柳忠之のワインの知恵 シャンパーニュ・サロン。

(2008.06.09)
「シャンパーニュ・サロン」。ドン・ペリニヨンやクリュッグに飽きたワイン通、シャンパン通の人たちが、次に選ぶ至高のプレステージ・キュヴェです。

コート・デ・ブラン地区にあるグラン・クリュの一つ、メニル・シュール・オジェ村のシャルドネから造られたブラン・ド・ブラン(白ブドウのシャルドネ種のみから造られたシャンパンのこと)。長期熟成が可能な、極めて優れたヴィンテージにのみ造られるため、1905年の初ヴィンテージ以来、一世紀の間に誕生したサロンは37しかありません。

そしてこのたび、36番目のヴィンテージにあたる’97年のサロンがリリースされ、青山「ピエール・ガニエール・ア・トーキョー」の屋上テラスでお披露目されました。ちなみに20世紀最後となる37番目のヴィンテージは’99年で、こちらはもう数年、セラーの中で熟成の時を重ねることになります。

サロンが’97年ヴィンテージをリリースと聞き、少々意外な気がしました。というのも、’97年という年はシャンパーニュ全体からみれば決して評価が高くなく、ドン・ペリニヨンもクリコのラ・グランダムもこの年には造られていません。

プレステージ・キュヴェの中でもとくにリリースの年を厳選するサロン。他のメゾンがプレステージないしミレジメ(単一年のシャンパン)を造った年にサロンは造らなかった、という例ならいくらでもある一方、その逆は非常に稀です。

そこでこの日、フランスから来ていたサロン社社長のディディエ・ドゥポンさんに質問してみました。

「’97年はアップダウンの激しい天候でした。冬はとても寒く、春には遅霜の被害がありました。しかし収穫期にはとても良い天候に恵まれたのです。シャンパーニュ地方ではまずシャルドネを摘み取った後に、黒ブドウのピノ・ノワールやピノ・ムニエを収穫します。この年はシャルドネを収穫し終えた直後から雨が降り始めました。したがって、シャルドネのみを使うサロンにとっては例外的なほど素晴らしい年となりましたが、黒ブドウ主体のメゾンにはあまり良い年ではありません。’97年にミレジメを造ったメゾンはわずか10社しかないんですよ」

なるほど、納得のお答えです。

さて、いよいよサロンが配られ始めました。いかにもサロンという風情の、濃いめの色調です。サロンは70年代にはすでに、オーク樽での熟成を止めていますから、この色合いは10年以上の瓶内熟成によって醸し出されたものです。「おいしいね」「さすがサロンだね」という声があちこちから聞こえます。ところが……。

ここでハプニングが発生しました。会場に持ち運ばれたサロン。これが新ヴィンテージの’97年ではなく、現在、市場に流通している’96年だったのです。

これまで3度ほど’96年のサロンを飲む機会に恵まれた私であっても、この誤りには気づきませんでした。というのも、私が最後にサロン’96年を口にしたのは昨年の9月頃ですが、’96年は酸が強く、ガチガチでなかなか飲み頃にならないという印象が強いんです。ところがこの日、’97年と誤って振る舞われた96年のサロンは、ナッティな香りが程よく漂い、きれいな酸を残しながらも全体に丸みを帯びた、とても上品な熟成をしていました。

どうやら倉庫からの出荷ミスが原因のようですが、’97年をお披露目しないことにはこの会の意義が失われてしまいますから、スタッフは急遽、’97年を取りに向かい、その間、ゲストは96年で場をつなぐということに。図らずも、’96年と’97年を比較試飲する機会に恵まれたわけで、ゲストはラッキー、輸入元はアンラッキーな一夜となってしまいました。

さて、私のグラスに4杯目の96年が注がれた頃、’97年が到着。そして’96年を飲み干した後に、ほどよく冷えた’97年のボトルが会場を回り始めました。

新たに注がれた’97年。’96年をしこたま飲んでしまった後ですから、ことさら若さが際立ちます。香りは柑橘類や白い花が主体です。しかしながらリリース仕立ての96年に感じたような、口の中をつんざくような強い酸味や、鋼のようなミネラルの固さはそれほどでもなく、かなり柔らかな印象を受けました。ドゥポン社長が言う、レースのような繊細さがたしかに感じられ、これから数年寝かせてみると、また面白い味わいを提供してくれるように思えます。

とうとうお開きの9時過ぎまで会場にへばりつき、’96年4杯、’97年3杯ほどを飲んだでしょうか。ここで値段のことを申し上げるのも下品ですが、’97年の希望小売価格は5万2,500円(消費税込み)! 。リリースに先立ってイタリアで行われたインポーターズ・ミーティングにおいて、全世界でサロン’97年の価格を300ユーロと設定するを決め、これを指標に各国の通貨レートに換算した金額で売ることになったそうです。これは第三国経由で並行輸入品が出回ることを防ぐ意味合いもあります。(やはり新興国の力はここでも強く、ロシアは倍の値段で売ってみせるから、割当を増やして欲しいと迫ったとか)。

サロンはなかなか難解なシャンパンですが、それでも惚れずにはいられません。

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いつもおしゃれなサロン社社長のディディエ・ドゥポンさん。

青山「ピエール・ガニエール・ア・トーキョー」の屋上テラスよりプラダを眺めるとファッションショーの真っ最中。

サロンを片手にワイン専門誌『ビノテーク』の美男美女全員集合。

サロンを囲む美女集団。

こんなにいっぱい空けました…。