田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》 ホノルル美術館 ジョージア・オキーフとアンセル・アダムス展 ホノルルの青い空、
オキーフの白い花 

(2013.11.19)

東の地中海コートヤードから西のチャイニーズコートヤードまで一直線に並んでいる

ワイキキから2番のバスに乗って

ガイドブックの地図と窓の外の景色を注意しながら見ていたのだが、つい乗り過ごしてしまった。あわてて窓際の紐を引っぱり運転手に合図して、次のバスストップで降りる。観光客で溢れるワイキキからダウンタウン方面へバスで20分、だだっ広い道路には“この〜木なんの木”みたいな並木が続き、ハイスクールや公園が広がる緩やかな斜面の裾にホノルル美術館はあった。白い壁に茶色の丸い瓦屋根が美しい、どこか東洋風の建物だ。正面玄関の両側には、狛犬のように立つ2頭の馬が出迎えてくれる。10ドルのチケットを買って館内に入ると、ちょうど巡回を始めたばかりの日本語ガイドのツアーグループと会い、混ぜてもらうことにした。ラッキー。

美術館の玄関で、狛犬ならぬ狛馬が出迎えてくれた
美術館の玄関で、狛犬ならぬ狛馬が出迎えてくれた
館内あちこちに狛犬が番をしている
館内あちこちに狛犬が番をしている
インドネシアの仮面たち現代美術の部屋もある
左:インドネシアの仮面たち
右:現代美術の部屋もある
平安期の木像動物の影絵のような扉
左:平安期の木像
右:動物の影絵のような扉
オキーフとパイナップル

美術館中央、緑の芝の中庭(セントラルコートヤード)左にある展示室では、ジョージア・オキーフとアンセル・アダムスがハワイ滞在中に制作した作品の特別企画展が開催中だった。タイミングいいなあ。前日にオアフ島をレンタカーで一周した私は、島の北東側の山肌が想像以上に手つかずの熱帯そのままで、その深山幽谷ぶりに少なからず驚いた。今、アダムスが撮影したモノクロームの熱帯植物や大自然を目の前にして、あの時に感じた自然に対する驚異と言おうか、神がかった恐れみたいな感覚が再び蘇った。彼は国立公園シリーズの写真撮影のために1948年にハワイを訪れたそうだ。

一方のオキーフは、ハワイのパイナップル会社(Dole)の依頼で広告用のパイナップルの絵を描くために3ヶ月間ハワイを訪れている。1939年、彼女が52歳の時だ。熱帯の花々や緑深い峡谷、そして海の絵を20点描いて(依頼されたパイナップルの絵は手つかずのまま)ニューヨークへ帰ってしまったらしい。後日、ハワイではなくニューヨークでパイナップルの莟(実ではなく)の絵を描いたそうだ。さほど広くはない展示室に飾ってある、ハワイで描いた白い花の絵や緑の風景画を見ながら、頑なまでに“花”に固執したオキーフの心情に思いを巡らしてみた。(企画展の撮影は禁止でした、残念)

セントラルコートヤード 東洋的な瓦屋根の勾配に心が和む
セントラルコートヤード 東洋的な瓦屋根の勾配に心が和む
中庭の回廊には、時を忘れて座っていたい
中庭の回廊には、時を忘れて座っていたい
地中海風の中庭

個人のコレクションからスタートしたというホノルル美術館の収蔵作品は、今ではアメリカ、アジア、中近東、ヨーロッパ、アフリカなど世界各国に渡っているそうだ。中央の広い中庭の西にあるチャイニーズコートヤードに面して、中国、韓国、日本、アジア圏の仏教美術の展示室が並んでいる。その北側のパームコートヤードにはインドやイスラムの美術品。中央東の地中海コートヤードには印象派などヨーロッパの作品。カフェ前のテラスを含め、大小あわせて6個の中庭が並んでいることになる。それぞれの中庭に面した展示室はみんな明るく気持よく、展示作品は数こそ少ないがセレクトされた趣味の良さが感じられる。エスニックな作品群もさることながら、それぞれ趣の違う中庭の設計に私はいたく魅了された。一番のお気に入りは、噴水がある地中海風の中庭。紅い花の下の白いベンチに誘われるように腰を下ろした。中世の教会のような回廊を歩き、迷路のような中庭を巡って展示作品を見ていると、いろんな国の文化が混ざり合ったハワイ独特の多文化構造の一端に少しだけ触れたような気がした。

地中海コートヤードの白い床は大理石だ
地中海コートヤードの白い床は大理石だ
パームコートヤード 毎月最終金曜夜にはアート・アフターダークのイベントがあるらしい
パームコートヤード 毎月最終金曜夜にはアート・アフターダークのイベントがあるらしい
チャイニーズコートヤード 池は“月”のかたちに作られている
チャイニーズコートヤード 池は“月”のかたちに作られている
イスラム風の青いタイルが美しい
イスラム風の青いタイルが美しい
想定外のハムサンド

早足で見て回ったガイドツアーだったが、1時間半はかかる。昼時には席が埋まってしまうと評判の美術館カフェへ、なんとか12時前に滑り込み、眺めのいい席を確保した。日本語のメニューも用意されていて、セットメニューのランチにしようと意気込んでいたのだが、遅めの朝ご飯だったので無難にハムサンド(13ドル)を注文。運ばれて来たのは、ハムサンドの概念を打ち砕くような、ビッグハムバーガーみたいな一品だった。サラダもたっぷり付いて、軽く炙った厚切りハムはジューシーで、なんだか巨大な握り鮨でも食べているような感じだ。美味しかったし、結局のところ残さず食べた。午後にダウンタウンで友人と待ち合わせていたので、後ろ髪を引かれる思いで美術館を後にした。ゆっくりゴーギャンをホノルルで見るのも悪くなかろうに。

驚異のハムサンド、13ドル
驚異のハムサンド、13ドル
ホノルル美術館カフェのテラスは、中国の寺の境内のようだ
ホノルル美術館カフェのテラスは、中国の寺の境内のようだ

Honolulu Museum of Art
『Georgia O’Keeffe and Ansel Adams: The Hawai‘i Pictures
(ジョージア・オキーフとアンセル・アダムスの企画展)』2014年1月12日まで
入館料:大人10ドル 17歳以下無料 毎月第1水曜日は無料 
開館時間:10:00〜16:00(火〜土曜)、12:00〜16:00(日曜) 月曜休館 
Honolulu Museum of Art Café