Creators 現実を映し出す鏡の映画を作る
C・ガニオン監督最新作『カラカラ』
(2013.01.15)
リタイア後、念願のアジアの旅を満喫する元大学教授のカナダ人 ピエールが、沖縄の風土、人々、そして伝統工芸 芭蕉布に魅せられ、那覇で知り合った日本人女性 純子と沖縄各地を旅するロードムービー『カラカラ』。ピエールと純子の会話は英語、ピエールのモノローグはフランス語、沖縄のおばあたちが喋る言葉はウチナーぐち(沖縄方言)という、インターナショナルな感覚で夫婦や、友情、加齢という普遍的なテーマを描いた作品です。映画を監督したクロード・ガニオン監督に、『カラカラ』製作のきっかけなどのお話をうかがいました。
■プロフィール
カナダ人男性 ピエールと、
日本人女性 純子の沖縄ロード・ムービー。
ー『カラカラ』は、カナダ人男性 ピエールと、日本人女性 純子が、沖縄の旅で時間をともにするうち男女として、人間同志として理解を深めていくロード・ムービーです。夫婦、家庭、友人といった普遍的な人間関係について考えさせられる内容となっています。製作のきっかけを教えてください。
クロード・ガニオン監督(以下ガニオン監督) 僕が脚本を書く時はいつも人間からはじまります。まずは純子という女性のお話をしたかった。それから沖縄で撮影したかった。そこからはじまりました。
純子の相手は、最初はウチナンチュ(沖縄の人)の若い男性でもいいかなと考えていました。外国人にすると、ちょっと違った視点の映画になってしまうと危惧していました。ディスカバー・オキナワとか、観光映画っぽくなってしまう、と。できるだけリゾートホテルみたいなところでは撮影したくなかったです。結局男性は、ピエールという外国人になりましたが、その男性はリゾートホテルでゴルフをやっているようなタイプにはなりませんでした(笑)。
ピエールはどんなところを旅するだろう? と、いろいろあたっているうちに沖縄北部 伊平屋島(いへやじま)と伊是名島(いぜなじま)の間の具志川島(ぐしかわじま)という無人島をみつけました。1972年まで人が住んでいましたが、今はみな伊是名島に移ってしまった人が住んでいない島です。ピエールならきっとそういうところを旅するに違いない。そこで、純子とピエールがふたりで話すシーンを撮影しました。
最初から最後まで脚本を書いてからロケハン、撮影場所を探すのではなく、僕の場合は脚本を20ページくらい書いたら、撮影場所がわかっていたい。それから、登場する俳優の顔をわかっていたい。シナリオを書く時に、このシーンは撮影できるかどうか考えて、撮影できそうになかったらそのシーンは書きません。だから撮影場所は私にとってとても大切です。
僕の作品は「鏡の映画」
よいか悪いかの判断は観客に委ねる。
ーガニオン監督は、脚本を考える時に、最初に映画のワンシーン、映像が浮かぶタイプですか? それともセリフから考えていくタイプですか?
ガニオン監督:そんな発想のフォーミュラ(方程式)なんてないでしょう?(笑) 僕はいつも人間からはじまります。興味があるのは人間。『カラカラ』では純子のことを描きたかったですが、ピエールと純子のふたりのコントラストも面白い。
ーガニオン監督は、もともとカメラマンなので、どちらかというとシーンが先に見えるのではないかと思うのですが。
ガニオン監督:そうですね、そのためにも脚本を書く時に俳優の顔がわかっていたいのです、そうでないと難しいです。ピエール役のガブリエル・アルカンとは、昔から一緒に映画を作りたいと考えていたのでわかっていたのですが、純子役はあとから決まった。工藤夕貴にたどりついた時には、もうすぐにでも会いたかったです。
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ーピエールと出会うことで生活を変えていこうとする純子は実在の方ですか? モデルがいらっしゃるのでしょうか?
