藤原陽祐のホームシアター日乗 パーソナルチェア&ソファ。100脚座ってみました。

(2010.12.02)

椅子を扱う企画は一般的ですが、実際に100脚座って、その座り心地まで含めたインプレッションをリポートするとなると、かなり珍しいんじゃないでしょうか。実際に座るだけでも、手間と、時間がかかるし、さらにその感想まで紹介するとなると、けっこうな綿密な取材が必要で、パワーもいる。そんなタイヘンな企画をホームシアター誌(ステレオサウンド刊)でやってしまいました。

企画意図としては「映画1本、2時間、3時間座って快適に楽しめる椅子を探す」というもので、映画、オーディオファンにあらずとも、気になるテーマだと思います。ただ編集部に100脚集めるのはほぼ不可能。ということで、こちらからお店やショールームに出向いての取材となったわけですが、日程はまちまちで、100脚座り終えるまでに、なんやかんやで2週間前後かかってしまいました。

各ショップに足を運び、そこで実際に座り比べをしたリポートを『季刊 ホームシアター』に寄稿(写真はホームシアターvol.51)。右ページのタイトルカットに使われているカッシーナのフランコ・アルビニ/TRE PEZZI(マットブラック塗装:48万900円~60万6900円。問い合わせ:カッシーナ・イクスシー青山本店 Tel. 03・5474・9001。いったいどんな座り心地なのでしょう。そのリポートは2010年12月11日発売のvol.52で。

今回の取材で痛感したのは、椅子に座ったり、立ったりする作業は、予想以上の重労働だってこと。1日に4、5脚の取材であれば、そう問題はないのですが、10脚を超えると、その夜から翌日、どうも足腰が重い。夜、ついつい取材のことは忘れて、馬鹿騒ぎしていると、太股当たりに疲労感がズシリ。最初のうちは「年のせい」と思いこんでいましたが、冷静に考えてみると、実は椅子の取材のせいでした。

ここまで数をこなすと、長時間座っていたい椅子かどうか、座る前にダイタイは分かってきます。見どころは、サイズ(特に座面の高さ)、座面、背もたれの形状と硬さ(素材)、アームレストの位置などなど。特にホームシアター用としては、ある程度の座面の硬さと大きさが大切で、疲れた時にお尻が自由に動かせる方が好ましい。それに椅子が柔らかいと、立つ時の労力も大きくなりますから、映画鑑賞中、お酒やつまみをちょっとキッチンまで調達に行くにも、相当なストレスになります。

でもお店の人に聞くと、これから2人暮らしを始めるような若いカップルの場合、椅子にしても、ソファにしても総じて柔らかなタイプを選ぶ傾向があるそうです。腰が沈み込むようなフワフワのソファに憧れる気持ちも分かりますが、それが楽しいのはほんの一瞬のこと。生活するには、適度な硬さも大切ですよ、ハイ。

そして今回の取材で痛感したことは、デザイン的に評価の高い椅子が、必ずしも座りやすい椅子ではないということ。これは高価な椅子が座りやすい椅子とは限らない、とも言い換えられるのですが、椅子選びで大切なことは、とにかくこまめに家具屋さん、ショールームに出向いていって、1脚でも多くの椅子に座ってみること。お店の人と顔見知りになるくらい、通いたいところです。

掲載は『ホームシアター』秋号と冬号(冬号は12月11日発売予定)。本屋さんで見かけたら、ぜひ手にとってフジワラの悪戦苦闘ぶりをご覧ください。

ホームシアターという空間だけではなく、インテリアとしても置きたくなるようなデザインコンシャスなオーディオ機器の情報も。さらに藤原陽祐さんは、元ミッテラン大統領が来日した際の晩餐会でサービスを務めた経験をもつフィリップ・ソーゼットさんとオーディオとホームシアターの不思議な関係をテーマにした連載を担当。