斉藤弓子のおいしいパリ案内 進化しつづける
フランスのショコラ

(2012.10.24)

ジャン=ポール・エヴァンの柚子風味ボンボンショコラと新作マカロン。

今年のテーマは『Joue avec le feu 』

肌寒くなってきたパリ。チョコレートがより一層おいしく感じられる季節になってきました。チョコレートといえば、パリでは10月31日よりサロン・デュ・ショコラが始まります。世界中のチョコレート好きが注目するこの見本市では、ショコラ愛好家クラブ(Club des Croqueurs de Chocolat、略してCCC)とフランスの雑誌L’express styleによって les Awards du chocolat が発表されます。フランス中から選ばれたショコラティエ100人の中の最優秀ショコラティエには、最高評価の5つタブレットが与えられます。そしてその詳細がショコラのガイドブック「le guide des croqueurs de chocolat」として毎年発行されています。その5つタブレットの常連の一人がジャン=ポール・エヴァン氏。L’express styleからは「フランスのショコラ界の巨匠のひとり」、また「ショコラの生き神」と称されています。エヴァン氏のショコラは一般の人よりも、食通やプロ達の間で知られています。

そのエヴァン氏は毎年テーマを掲げて、ノエルやバレンタイン、パック(復活祭)の作品を発表しています。今年は『Joue avec le feu(火で遊ぶ)』。プレス発表会では、アイディア溢れるユニークなモチーフのケーキ、新作のマカロンやボンボンショコラが登場しました。

ダイナマイト、マッチの形をしたショコラなど『Joue avec le feu』にちなんだノエルのケーキが発表されました。
ダイナマイト、マッチの形をしたショコラなど『Joue avec le feu』にちなんだノエルのケーキが発表されました。
見た目は楽しいケーキですが、中身は実にクラシックで素直においしいと思わせる味わい。
見た目は楽しいケーキですが、中身は実にクラシックで素直においしいと思わせる味わい。
ショコラティエであり、MOFパティシエ

テーマにちなんだノエルのケーキは、見た目が楽しいデザインですが、その構成はクラシック。ダイナマイトの形は、ビターチョコレートのムースの中にはキャラメル、そして四川胡椒が使われています。実はこのときはまだ試行錯誤の最中で、キャラメルの食感がまだ納得のいかない様子。確かにういろうのような不思議な口当たりでした。四川胡椒の風味はそれほど感じられなかったものの、全体の味わいのバランスがよく、クリスマス本番の完成形が楽しみです。マッチ棒の形は、ビターチョコレートのクロッカン、アーモンド風味のビスキュイ、ビターチョコレートのムースの中にはオレンジと柚子のジュレを忍ばせています。ここ数年で、パティシエ、ショコラティエが使う定番素材となった柚子。このケーキでも爽やかなアクセントとなっていました。評判がよかったのは炎の形をした飴がのった、シンプルなビターチョコレートのムース。プラリネの香ばしさとさくさくとした食感がチョコレートの味わいにぴったりの、王道の組み合わせ。シンプルなものこそ奥が深く、職人の技術が光る、ショコラティエでありMOF(国家最優秀職人)パティシエならではの仕上がりでした。

新作のタブレットはブラジル産のカカオを使ったカカオ分68%の『Tablette Macaé』。口に入れると柚子の香りと味わいがぱあっと広がるボンボンショコラ、アーモンドクリームやグリオットのジュレを使ったマカロンなど、ショコラとそれに合わせる素材、その組み合わせから生まれる味わいが印象的でした。ショコラはもちろん、私のお気に入りはサブレ。香ばしいサブレの裏にチョコレートがかかっていて、さくさくの食感がとても上品。ボンボンショコラとサブレが入った箱は、おみやげにおすすめです。

またウェブサイトもリニューアル中。美しく、より見やすくなり、エヴァン氏の世界観が表現されています。サロン・デュ・ショコラでは、フィガロ紙のランキングで1位に輝いたショコラ・ショーが登場。生クリーム、食感のあるパール型のチョコレートなど、数種類のトッピングで楽しむことができます。日本でお店をオープンして今年で10周年。この成功には、エヴァン氏の探究心と仕事に対する厳しさ、そして遊び心にあるのかもしれません。

プレス発表の際に用意された『ジャンポールエヴァン(JPH)ジャーナル』。素敵なアイディア!
プレス発表の際に用意された『ジャンポールエヴァン(JPH)ジャーナル』。素敵なアイディア!
食感、味わいが最高のサブレ。裏にチョコレートがかかっているのもお気に入りの理由。
食感、味わいが最高のサブレ。裏にチョコレートがかかっているのもお気に入りの理由。
メゾン・デュ・ショコラの新シェフ Nicolas Cloiseau氏