ガニオン監督:僕の作品中の人物は、いつもひとりのモデルがいるというわけではありません。純子は……abused woman(ドメスティック・バイオレンスの被害に合っている女性)を描きたかったのです、日本だけじゃなくどこにでもいる女性たち。純子は、だんなさんに暴力を振るわれても一緒に暮らしていた女性です。教育を受け、大学も出て、英語も喋れるのに、結婚したら自分のことを忘れてしまう。普通の奥さんになって子供を産んで……。だんなさんは奥さんのことを見向きもせず、触ることもしなくなってしまう。けど、ずっと一緒に住んでいる。これは信じられない。
僕は人間でも国でも、ひとをコントロールするのは好きじゃない。反対です。でも僕は映画の中でそうじゃないと教えたり、この方がよいとかこれは悪いとかは言いたくない。僕の映画は「鏡の映画」です。こんなことがあった、と観客に見せるだけ。よい、悪いの判断は、観客に委ねます。
ー純子とピエールは道中、考え方や習慣の違いでディスカッションし理解を深めて行きます。日本人とカナダ人のものの考え方や感じ方ちがいをよく表しているシーンです、これは日本人女性とご結婚なさっているガニオン監督の実体験に基づいたエピソードなのでしょうか。
ガニオン監督:僕は、自分が生まれた国とちがう国に、一度は行かないとダメだと思います。人間として、ひとつの国の文化しかわからなかったらちょっと足りないのではないか、と思います。自分のことがわかりたかったら、外国に行くべきです。外国行くと視野が広くなります。この外国に行くというテーマ、僕は大好きで、次回作はカナダ・ケベック人がハンガリーに行くお話です。
なぜハンガリーかって思ってるでしょ? (笑) 僕はどこでもかまわないので、外国に行くべきだと思うんです。若い人は特に、いや年齢は関係ありません。
沖縄という風土の魅力。
ーピエールは芭蕉布の工房のある村をたずねて、自然と人間が完全に調和していることに多いに感動します。本作の舞台である沖縄の魅力とはどのようなところだと思いますか?
ガニオン監督:いちばん好きなところは、(人が)年をとっても沖縄では居る場所が残っている。外国では定年を迎えるとその後の居場所がなくなってしまう。職業もなくなって自分に自信がなくなってしまう。でも、沖縄では80歳でもだいじょうぶでしょう。『カラカラ』に登場した国頭郡大宜味村喜如嘉(くにがみぐんおおぎみそんきじょか)、芭蕉布の平良敏子さんの工房では82歳のおばあちゃんがお給料をもらっている。
平良敏子さんの工房は戦後大きな役割を果たしました。戦争未亡人たちに仕事を与えました。そして現在でも40歳になったらこの仕事、50歳になったらまたちがう仕事、80歳にはこの仕事、とそれぞれに仕事を渡しています。外国では年をとることは体のあちこちが弱って痛くなってきたり、仕事がなくなったり辛いことですが……沖縄ではちがうね。
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ーガニオン監督が映画監督を目指したきっかけは?
ガニオン監督:僕はテレビ世代です、テレビとともに産声を上げました。5歳の時、肺炎になって家で闘病していました。朝から晩までテレビでジャン・ギャバンやジョン・ウェインの映画を観れてとても楽しかった。映画が大好きでした。当時ケベック人で映画人になった人なんていなかったと思います、でも、13歳の頃です。学校で「将来はどんな仕事につきたいか?」という質問に「弁護士になりたい」「先生になりたい」と答える生徒の中で「映画人になりたい」という人がいました、映画人って職業なのかー、と驚きました、映画人って生活できるの? あの時から、映画人になりたいと思っていたんですね。
好きな映画作品は、17歳のころに見た日本映画『鬼婆』(’64 / 新藤兼人監督)、『砂の女』(64 / 勅使河原宏監督)、ショックでした、フランソワ・トリュフォーやジャン・ルノワールの映画も大好きで全部見ましたね。でも、あんな風に映画を撮りたいとは思わなかった、僕は僕のやり方でいく。今もそう思っています。
■ストーリー
カナダ・ケベック州のモントリオールからやって来て念願のアジアの旅を満喫している元大学教授ピエール(ガブリエル・アルカン)は気功のワークショップのあと、沖縄の島々を旅して過ごそうと考えていた。博物館への道で、迷ってしまったピエールは英語が堪能な主婦、純子(工藤夕貴)らと知り合う。博物館で沖縄の素朴な織物、芭蕉布に魅せられ、ピエールは芭蕉布の工房、へ取材することにする。
翌朝、ピエールが公園で気功に励んでいるとなぜか純子が現れ、那覇をガイドしてくれる。夜になると、ピエールの滞在するホテルにやって来て、なんと家出をしてきたという。夫の暴力に耐え切れなくなって家を出てきた、ピエールの旅に同行したいという。ふたりは道中をともにすることになるが……。
『カラカラ』
2013年1月12日(土)より沖縄シネマQ先行公開
1月19日(土)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー!
キャスト:ガブリエル・アルカン、工藤夕貴
音楽:新良幸人
プロデューサー:宮平貴子、サミュエル・ガニオン
©2012 KARAKARA PARTNERS & ZUNO FILMS