Par-delà le Pont – 10 - ドゥブル橋(Pont au Double)不安や恐怖にも、明るい光を
かぶせてくれるドゥブル橋。

(2011.07.15)

こんにちは! 早々に梅雨が明けて、驚くほど暑い日が続いていますね。みなさんは、お元気ですか?

今年はほとんどのところで梅雨明けが平年より10日以上も早かったそうで、東北北部では17日も早かったとか。長い夏になるのでしょうか。それとも意外と秋の訪れも早いのでしょうか?

先週の14日はフランスの革命記念日でしたね。日本では「パリ祭」と言う名前で知られているこの日、今年もパリでは凱旋門に続くシャンゼリゼ通りのパレードや、夜には花火など、イベントづくしの一日だったようです。当日の動画はフランス革命記念日の公式サイトで見られるみたいですね。

7月14日が革命記念日となったのは、ご存知のように1789年の7月14日にパリの民衆がバスティーユ牢獄を襲撃したことが、フランス革命とはじまりとなったからと言われています。ところでこの襲撃に参加した民衆は数万人以上と言われていますが、この時に牢獄から解放された囚人はたった五人なんですね。その中には何の因果か、サディズムの語源となったマルキ・ド・サド伯爵も含まれていたそうです。

さて、セーヌ川に架かる、パリ市内30本の橋を追っていく連載。「マレ/シテ島地区」シリーズ・第10回目の今回は、かつてバスティーユ牢獄があったバスティーユ広場からは1キロ半くらい離れている、ドゥブル橋を渡ります。どうぞよろしく、お付き合いいただけたら嬉しいです。

パン2本半分の通行料

前回ご一緒したアルシュヴェシェ橋をシテ島から左岸に渡って、川越しにノートルダム大聖堂の後ろ姿を見ながら、絵や土産物なんかを売っている小さな露店が並ぶ川沿いの通りを数分西へ歩くと、ドゥブル橋に着きます。

「ドゥブル」とは”double”、英語で言うダブルですね。何かが二倍になったり、二重に見えたりする橋なのか?と思うところですが、ドゥブル橋の名前の由来は、かつて通行料として2ドゥニエを払わなければならなかったところから来ています。ドゥニエはフランス革命の前まで使われていた通貨の単位で、2ドゥニエというと主食のパンであるバゲットが2本半買えるくらいの価値だったみたいですね。


パリ市立病院であふれた患者のために

さて、このドゥブル橋を左岸からシテ島に渡って、北へと島を横切り、右岸へ続くアルコル橋の少し手前で足を止めると、左に「オテル・デュー(神の邸宅)」と呼ばれるパリ最古の病院、パリ市立病院が建っています。17世紀に入った頃、この病院の入院患者が増え続け病室が足りなくなったそうで、どこか近くに増築でもするか?ということになったんですが、パリ市立病院の人たちの考えた病室の増築先は、何故か橋の上。こうして、1634年に最初のドゥブル橋が建設され、その上に三階建の病室がパリ市立病院の別棟として作られました。

橋の上に、家や店が建っているのは18世紀までのパリの風景としては普通みたいですが、病室まで建ててしまうのはどうなんでしょうか。橋の上に入院ですよ? 他に場所はなかったんでしょうか。しかしまあどこだろうと、あふれていた患者さんが収容できるようになったことは何よりですね。

1709年には橋が落ちたりもしましたが、すぐに修復され、1769年に解体することが決まり1835年に解体工事が始まるまで、ドゥブル橋の上の病室は平和に使われ続けました。そして1848年には、それまで2つのアーチだったデザインを単一のアーチに換えて、新しい橋が完成します。その後は1883年に改築され、さらには2004年に深い緑色から塗り替えられて、今の姿に落ち着きました。


見舞客の心配をケアしてくれていた?

ドゥブル橋は、ノートルダム大聖堂の真横に架かっている橋になります。左岸からこの橋を渡ろうとすると、聖堂の横顔が見えるような感じですね。さらに少し東から橋を見てみても後ろ姿が、西から見た時にも正面が見えることになり、どうやっても橋と一緒に聖堂が視界に入ってくる配置になっています。

橋の上に入院している誰かのお見舞いに向かう人たちは、病棟越しにノートルダム大聖堂を眺めながら、何を思っていたのでしょうか。心配? 不安? でも愛する人の病状が思わしくなくて沈んだ気分でいる人にも、きっと聖母の祝福が舞い降りて、希望が与えられたのではないかという気がします。彼らは不安を忘れ、ノートルダム大聖堂と、病人が治って元気に笑っている姿──希望に満ちた風景とを、ドゥブル(オーバーラップ)させながら、前向きにただ回復を祈りながら病棟に入って行ったのでしょう。

明るい想像をしていると、同じ周波数を持った明るい未来がやって来ると言いますよね。ドゥブル橋の周りでは聖堂が人々に、希望のあるイメージを喚起させ続けて、ことによったら本当に病人の回復を早めたこともあったのではないでしょうか。誰にとっても、人生の少し暗い場面にいる時でも明るいイメージを思い出させてくれるような何かが、いつもそばにあるといいですよね。もしかしたらそれはすでに、誰の身近にもいつも存在していて、私たちをネガティブな思いから救い続けてくれているのかもしれません。

プティ・ポンへ

シテ島から左岸に架かるドゥブル橋、いかがでしたでしょうか。次回は、ドゥブル橋の西に架かる、プティ・ポンを渡ります。

 

Pont au Double
ドゥブル橋

竣工:1883年
長さ:45m
幅:20m
建築家:アンリ・プロスペ・ベルナール、ジュール・ラックス
形式:アーチ橋
素材:鋳鉄
最寄駅:St.Michel駅(メトロ4号線)、Saint-Michel – Notre-Dame駅(RER C線)
付近の観光スポット:ノートルダム寺院、パリ市立病院