私事養生訓 「君はキルケゴールもよんだことがないのか?」

(2008.05.20)

 思わず「読んでます!」と強がりたくなるようなキャッチコピーで売り出された、『お厚いのがお好き?』という本があります。結構なバカ売れだったそうです。もともとテレビ番組が書籍化したものだから余計に人気が出たのだろうけれども、あれは面白い。

 六本木ヒルズでモンテスキューの『法の精神』を読み解いたり、お笑い芸人で、ドストエフスキーのあの分厚い『罪と罰』を読み解いたり、海外旅行で、理解不可能といわれるアインシュタインの『相対性理論』を読み解いたり、ケーキでマルクスの『資本論』をどうやって読み解いたり、好奇心をくすぐり続ける。

 哲学と聞いただけで思考能力が一気になくなる私にとっては、お笑いだの、ケーキだのとすごく身近なもので想像しやすいレベルで哲学をわかりやすく解説してくれたときはありがたかった。そして頭が良くなった気がした。人に話したくなった。(話したし、今こうして書いている)つまらない哲学の話でさえ。

 そして私が哲学と同じ位苦手にしているもの。それは名作文学。哲学と同じぐらい難しい文学。どうしても読み方が歴史的仮名遣いで読みにくかったり、漢字が難しかったり、昔の人の感覚がわからなかったり……とにかく読むのがめんどうくさい。そして正直……つまらない。意味が分かってないから。いやすんなり読めれば面白いんですよ? 純文学も。

 そんなふうにちょっと敬遠しがちな日本文学も実は最近垣根が低くなったのです。4月の中旬ごろ、西荻窪の書店の文庫コーナーをぶらぶらしていたら、純文学にしてはやたらとポップな表紙が目についたのです。普通、純文学の表紙といったら、いかにも和室に似合いそうな落ち着いた表紙ですよね。でもこの本の表紙は絵が書いてあるし、文字のフォントもジャングル大帝の題字みたいに猛々しい。

 あまりに目立つものだから、手に取って読んでみれば、あら画期的ですこと。結果としてみてしまえば簡単なことなのだけど、なんでいままで漫画として出てこなかったのかが不思議でした。著作権の問題とかなのかな?『まんがで読破』シリーズは種類もなかなか充実しているのです。新刊だと、太宰治の『斜陽』とか、どこで読むきっかけをみつけるのかわからない、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』とかがでていて、既に出ているものだと、小林多喜二の『蟹工船』とか、坂口安吾の『堕落論』とか、昭和初期のなかなかハードな文学が漫画ですらすらっと読めちゃうしわかっちゃう。これって原作に戻れるきっかけにもなりますよね。文字だけ読んで、自分だけの解釈をしちゃうのもまた面白い。

 この漫画読んでいたら、堕落論なんか思いっきり別の解釈しながら読んでいたなんてことも気づいて、なんか日本文学って意外と面白いんじゃないのと最近思えてきました。これが大学時代にあればな……もっと読書もすすんでいたかも。

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フジテレビ系番組が単行本化した
『お厚いのがお好き?』
(フジテレビ出版)
毎奇数月発売
『まんがで読破』シリーズ。
(EAST PRESS)