加納忠幸のワイン飲もうよ 洞爺湖サミット秘話。

(2008.10.21)

 先日、山形県上山市のタケダワイナリーの収穫祭があり、収穫祭に先立ってセミナーが開かれました。実はそのセミナーが私にとって思いもかけず興味深い内容のものでした

 と言うのも、セミナーの講師の方が、洞爺湖サミットの食事の折に実際、首脳へサービスを行った、ソムリエの吉田浩之さんだったから。

右からタケダワイナリー社長 岸平典子さん、
白馬リゾートホテル レストランマネージャー 吉田浩之さん
ワインコーディネーター ソムリエール 利酒士 友田昌子さん

サミットの料理の内容やワインについては洞爺湖サミットのホームページ
にありますが、実際に参加された方の生の声を聞けるのはこれが最初で最後でしょう。

 興味深いお話の始まり。

1.ワイン選び

 サミットで提供されるワインは基本的に日本のワインで行こうということになり、吉田さんもその選定担当メンバーの一人。

 マクロ的けん引役の大手メーカーとぶどう栽培に根ざしたワインづくりを推し進める小規模生産者の双方から候補のワインを選び、それをブラインドテイスティングで選んだとのこと。

 また、その選定基準には、原料果汁への糖分添加限度や同一時期の補糖・補酸禁止などEUの基準をみたしていることも考慮に入れたのだそうです。

 ただ、せっかく出来上がったワインリストに対し、いくつかの国から「このワインを入れてくれ」とのごり押しがあり、最終的なワインリストを見ると「どうしてこれが?」と思われるようなワインが入ってしまうことになっ
たとのお話もありました。

2.ユニフォームは自前

 サービスチームは全員がプリンスホテルから行ったのでチームワークも取れ、ユニフォームもおそろいでしたが、ソムリエは全て出身の場所が異なったためユニフォームは自前。ばらばらのユニフォームでサービスしたのだそうです。

 それでも、黒服、白手袋と指定があったのだそうですが、普段手袋をしてのサービスはしていないので、手が滑りそうで、大変緊張を強いられたとのこと。

 また、ソムリエの必需品、ソムリエナイフが問題。セキュリティーの人間には何に使う道具かがわからなかったので、セキュリティーをクリアするのにずいぶん手間取ったとのことでした。

3.サービスの順序

 プロトコール(国際儀礼で決められたルール)に従う。具体的には、

  在任期間が長い大統領
  在任期間が短い大統領
  在任期間が長い首相
  在任期間が短い首相
  ホスト国の首脳

という順で、今回はトップがブッシュ大統領、最後が福田首相。

4.アルコールを飲まない首脳

 今回のサミットでお酒を飲まない首脳は

  ブッシュ大統領(アメリカ)
  サルコジ大統領(フランス)
  ハーパー首相(カナダ)

の3名。アルコールを絶対に口にしないのだそうです。

 ブッシュ大統領はアル中とのうわさもありますが、実際はブッシュ前大統領も飲まないそうで、どうもアルコールを飲めない家系のようです。(その分ブッシュ婦人は良く飲むとのこと。)

 さて、お酒を飲まない方達が何を飲んだかと言えば、

  ブッシュ大統領   ダイエットコーラ
            (金色の缶、アメリカより持参、銘柄不明)
  サルコジ大統領  水(日本のもの)
  ハーパー首相   水、コーラ、ジュース

とのことでした。

 どの首脳もワイン生産国、ごり押しをした可能性もある国の首脳ですが、飲まないんですね。

5.本当に国際会議の仕事中に飲むの?

 彼等、欧米の人にとってはワインは食事の一部であり、仕事中でも飲むのが当たり前。なかにはお代わりをする首脳もいたそうです。

 その中でドイツのメルケル首相は飲み物に対する関心が高く、それぞれのワインの銘柄について熱心に尋ねたとのこと。

6.ワイングラスは全ての会場兼用!

 ワイングラスはオーストリー(オーストリア)のロブマイヤー社製で、ウインザーホテルが用意。

 ただ1個1個の金額が張るため、数が揃えられなかったようで、ホテル内の色々なレストランを会場にして食事会が行われるのに、グラスが全て兼用だったのだそうです。

 そのため、一つの食事会が終わると、ソムリエたちがそのグラスを全て洗って拭き、次の会場へグラスを運んでサービスをするといった、ちょっと信じられないことが行われていたようです。

7.グルメなベルルスコーニ首相

 イタリアのベルルスコーニ首相はちょっとお腹の具合が悪かったようで、おかゆを注文。ただ、そのおかゆにチーズ、バルサミコ、オリーブオイルをかけて食べたとのこと。

 ちょっと真似したくなりませんか?

8.アメリカのセキュリティーチェックは厳しい

 コーラ好きのブッシュ大統領に対するサービスが大変で、缶からグラスに空け、グラスでサービスをするのはセキュリティー上問題ありで、大統領の横まで缶を持っていってそこで缶を開け、グラスに注がないとだめなのだそうです。

 また、厨房には日本のSPが入っているので、アメリカ以外の国は納得したのだそうですが、アメリカだけは自国のSPを入れろとゴネ、最終的に厨房には日本とアメリカのSPが入って料理を見張っていたとのお話でした。

9.特別手当なし

 サミットでサービスするに当たり、国から特別の手当てが出るということは一切なし。サミット中の給料補填だけがあったのだそうです。

 莫大な予算は、どこに使われるのでしょう?

10.禁酒生活

 ウインザーホテルに宿泊するのは首脳だけでサービスするスタッフは指定の宿泊所から毎日バスで往復。

 その宿泊所にはなんとお酒が全くなかったため、期間中全くお酒なしの生活を強いられたのだそうです。別に禁酒ということではなかったのだそうですが、せっかくの機会に仲間でワインを飲み交わすことができなかったことが残念とのお話でした。

11.タケダワイナリーのワインは?

 タケダワイナリーのワインは

  ドメイヌ・タケダ・キュヴェ・ヨシコ

 洞爺湖サミットが始まって最初のワーキングランチの一番最初に首脳が口にしたお酒です。

 この選定に当たっては、タケダワイナリーのキュベ・ヨシコがだめだったら日本のスパークリングワインは出さないとうことでテイスティングを行って、最終的に合格したのだそうです。

 ただ問題はキュベ・ヨシコの在庫がないこと。タケダワイナリーでは経年試験用に取っておいた12本の在庫の中からサービス用の2本プラス予備1本を提供したとのこと。

 また、配送が大変で、ウインザーホテルから日時が指定された上、どのような荷姿で届くか報告しなければならず、岸平さんはていねいに梱包後に寸法を測って報告したのだそうです。

 後でわかったことには、何も報告せずに送ったワイナリーもあり、問題なかったとのことでした。ジャンジャン。