from パリ(石黒) - 22 - 旅手帖(4)南仏リュベロンの山々
プロヴァンスのコロラドとルシヨン

(2012.09.18)

夏休み後半戦は南仏リュベロンの山々で

地中海に面し、内陸に進めば次々と現れる山々と畑。太陽に恵まれた南仏のプロヴァンス地方は、その多彩な景観で、訪れる人を魅了します。夏休み後半戦は、南仏リュベロン山脈の南側に位置する小さな村ラ・トゥール・デグ(La Tour d’Aigues)に、友人達とプール付きの一軒家を借りて、「気のむくままに、好きなことを」。

もちろん、取り立てて予定などない、その日暮らし的な滞在。借りた家に多数置いてあったこの地方のガイドブックの中でも、とりわけ文章よりも写真がメインのもの中心に(ヴァカンス中だし、歴史とか地理とかに頭を悩まされなくて済むように…)、のんびり眺めていたら、目に入ってきたのが、プロヴァンスのコロラド、プロヴァンスのフジヤマ、プロヴァンスのヴェネティア…といった、キャッチー(?)かつキッチュなネーミングの数々。南仏にいながら、世界旅行が味わえてしまうというお得感抜群のヴァカンスとなる予感…!? 日本人ならフジヤマを制覇したいところですが、まずはアメリカ・コロラド探訪へ挑戦することに。

連日35度のリュベロン地方、火照った体を冷やすのに、プールにドボンが一番!
家のテラスからは、トゥール・デグのお城が見える。
太古の地層の中を歩く、プロヴァンスのコロラド

プロヴァンスのコロラドと呼ばれるのは、ルステルという村を取り巻く赤土の山々。この赤土から採れるのが、染料となるオークル(ocre)。絵の具などでオークル色といえば、黄土色を思い浮かべますが、ここ南仏原産の「オークル」は、もっと赤みが強い印象。黄味がかったものから、レンガ色のような深みのある赤まで、その色彩のパレットは、20種以上にのぼるとか。

大昔、プロヴァンス地方は海に覆われていて、約1億年前に地形の変動が起こり、プロヴァンスは海から外に出現。鉄を多く含んだ粘土質の大地は、雨による侵食を受け、他のミネラルと混ざり合い結晶化して、オークルの砂を形成。さらに雨がその砂も洗い流し、色の抜けた白い砂と、鉄と化学反応を起こした色素らしきものが凝縮した部分とに分けられたのだそう。

ルステルは19世紀から20世紀にかけて、鉄とオークル染料の採掘とで、著しい産業化の波を迎えます。鉄道網や機械の発展によってそのリズムは加速し、多くの砂岩が切り出されるようになります。20世紀初頭には、組織化されたオークル染料採取工場が作られ、フル稼働で運転。しかし20世紀も進み、次々に開発される人工染料の勢いに圧され、自然染料オークルは次第に販路を失い、ルステルでは1990年に染料洗い場を閉鎖し、オークル採取産業は幕を下ろすのでした。何千年かけて自然が作り出したオークル層と、それを採取する人間の労働の証でもある、このルステルのオークル採掘場は現在、散策コースとして保存されています。

真夏日(午前10時時点で既に気温30度越!)のハイキング決行という、今思うと、結構無謀なチャレンジ。実際に照りつけてくる容赦ない太陽に加えて、赤土の岩肌に跳ね返る陽射しが、さらに暑さを倍増。水分補給は必須です。散策コース内には、水道等がないので、水筒・ペットボトルは必携。ハイキングには、暑さを避けるために午前の早い時間か、あるいは夕暮れの赤みを帯びた太陽が、オークル地層のニュアンスをさらに引き立てる時間帯が理想だそうです。染料になるだけあって、ハイキング後の靴、足、手は赤茶色。

染料を採取するのに使われていた水路を観察する子供たち。
赤、黄色、オレンジ、白、緑、そして全てを覆う青空…。プロヴァンスの色です。
フランスの最も美しい街の一つルシヨンとオークル染料工場見学

ハイキングを終えた後は、冷たいビールと昼食を求めて、ルステルから20km程度のルシヨン(Roussillon)へ車で移動。諸説あるなか、ラテン語の「赤い村」が語源とも言われるこの街も、その名が示すように、この村を取り巻く岩肌、土は赤い色をしています。ここもオークル染料の切り出し場と工場があったところ。約1キロメートルにわたる「オークル散歩道」がありますが、ルステルでたっぷり歩いた私達は、今回はパス。高台に位置する街の中心部へと向かいました。オークル染料を使った建物が、黄色、赤、オレンジと微妙に変化する色合いの細い路地を作り出しています。ルシヨンは、フランスの最も美しい街の一つにも選ばれています。私達が昼食を取った「Le Bistrot」はお勧め。村役場広場に面した入り口から店内奥へと入ると、家並を眼下に、山々を一望できるテラス席が。

昼食後、1963年に閉鎖したオークル染料工場を改築したという、オークルと染料の保存館を訪ねることに。山から切り出してきた赤土の塊は、工場で水に溶かします。深い浴槽のような所でしばらく置くと、オークルの色素は水に溶け出したまま、染料を含まない砂は水下へ沈んでいきます。浴槽側面の丁度良い高さに空けられた穴から、この液体の上澄み部分を取出し、別の浴槽へ。これを繰り返し、砂を最大限除去した液体は、太陽がよく当たる場所に作られた広大なプールで安置。この液体に含まれている粘土質は地中へ吸収され、水分は次第に蒸発していき、濃縮したオークル層が表面に残るというもの。まだ水分を含んでいるこの層を切り出し、窯で焼いて完全に乾燥させたものを、粉砕機にかけてオークル染料が完成。赤味のあるオークル染料のいくつかは、黄色いオークルを高温で焼いて得られたものなんだとか。子供向けのガイドカタログもあり、クイズ感覚で見て周れるようにもなっています。

オークルと染料の保存館。

 
のんびり散策だけのつもりが、地理と自然と科学と歴史と山登り…と、小学校の課外授業のように盛り沢山な、プロヴァンスのコロラド探訪となりました。

街並はオークルの単彩画。

【関連リンク】

ルステル村役場
プロヴァンスのコロラド案内

ルシヨン観光局
オークル染料保存館

フランスの最も美しい街協会(質・名声・発展を軸に「認定ラベル」を発行する観光推進協会)