山本貴代の“女の欲望グツグツ” 「まっくら音楽会」に行ってまいりました。

(2008.09.04)
先日、「まっくら音楽会」に行ってまいりました。完全なる真っ暗闇でのコンサートです。ダイアログ・イン・ザ・ダークの音楽会バージョンです。

その前に……みなさんは、ダイアログ・イン・ザ・ダークをご存知ですか。ドイツ発祥のイベントで、一筋の光も入らない場所で、視覚障害者がリーダーとなって、健常者を、真っ暗闇の冒険へと連れ出してくれるイベントです。完全なる暗闇は、経験しようにもできない状態で、初めての人は、それにまず驚きます。目を開けても閉じても、真っ暗闇。どれだけ時間が経過しても、目が慣れてくるということはありません。

見知らぬ人たちとグループをつくり、白杖を持って、声を掛けあいながら、前へと進んでいくのですが、行く手には、小川が流れていたり、大樹があったり、枯れ葉が敷き詰められていたり、バス停があったり、太鼓橋を渡ったり、民家にあがりこんだり、お祭りに遭遇したり、様々なことが待ち受けています。五感が全開します。去年は、廃校した学校を利用して、真っ暗闇の校舎を探検しました。不安で、おいてきぼりにされてしまいそうで、「どこですかー」と声を出さずにはいられませんでした。

ダイアログ・イン・ザ・ダークを黙って体験できる人がいたら、すごいと思います。そこでは、立場も逆転します。通常の生活では、視覚障害者を健常者が助けるという構図が出来上がっていますが、真っ暗闇の中では、アテンドと呼ばれる視覚障害の方たちが、頼みの綱です。アテンドの方たちは、真っ暗闇の空間をまるで見えているかのように、軽やかに行き来します。魔法使いのようです。声の大きさで、誰が遅れているかも把握します。とにかく、このイベントは気づきが多いので、まだ経験していない方は、是非、次回の体験をお勧めします。日常生活が、いかに、視覚に頼っているかがよくわかります。

で、話は元にもどって、「まっくら音楽会」。光がどこからも漏れない状態を作るのは、そうとう技術がいることのようですが、その会場も、まさしく真っ暗闇をつくってありました。急に真っ暗になると、パニックになる人、呼吸困難になる人もいるということで、だんだんに暗くしていきます。終わった後も、だんだんに目をならしていきます。そんな中、視覚障害者のバイオリニスト、ピアニスト&ヴォーカル、フルート奏者たちが、それぞれ弾き語り、歌い、最後にはみんなで大演奏。フルートは、金と銀のフルート、それぞれ二種類での演奏がありましたが、音色がかなり違うのです。聞いている人たちも、手を叩いたり、時に参加できました。会場の広さはわかっているはずなのに、途中でわからなくなりました。とても広い会場で聞いている感覚になりました。なんとも不思議な音楽会でした。音と、こんな形で真正面から向き合う体験はそうありません。視覚をとり除くと、魂で音楽を味わうというか、頭や目ではないもっと違う感覚で音を楽しめることに気づきました。

アンコールで、「千の風になって」を聞いたときは、その歌声の美しさもありましたが、魂が揺さぶられ、涙が、とめようと思ってもほろほろこぼれ落ちて、ハンカチを探すにも暗くて探せなくて大変でした。ただ、涙が、次から次へと溢れでてくる。真っ暗闇で、誰にもみられないから、心も解放されたのかもしれません。

【夏の思い出1】タイの秘境チャーン島で、ゾウの背中に直に乗って散歩。この数分前、直接乗ったが、耳しか持つところがないため、落ちそうでかなり怖かった。思わず、内股に力が入った。

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真っ暗やみってこんな感じ。

イラスト/ちば えん