from 福岡 - 番外編・佐賀 - 佐賀県の酒蔵を巡る
日本酒の旅。

(2014.02.04)

ここ数日福岡はずいぶんと寒さが厳しくなってきている。雨がみぞれとなり、ちらりちらりと雪が降る。こんな時期にはやはり日本酒だ。寒いときに好きなアテと燗のついたお酒で心も体も温まる。今回は、少し足を延ばして福岡県から佐賀県の酒蔵を巡ることにした。
花の酵母からお酒!? ~天吹酒造~
福岡から一時間半ほどでやってきたのは、以前から気になっていた「天吹酒造」。お酒をお花の酵母で造っているというから考えただけでもうっとりとしてしまう。300年以上の歴史のある酒蔵がそのような新しい取り組みをなぜしたのかということも非常に気になっていた。

趣のある門をくぐると、とても風情のある酒蔵で、聞けば、築100年ほどの蔵を数年前にリモデルをしたという。案内人は、社長の木下武文さん。人懐こい笑顔とその奥にお酒への愛情をひとしきり感じるお人柄である。酒造の叔父(林平作酒造場)にも似たところがありお人柄のファンになってしまったのはいうまでもない。

日本酒の主原料は、米・米麹・水。以前は、いいお酒をつくっている酒蔵から酵母を分けてもらって、お酒を醸していた。それだと、たくさんのお酒の中で個性が埋没してしまうと考えた社長は、出身校である東京農業大学の中田教授がお花の中にいる酵母がいるという話にであい、花酵母での酒造りをすることを思い立った。花酵母にはいくつもの種類があり、それぞれの花酵母に個性があり、その特徴を上手く生かすことができれば、様々なお酒を醸することができる。

お酒というのは、いろいろなタイプがある。油をつかったタイプの食べ物にもあう酸味があるお酒、それだけでゆっくりと飲む香りが高いお酒、豆腐に合わせてもいいさっぱりしたお酒、同じ日本酒を楽しむにしても楽しみ方はいろいろ。

さっそく、500円で試飲ができるという試飲ルームにて様々なお酒をお味見させていただいた。人間にも個性があるように、酵母でもなでしこやアベリアはかぐわしい香り、ベコニアやマリーゴールドは、しっかりとした香り、イチゴ酵母は、あまずっぱい味を醸しだす。

食米でつくったという大吟醸もお味見。本来、日本酒は、酒造好適米(代表的なものは山田錦)でつくられる。しかし、酒造好適米は育てるのが難しく、毎年需要を満たせるかというのもお天頭様のみぞ知るである。ゆえに、どうしても大吟醸は値が高くなってしまう。一方、食米でつくった大吟醸は、一升瓶で3000円代。本来の酒造好適米でつくるとなると約5000円となってしまうのに比べてお得。さらには、近隣農家と協力しあえる関係が結べて素晴らしい取り組みであると感心をした。

天吹酒造にて
日本酒で乾杯条例
佐賀では、日本酒で乾杯条例が制定された。非常に特殊で面白い条例だ。佐賀県には、酒蔵がおよそ20数か所。日本酒の消費人口の減少と、日本の国酒の保護にも必要な取り組みであるように思う。はじめに、日本酒乾杯条例に取り組んだのは、京都市で平成25年1月に制定された。以降、3月に鹿島市(佐賀県)、6月には加東市(兵庫県)と続き、6月27日には、”佐賀県”が制定した。現在では、10数か所の市町村が日本酒で乾杯条例を制定している。福岡県でも是非制定をして、日本の国酒を残す政策をしていただきたいところである。
鹿島酒蔵ツーリズム~酒蔵通り~
3月に乾杯条例を制定した佐賀県鹿島市。有明海へと注ぐ浜川河口に広がる肥前宿町は、江戸時代に旧長崎街道多良往還の宿場長として栄えたところ。今も白壁土蔵造りの建物が並び趣のある景観が見られる。こちらには、酒蔵通りと呼ばれる通りがあり、肥前浜宿を案内してくれるガイドがいる。
 
