from バスク – 6 - 秋のバスクの味覚を探しに。

(2009.10.31)

秋といえば、「文化の秋」「読書の秋」「芸術の秋」「スポーツの秋」「食欲の秋」と日本ではいろいろ言われるけど、バスクにはそんな表現はないらしい・・・。「食欲」に関しては、常に旺盛で、季節は関係ない。どの季節にも、旬の食べ物と美味しいワインがある。春は、アスパラガスやアンチョビ。夏は、鮪や鰯。冬は、鱈やいんげん豆や栗。じゃあ秋は? きのこ!ということで、ホストファミリーに連れられて、バスク自治州南部のアラバ(Álava)県の西部にあるバルデレッホ自然公園(Parque Natural de Valderejo)へ行ってきました。

ここは1200m級の山に挟まれた渓谷で、広さは約3500ヘクタール。およそ東京ドーム2700個分の広さ(西日本で言うなら甲子園2700個分)。アラバ県の最も西部にあるので、サン・セバスティアンから車で1時間45分ほど。自家用車がないと行けないような所なので、日本からのバスク旅行のプランに盛り込むのはちょっとオススメできないかなぁ。

ワインを飲むための皮袋。飲むときは袋を押すとワインが細く飛び出すので、口を尖らせてそれを飲む。これが出来るようになると、バスクのおっちゃんたちに認められる。
みつけたのは、チチタケとプラテラ(platera)というきのこ。さっそくこの晩にクリームパスタにしていただき、翌日はリゾットにした。チチタケは切るとすぐに変色するきのこで、食感は少しコリっとしていた。
エンドリーナの実。実の味は苦くて、口に入れた瞬間に舌が痺れるような感じ。実をそのまま食べたり、パチャラン以外の使い方はバスクにはないという。

ホストファミリーの友人夫婦2組もこのきのこ狩りに参加。公園に着いたのが11時前。「さっそく歩き始めるのかな」と思ったら、さすがバスク人、11時のおやつ「アマイケタコ(hamaiketako)」で腹ごしらえ。生ハム、チョリソ、チーズをお好みでパンに乗せて左手に持ち、右手にはワイン。もー、たまらん!! 小食な女の子だったら満腹になりそうなくらい食べ、ワインは7人で1本半を空けてしまいました。しかもコーヒーまで飲んじゃう始末。「後はシエスタ(昼寝)があれば最高だなぁ」なんて思うようになってしまったぼくは、すっかりバスク遺伝子が備わってしまったみたい・・・。

軽く小一時間も潰してしまった一行は、満たされたお腹をかかえながら、森の中へ入っていきました。きのこ狩りなんて初めて来たけど、よく周りをみると生えてる生えてる。黄色いきのこ、白いきのこ、スーパーマリオに出てきそうなきのこなどなど。一緒に来た夫婦2組の旦那さんたちは、きのこの知識がある人たちで、「これは食べられる」「これはマズイ」などなどいろいろ教えてくれた。草や土を掻き分けてテキパキときのこを採っていく彼らの姿は頼もしくて、「こういう大人になっていくのもカッコイイなぁ」なんて思いました。

実は、きのこの他にもう1つ狩りたかったものがありました。それは、エンドリーナ(endrina)という果物。日本語では「スピノサスモモ」というらしいけど聞いたことがない…。ブルーベリーのようなこの果物は、アニス酒と一緒につけておくとパチャラン(pacharán)というバスク地方の有名なお酒になるのです。

この季節になると、山や森へこのエンドリーナを採りに行き、家庭でパチャランを作る、という習慣が今でも残っているらしい。きのこに夢中になる男性陣に対して、女性陣はエンドリーナ採りに夢中。木の棘もおかまいなしに次々と採っていき、あっという間にスーパーの袋はずっしり。でも、どんなに夢中になっていても口はずっと動いているあたりは、さすがスペイン人。エンドリーナを採らずにいろいろ写真を撮っていると、「あ~ら、非協力的ねぇ」と女性陣に言われたので、急いでカメラをしまってエンドリーナ採りに加わりました。ちゃんと言うことをきかないとバスクの女性は強いからなぁ…。

奥に見えるのが、本当は登りたかった山。1200mほどの高さがある。山のほうから猟銃の音と猟犬の鳴き声がして、静かな谷に響いていた。
川の下流に行くほど少しずつ幅も水量も増え、滝もある。また、上流には肉眼でも見えるほど魚がたくさんいて、森も川もいろんな生き物がいる、自然豊かな公園。
この岩の迫力!上空には禿鷹が飛んでいるのが見えた。また、もう少し経つと森の木々が紅葉し始めるとか。それも見たかったなぁ。

公園内はたくさんの牛や馬が放牧されていて、そこらじゅうに糞とその臭いが漂っていたり、上空を禿鷹が飛んでいたり、地面にはイノシシの足跡があったり、大きいナメクジや蜂が飛んでいたりたくさんの生き物が暮らしているのが分かり、人間が森におじゃましている、そんな雰囲気を感じた。渓谷の中は思っていた以上に変化に富んでいて、坂が多く草木が茂った所、短い草しかなくて平らな牧草地、切り立った岩に囲まれた沢など。歩けば歩くほど景色が変わる、そんな印象を受けた。きっと山にも登れたら、また違った景色や環境があったんだろうな、と思うと少し残念。

結局、11時半くらいから歩き始めて、車に戻ったのが18時前。途中、エンドリーナ採りをしたことや、昼食を摂ったことを考えても4時間半だから、15~16kmは歩いたのかな。さすがに疲れたな、と思っていたら、ホストマザーが「去年大きいエンドリーナが採れた所までちょっと行くわよ」と言って、またエンドリーナ採りに駆りだされました。いやー、みんな本当に元気いっぱいで、良い事ですよ! さて、パチャラン作りはどうなるのか。その様子も後日お伝えできれば、と思います。