酒井靖之の“激闘! クリエイティブ一直線” テレビCMは、本当に崩壊したのか?

(2011.07.15)

テレビCMがACだらけ

3.11の悲劇の後、テレビCMがAC(AC JAPAN)だらけになったのは記憶に新しいところだ。
そもそもなぜこのような現象になったのだろうか?

AC JAPANは営利目的ではなく公共のために役立てようと全国の企業が集まった団体。いわば民間のボランティア団体である。
ここで制作されたCMは、テレビCMの空いている枠で放送される仕組みになっている。
震災後は広告主もCM出稿を自粛したので、いきおいACだらけのCMとなったのである。

CMが消えてしまうのではないか?との話しは、実は昔からあった。しかし、そんな噂を吹き飛ばすように、CMは広告の帝王として君臨してきた。
しかし21世紀初頭、ペプシコーラがCMから撤退するとの発表があった。この事実に、日本の広告業界にも激震が走った。

華やかなりしCM業界

テレビの世界というのは、ご存知の通り広告主のCM放送料金で成り立っている。番組提供をするのも、つまりは自社のCMを視聴者に見てもらいたいからである。
端的に言って、CMとは商品の魅力を伝え、視聴者を消費行動へと駆り立てるもの。

一昔前、視聴者が情報を受けとるメディアは、テレビ、ラジオ、新聞、本といったものしかなかった。
なかでもテレビは群をぬいて広告訴求力の強いメディアである。
広告主が、商品の販売戦略を考える際、いかに魅力的なテレビCMをつくるかが最重要課題となった。多額のCM制作費&放送料を使って、多額の売り上げを出す。わかりやすく言えば、そういう構図である。

CMの失敗は、企業の屋台骨を揺るがしかねない出来事となるので、CMにかかわるクリエイターたちの責任は重大である。しかし、CMが成功すれば、大変なもてなしを受ける花形職業でもある。60年代から80年代にかけてCM界は、多くの時代の寵児たち、いわばエース・クリエイターたちを生み出してきた。
時を経て2005年、「ペプシのCM撤退」である。そしてこの年、常にコカ・コーラの後塵を拝してきたペプシが、米清涼飲料業界で首位に躍り出たのである。(株式総額)

ペプシコーラ(ペプシコ社)CM撤退事件

インターネットの急激な普及は、様々な変革を私たちに迫った。
また、時代とともに消費者の嗜好は多様化し、マーケットも大きな変革をとげていった。

テレビCMは元来、イメージ広告と言われるもの。
その場ですぐに買ってもらうというよりも、商品や企業のイメージを視聴者に植えつけたり、認知度を高めていく手法である。
対象は、老若男女、あらゆる世代。

情報化社会となった今、消費者は、すぐにでも情報を得ることができる。この商品は、本当に自分に必要なものなのか、また、この広告は信頼できるのか、すぐにでも口コミで情報をとれる時代なのだ。
送り手の一方通行のイメージ広告では、なかなか効果が出にくくなってきたのである。
いつの間にか、大きなマスに広告を出稿するよりも、趣味や年齢でセグメントされた広告の方が反応が良くなってきた。

ここに目をつけたであろうペプシは、CM出稿をやめ、インターネットやトレーディングカードを使う新しいマーケティング戦略に切りかえ、そして成功を収めたのだ。
これが意味するところは、消費者の目が高くなってきたということ。もう、なまじっかの広告では、視聴者は見向きもしない。
見た目のカッコ良さだけではもう通じない。
テレビCMに変わる新しいメディア戦略を、どの企業も求めている。そんな時代になったのだ。

「広告批評」は休刊となり、CM表現がムーブメントを起こすこともなくなった。
広告会社やクリエイターたちも、今、大きな変革を求められている。もちろん僕もだ。

日本社会や企業、国民の進むべき道を創出できる人こそ、今の時代に求められるクリエイターであると、僕は思っている。

『テレビCM崩壊 マス広告の終焉と動き始めたマーケティング2.0』 Joseph Jaffe・著、織田 浩一・訳