祭り、日本三名園、三役、三大都市に御三家、三社祭、産経新聞。この国は「三」がつくものを並べるのが好きです。これは最初、何処の広告代理店が考え出したアイデアなのでしょう。4でもでも2でも良かったと思うのですが、3という数字は、なんとなく耳に聞こえがよいのです。ベストテン(10)という響きを遥かに圧倒しています。

と、ともかく三大紬。
大島紬は正確には紬でないのです。
紬というネーミングの由来である紬糸を使っていないので。正確には大島絣(かすり)なのです。

昔は紬糸であの大島のもう一つの特長である十字絣を出していたそうです。現存する昔の大島紬を見ると、そこにはとんでもない工夫や労力をかけていることが窺えます。しかし、なにしろ残っているものがほとんど無いのが現状で、大島紬という名前でなく薩摩紬 などに名を変え、その当時の技術の一部だけを見ることが出来るだけ。

何故、紬糸を捨て、精錬された細い絹糸に変えていったのか。

絣で表現するきものの柄に、太い紬糸では限界があったからだそうです。今の大島紬と呼ばれる十字絣の精緻な集合から表現される様々な図案や柄は昔の紬糸で作ることは出来ません。紬糸では太すぎるのですね。

きものを少しでも囓った方であれば、7マルキ、9マルキ(きもの屋では本マルキ若しくはコンマルキと説明される)12マルキ(殆ど見ることは
ない)という名前に当たります。マルキとは何か。簡単に言うと、糸の本数の事です。

大島紬は織のきもの。加賀友禅などに代表される訪問着や小紋、色無地は染の着物と呼ばれ、白生地に作家の思いを色に載せ、白生地を染め上げていくものです。対して、大島紬や結城紬は先ず糸に色を付けてから、その糸を組み合わせて織り上げていきます。従って経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が重なる部分で染めた糸を重ねて柄を表現していくのです。大島の柄を間近で見ると、20年前のドットプリンターのギザギザな輪郭を発見できる筈です。

大島紬の絣 黒いところが泥染めされた部分で白いところはその時に染められなかった部分。この白い部分を縦横で合わせた絣の集合で柄を表現する。

今やプリンターもアウトラインを如何に丸くするかが進み、文字の角がギザギザにならない進化を見せています。同様のことが大島紬でも行われていて、それは糸が細くなればなるほど、柄のアウトラインが滑らかになる道理ですね。

詳しいことは書きません。それを書き出すと大島特有の泥に付ける理由や、テーチキ(木の名前)の木くずで〜まで記さねばなりませんので。しかし、マルキの数が多くなればなるほど、そのギザギザが小さくなり、滑らかな図案が表現されていくということを知っておいて下さい。

もちろん、織り手はマルキの数が増えるほどに高い技術を要求されます。写真の15マルキなど、一日に数㎝しか進まないそうです。太い紬糸など、どこの話? の世界。

この柄はひとつひとつの点が集まった絣で表現されています。

そして反物を織っていく過程で、経糸と緯糸にある色が違うところを上手く重ね合わせて、ひとつの十字絣を作っていくのですね。下手な織り手が織ると、その経糸緯糸の色が変わっている部分が上手く重ならず十字を形成できないそうで、強過ぎもせず弱過ぎもせず、当初制作者が考え、計算した通りの位置に色の違った部分を合わせていく技術こそ、長年の経験と技術がものを言う、まさに熟練の技(わざ)が必要なのです。

では、糸の色が違うところはどうするのか。これが冒頭に書いた、大島紬は2回織る というところに繋がります。糸に色を付けるに当たり、経糸、緯糸の織物として完成させるために精微な計算を行い、その部分を糸の時に色を付けたり、色を付けなかったりするために締機(しめばた)という織機で織り上げるのです。

その時が一回目の織。一回目の織は、経糸ばかり、緯糸ばかりを、染めるために集めて織る と書けばだいたいのところを理解して貰えるのではないでしょうか。

本当は、見なければ分からないだろう とおもいます。しかし、この知識を知っていて見るのと知らずに見るのとでは雲泥の差があるのです。私の場合、知らずに見たため、何でこんな事をしているの? と大島の出来る過程で「大変そう〜」という思いしか感じませんでした。そこで説明を聞いても正直、さっぱり理解できなかったのです。

今度、悦文カルチャーサービスその大島紬の出来る過程を含めて様々な大島紬を紹介する機会を設けます。興味のある方は是非、お越し下さい。
詳しくはこちらを。http://www.bebe-ya.jp/fukuoka/news/news100413.html
『bebeya』は、悦文カルチャーサービスが運営する、きもののアンテナショップです。

近くでその技法の複雑さ、難しさを見ると、欲しい! と思うこと間違いなし。そして、その過程の大変さを理解すると、値切れない……のです。

大島紬を値切ろうと思ったら、製造過程の大変さを知らない方が、よい。

 

三大紬。
きもの屋さんなどで開催するイベントでは、この大島紬と結城紬(皆さんも名前はご存じのきもの。これは紬糸で作られた織物)と○○紬。○○には、塩沢紬や米沢、牛首紬 等々、きもの屋さんが売りたい! と思っている紬が適当に入っているのです。商売上の三大紬。いっそのこと、2大紬にすればよいだろう というのは、私の考え。

この国の方は3が大好きだから、無理かも。