from パリ(たなか) – 77 - なんでもかんでも水に流して。

(2010.10.25)
放水車を見ると大学時代のデモ隊を連想してしまう、古い世代です。ゴミを掃き集める地味な係りより、ホースを持つ方が絶対面白そうに見えるのだが。。

先日、東京からパリに来た会社の同僚をシャルルドゴール空港まで迎えに行った。近未来的な空港の長いガラス張り廊下を歩いて、高速鉄道RERのB線ターミナル2駅へ向かう。会社の支局があるサン・ミッシェルまで乗り換え無しで早いし、安い。ホームへ降りて電車に乗って、椅子に座った同僚がポツリと二言、「暗いね」「電車きたないね」と言った。

うーん、確かにモダンな空港からB線の使い古した電車への落差は大きいかな。東京から来てすぐだと、なおさらか。でも暗いのも、長く使うのもエコだし、パリでは普通なんだけどと、パリの肩を持つ訳ではないのだが、1年半近くこの街に住んだ私は、散らかった部屋に客を招いた時のような申し訳なさを感じてしまうのだった。

東京の電車は「便所の100ワット」と言いたくなるほど、ヤケに明るい。パリは60ワットくらいかな? 慣れたら問題ないのだが……。でも成田エクスプレスの電車の窓に落書きなんか見当たらないし、壊れた椅子がそのままなんてことはあり得ない。東京だったらとっくに廃車にしそうな電車を、パリでは延々と使い続けている。貧乏で予算がない(のかもしれないが)というより、ケチというか、使える物は徹底的に使い倒す、何処にお金をかけるかという考え方の違いのような気がする。使い古す、ということは美点でもあるし、私は嫌いではない。しかし、きたない、というのはやっぱり困る。パリの電車は雰囲気があるとも言えるが、ちょっと暗くて汚い。駅の通路は場所によっては臭くて、歩くのがいやだ。街を歩くとタバコの吸い殻や犬の糞だらけ、路駐のクルマに張られたチラシなども散乱していて汚い。客観的データで世界の都市の清潔度ランキングを付けたら、パリは3Kの街に分類されそうだ。暗い、汚い、臭い。まずいぞ、花の都パリ。なんとかしないと。

パリの街を歩いていると、朝から晩まであちこちでゴミ清掃車や掃除のおじさんを見かける。汚れちまった街をクリーンにしてくれる強力な助っ人だ。清掃車の後に乗ったおじさんが歩道にあるゴミ袋スタンドの前で降りるやいなや、一杯になったゴミ袋を回収、新しい袋に差し替え、素早くゴムバンドで留めて立ち去る。仕事とは言え、手慣れた早業は見ていて気持ちがいい。早朝だったら、放水車で路上のゴミを情け容赦なく一切合切吹き飛ばしている光景に出会うこともある。(しぶきが跳ね返りそうで、あまり近づきたくはないが、気持ち良さそう、やってみたい)後からやってくる箒部隊の人が、残った小さなゴミは排水溝に流し込み、大きなゴミは掃き集めて清掃車で回収する。回転ブラシの着いた小型掃除車もちょこちょこ走っているが、掃き残しが多いようで、人力掃除の方がやっぱり仕事がきれいだ。

小回りが利いて、頑張って掃除してるように見えるんですがね、仕上がりがイマイチなんですよ。
早朝、掃除部隊が通り過ぎた後は、シャワーを浴びた後のように街もスッキリと輝く。ご苦労さんです。

パリの道路は、一段高くなった歩道側に傾斜がついていて、時々そこを小川のようにさらさらと水が流れている。吸い殻などの小さなゴミは低い所にある排水溝まで自然に流されて行き、自動的に掃除が出来るという水洗式になっているので、歩道を渡る時はいつも足元に要注意!だ。所どころ設計ミスなのか、池のように水が溜まっている場所がある。横断歩道で信号待ちしている目の前を、職務に忠実な市バスの運転手が、いちおう鐘を鳴らしながらたいしてスピードも落とさず通過して、ぼんやりしてる歩行者の足元に注意を促すように水を跳ねるが、これも自己責任、誰にも文句を言うことは出来ない。

この自動水洗式掃除システムは、水量豊かなセーヌが街の中央を流れているのと、パリが概ね平坦で微妙な坂のある街だから可能だと思うのだが、このことでパリの人たちは道路をゴミ捨て場だと思い込んでいるのじゃないのだろうか、いや私の個人的な、確信に満ちた憶測だが、これって常識かな? それと、清掃局のおじさん達がいつもきれいに掃除してくれるから、彼らの仕事を奪っちゃいけないし、だからせっせと散らかし放題。これはラテン系の性格みたいなものだから、無理に矯正しないほうが良さそう。パリの道路は巨大な灰皿だと思えばいいのですね、納得。

清掃局の人?が栓を開けると、すごい勢いで水が流れ出す。歩道のあちこちにゴミ袋はあるのだが、ゴミを入れるかどうかは別問題。サン・ミッシェルで。
通りの端の排水溝まで200メートルほど流れる。水路を定めるためか、絨毯を丸めた“仮堤防”がよく道路に転がっている。

私が住んでいるアパートの中庭には共同のゴミ箱があって、管理人が収集日になるとゴミ出しをしてくれる。ゴミ箱には緑の蓋の普通ゴミ、黄色い蓋の資源ゴミ、もう一つは空きビンの、三つの箱がある。この資源ゴミというのが謎で、ペットボトルやプラスチック、古新聞や雑誌まではわかるが、壊れた小型の電気製品も捨てていいらしい。空き缶やチラシなんかも入っていて、どうやら台所の生ゴミ以外はなんでもOK、と私は理解しているのだが……しかし、雑多な資源ゴミを一緒くたに収集して、清掃工場の後処理(分別)が大変じゃないかと、ゴミを捨てる度に几帳面な日本人になってしまう。アバウトなフランス人に、ゴミ出しの細かい仕分けなんか無理だから、こうなっているんだろうか、よくわからん、パリのゴミ事情は。

早朝のシテ島で、新型の清掃車を見つけた。ゴミ箱をスタンドに乗せてボタンを押すと、
はい、この通り、中のゴミだけ清掃車に落ちて回収、という段取りのはずが、
片方のゴミ箱まで落っこっちゃった!
ま、フランスではよくあること、気にしない。