桂真菜の演劇ダンス道 首藤康之は斬新なダンスに挑戦。7月は小野寺修二と、9月はS.L.シェルカウイと……音楽も美術も素晴らしい空間を創るぞ!

(2010.07.12)

クラシック・バレエのプリンスとして開花した首藤康之は、ベジャールやキリアンの振付によるコンテンポラリーも、マシュ−・ボーン振付『白鳥の湖』も踊ってきた。最近は具象から抽象まで多彩なスタイルを探求する画家のように、未知の領域に挑戦し続けている。2010年の7月と9月に出演する2作品の印象は全く違うが、空間全体を味わうARTである点は共通。両作ともダンスと演劇の境界を揺らしながら、観客の視聴覚と思考に刺激を与えてくれる。

『空白に落ちた男』で首藤は机とも踊る?! 遊び心に富む小野寺修二(中央)の演出が冴える。photo / 青木司(初演舞台より)

7月から8月にかけてパルコ劇場で上演される『空白に落ちた男』は、’08年にベニサン・ピットでロングランした人気作のリニューアル公演。マイムから出発して多彩な活動を展開する小野寺修二と協力して誕生させた同作は、サスペンス風の構成にユーモアが煌めく。次に何が起こるかスリルに震える観客は、首藤たちと不思議な旅に出た仲間みたいな気分に。オリジナル音楽を作曲したのはアコーディオン奏者としても名高いcoba。サウンドや身体と対話する美術を手掛けたのは松岡泉。この愛すべき実験的な舞台の初演に登場した5人のパフォーマーのうち、2人が交代する。新たに参加するのは、フォーサイス・カンパニーの安藤洋子とコンドルズの藤田善宏。凄玉ダンサーたちのパワーを得て『空白に落ちた男』がどう進化するのか、期待でわくわくする。

 
 

異なる文化背景をもつシェルカウイ(右)と首藤が、階段を設えた舞台でドラマティックに交流。Photo / MITSUO
ジュルド(右)はフランスの国立サーカス学校の出身。

9月にオーチャードホールで披露される『アポクリフ』は、’07年にブリュッセルの王立モネ劇場の初演以来、各国に招かれている。この作品は振付のシディ・ラルビ・シェルカウイと首藤が意見を交わしながら創ってきた。ベルギー人の母とモロッコ出身の父をもち、イスラム文化の影響を受けたシェルカウイは、コンテンポラリー・ダンスをリードするベルギー舞踊界でもひときわ輝く存在。自らの心の傷を見つめ、歴史や文化に対する深い考察をステージに反映させる手法が見事だ。インテリジェンスと暴力的なほど強靭な身体能力が共存する彼のダンスは、観客にさまざまな問題を投げかける。

今回は聖書やコーランなど宗教の聖典に加えて中原中也、三島由紀夫などの文学もモチーフとなる。鋭い美意識で空気を切り裂くシェルカウイ、優雅さと情熱的な表現を併せもつ首藤、アクロバティックに躍動するディミトリ・ジュルド。このダンサー3人を包む衣裳はドリス・ヴァン・ノッテンのデザイン。3人で一体の人形を操る場面には、生と死のイメージが重層する。ときに荘厳に、やがてエロティックに……、刻々と変容する舞台で歌う7人の男たちの声も観客を魅了。コルシカ出身のアカペラグループ、ア・フィレッタの合唱がライブで聴ける貴重な機会でもあるのだ!

 

『アポクリフ』より。首藤の後方で歌うのはコルシカ出身のアカペラグループ、ア・フィレッタ。

『空白に落ちた男』

作・演出:小野寺修二
音楽:coba
美術:松岡泉
衣裳:斉藤絵美
出演:首藤康之、安藤洋子、藤田善宏(コンドルズ)、藤田桃子、小野寺修二
2010年7月24日(土)〜8月3日(火)、パルコ劇場 Tel. 03-3477-5858
http://www.parco-play.com/

 
『アポクリフ』

演出・振付・出演:シディ・ラルビ・シェルカウイ、出演:首藤康之、ディミトリ・ジュルド、コーラス:ア・フィレッタ 、衣裳:ドリス・ヴァン・ノッテン
2010年9月4、5日(土日)Bunkamuraオーチャードホール Tel. 03-3477-3244
予約・問合せ:ローソンチケット 0570-000-407 
eplus

*ア・フィレッタは2010年8月21日から28日にかけて、新潟、東京、愛知、兵庫で公演。
問合せ:プランクトン Tel. 03-3498−2881
http://www.plankton.co.jp/