酒蔵通りの一角に観光酒蔵「肥前屋」という風情ある古民家がある。酒蔵通りの一角に建つ峰松酒造場が設けている酒販売店であるが、その中にはずらりと酒・焼酎が並び、試飲が自由にできる。代表的な銘柄である「菊王将」をはじめ、光武酒造場の「魔界への誘い」というイモ焼酎ほか、数多くのお酒を試飲できる。私が試した「黒麹イモ焼酎 魔界への誘い」は、黒麹独特の香りや甘みがあり、まろやかな口当たりが特徴といえる。また「焼き芋 魔界への誘い」というのも飲んでみたが、そうそう、焼き芋のふんわりとした甘さと口に広がり、まろやかに口を包み込み、なんともいえぬ風合いがある。酒・焼酎・酒・焼酎と、運転をしていただいた方に申し訳ないと思いながらの試飲ではあったものの、大満足である。
肥前屋
酒蔵通り
地の飲み物には、地の食べ物~竹崎カニ・竹崎牡蠣~
佐賀県南部の太良町は広大な干潟が広がる有明海に面しており、潮の満ち引きで、夕方ごろ干潟が姿を現し、日が出てからのんびりと水が干潟を覆う。干潟の浅瀬には、あさりを養殖する網が並んでおり、遠くにはいかだのように浮かんだ牡蠣の養殖が見られる。海岸沿いで名物なのは竹崎カニと竹崎牡蠣。大きいものは30cmほどにもなる竹崎かにはうまみが濃く、あまみがある。子持ちカニともなると、まるで黄身を食べているかのような美味しさで、この時期ならではの一品。焼カニ、カニのフライ、カニ釜飯と続けられると、ついつい、食べ過ぎてしまう。さらには、豊富なプランクトンをえさに育つ竹崎牡蠣は身が大ぶりで甘く、大満足。

道の駅には、一キロ1000円で牡蠣が手に入る。秋から春にかけて15軒ほどの牡蠣焼き小屋が立ち並び有明海沿いの国道207号は、別名「たらかき焼街道」として知られる。かき焼き小屋では、身が超えて味が濃い竹崎カキをその場で焼いてたべることができる。

蒸しカニの甲羅があまりに立派で、子持ちカニのお腹をきれいに食べた後に、ゆっくりとお酒を注いで飲んでみた。そんな飲み方をしてはつくった酒蔵さんに申し訳ないと思ったものの、だしの味がしっかりきいた「カニ酒」は美味しかった。

この豪華な夕食は、佐賀酒飲み比べセットと一緒にいただいた。佐賀の芸術家が絵付けをしたというおちょこで、佐賀県の日本酒3種を飲み比べられる贅沢なセットである。

子持ちカニ
佐賀酒飲み比べセット
「鍋島 純米吟醸山田錦」純米吟醸は、甘くすがすがしい香りが堪能でき、芳醇な山田錦の香りと旨味が混ざり合い、優しい口当たり。
 
「天吹 純米吟醸 ひまわり酵母」。ひまわり酵母からできたお酒は、フルーティかと思いきや辛口、酸味でキレがよく、お食事にも相性抜群。

「肥前蔵心 純米吟醸 無濾過生酒」。端麗辛口でありながら、旨味のあるお酒。吟醸酒らしいキレとすっきりとした味わいがあり、無濾過独特のどっしりした味わい。

酒の楽しみ方
誰と飲むのか、どんなときに飲むのか、どこで飲むのか。その時にふさわしいお酒を選んで飲むのがお酒の楽しみの一つである。ただ酔うためだけのお酒は、なんとももったいない。タイプの違うお酒を買ってどちらが好みか比べ、旅行に行ってはその地のものを楽しみ、また、酒器を楽しみ、また、冷と燗の味の違いを試したり……。造り手にとっても楽しみながら味わってもらうと、造り甲斐があるというもの。日本全国にたくさん蔵があるけれども、ご近所にどんなお酒があるかということを知らないのでは、なんとも寂しい話。地元のお酒から知ってみるのもいいかもしれない。
 
今回は、旅先でいろんなお酒に出会い、地のものと共に地のお酒を大いに堪能した。旅先で手に入れた粕漬けの海茸とお酒を見ながらにんまりし、いつこのお酒を開けるかとわくわくする。旅で出会い、飲んだそれぞれのお酒に物語ができた。これぞ旅の醍醐味であろう。