田中晃二の道草湘南《犬の鼻、猫の舌》 恵比寿の昭和レトロ。

(2011.05.02)

道に迷う醍醐味。

恵比寿は、坂の多い町だ。そのせいか道路が道なりに微妙に曲がっていて、近道しようとして裏道に入るとT字路に突き当たり、思わぬ方向へ出てしまうことがある。昼間(仕事の時間帯)ここで生活をするようになって半年近く経つが、未だに方向を勘違いすることが時々ある。だが、道に迷うことは嫌いではない。見慣れたはずの景色を違った方向から眺めて、何処だか皆目見当がつかない状態から、なんだ、ここかと謎が解ける瞬間が好きだ。狐の化けの皮が剥がれた時って、きっとこんな感じなのかも。

街の年齢、性別は?

引っ越してきた当初は、なんとお洒落で、若い人の多い、昼メシ食べるのも日替わりで2、3カ月は困らないだろう、なんて思った。東京でもオヤジ度が高い八丁堀と築地の間あたりから来たので、通りに並んだお店の雰囲気や街を歩く人の印象は相当違う。街にも性別や年齢があるとすれば、恵比寿は30代の女性、といったところか。ちなみに、隣りの渋谷は10代の女の子、目黒は40代の男性、そして築地は60代男性、ってとこかなあ。

映画のセットのような。

昼メシ時は、ほんとうに選ぶのに困るほどの選択肢があるのだが、結局の所よく行く店は限られてしまうのですね、そんな法則でもあるのかなあ。カレー屋とか、タイ、韓国料理など、エスニック料理の店が多いような気がするのは、単にそういうのが好き、というだけのことかも知れない。その昼メシ時に恵比寿の街を歩いていると、お洒落なヘアサロンやビストロ、ブティック、雑貨屋などの中に、普通の古いアパートや質屋、神社などがぽつんと取り残されているのを見つけて、その落差にびっくりすることがある。和風の食事処や飲み屋など、映画のセットのようなレトロ感を演出した造作も見かけるが、素のまま生活している“昭和レトロ”がまだ残っている恵比寿の路地裏には、道に迷うだけではない楽しみが隠されていて、散歩が楽しくなる。

昭和レトロ。

映画『ALWAYS3丁目の夕日』あたりからだろうか、昭和のレトロ感が世の中にひっそりと蔓延しているような気がする。私たち団塊世代が子どもの頃を懐かしむというよりは、どうやら若い人や子どもたちにとって昭和スタイルは新鮮に映るらしい。別に嫌いではないから、あれこれ言うことはないのですが、昭和の時代を過ごしてきた団塊世代の一人としては、でもなんだかねえと、ちょっと複雑な気分になってしまうのだ。これって、ジジイになったってことかなあ。