1977年、『ガナッシュの魔術師』といわれるロベール・ランクス氏が48歳のときに創業した『ラ・メゾン・デュ・ショコラ』。ショコラの殿堂として世界中にその名を知られて、今年で35周年を迎えます。そして今年の春、新たにシェフに就任したのはニコラ・クロワゾ(Nicolas Cloiseau)氏です。メゾン・デュ・ショコラで働き始めたのは1996年。2005年にチョコレートの世界大会「ワールド・チョコレート・マスターズ」のピエスモンテ部門で1位に輝き、2007年にはショコラティエとしてMOF(国家最優秀職人)のタイトルを取得。メゾン・デュ・ショコラのチョコレート作り、そしてブランドのエスプリを体感し、体得しているチョコレート職人です。ジル・マルシャル氏がクリエイション・ディレクターに就任したときは随分話題になりましたが、今回のニュースは何だか控え目。チョコレート作りに真摯に取り組んできたその人柄がそうさせているのかもしれません。実際話してみると、控えめで落ち着いた雰囲気ですが、どこか面白さがあるクロワゾ氏。このメゾンでの長年の経験が自信になっているように感じました。「創始者のローベル・ランクス氏、そのランクス氏の右腕として活躍したパスカル・ル・ガック氏、クリエイション・ディレクターのジル・マルシャル氏、これら全てのシェフたちと働き、彼らの仕事を間近で見てきました。私の仕事はランクス氏が今日、創るであろうチョコレートを作ることです」。

今年より新シェフに就任したニコラ・クロワゾ(Nicolas Cloiseau)氏。
今年より新シェフに就任したニコラ・クロワゾ(Nicolas Cloiseau)氏。
来年のヴァレンタインのショコラ5種。
来年のヴァレンタインのショコラ5種。
メゾンのエスプリを伝えながら、オリジナリティを加える

ランクス氏のチョコレートを引き継ぎながらも、クロワゾ氏の個性を感じるのは2層になったガナッシュ。例えば、来年のヴァレンタインの新作の中にある「ペルー産とエクアドル産のビターガナッシュ」。産地の違うチョコレートを混ぜるのではなく、2層にすることで、それぞれの味わいとマリアージュを楽しむことができるというものです。他にはジャマイカ産胡椒とマダガスカル産バニラのビターガナッシュ、ミルクチョコレートで覆ったフランボワーズとライチのガナッシュ、そしてここ数年で料理やお菓子で見かけるようになった「ガランガ」というショウガとレモンピールを加えたプラリネなど、新しい味わいも加わっています。「日本のみなさんはどの味がお好きでしょうか?」と、周りの声を聞くことも忘れないクロワゾ氏。料理でもお菓子でも、様々な種類の柑橘を使うのが最近の傾向ですが、ここではクレモンティーヌをビターチョコレートに合わせたクリスマスケーキを提案。見た目もモダンで、これからのクリエイションが楽しみです。

メゾン・デュ・ショコラが日本に進出したのは1998年、ジャン=ポール・エヴァンは2002年。この辺りから日本での「フランスのショコラティエのチョコレート」が広まっていったのではないでしょうか。メゾンのイメージや味を守りながら、新しい提案を続けていくこと。わたしたちの心をとらえて離さないのは、クラシックとモダンが共存する、進化しつづけるチョコレートなのだと感じました。

ノエルのケーキ『Buche Constellation』はクレモンティーヌがアクセントのビターチョコレートのムース。値段は120€!
ノエルのケーキ『Buche Constellation』はクレモンティーヌがアクセントのビターチョコレートのムース。値段は120€!
ショコラ好きのためのガレット・デロワはビターチョコレートのガナッシュをサンド。
ショコラ好きのためのガレット・デロワはビターチョコレートのガナッシュをサンド。

ジャン=ポール・エヴァン
231 Rue Saint-Honoré 75001 Paris (ほかに支店あり)
メトロ:Tuileries 1番線
Tel:01 55 35 35 96
営業時間:10:00~19:30
定休日:日曜

メゾン・デュ・ショコラ
8 Boulevard de la Madeleine 75009 Paris(ほかに支店あり)
メトロ:Madeleine 8.12番線
Tel:01 47 42 86 52
営業時間:10:00~19:30
定休日:日曜