from パリ(たなか) – 61 - 夏だから、オーブン料理を楽しむ。

(2010.07.05)
最初に焼き上がったのは、ピペラード。くたっとした野菜と、カリッとした生ハム。熱々をふうふう言いながら食べましたが、冷やしても美味しそう。卵とじバージョンもなかなかいけます、と由紀子さん。ご飯にのっけてピペラード丼なんか、いいかも。
スズキは、焼き上がったらイタリアンパセリを刻んで、たっぷり振りかけて。

私が住んでいるパリのアパートは、おそらくフランス革命以前の建築のようで、床は微妙に水平ではないしドアや窓も曲がっているけれど、内部はきれいにリフォームされて快適な住み心地です。家具付きの賃貸アパートという形式で、日本風に言うと2DKの部屋をオフィス兼住居として使っています。寝室のベッドやランプ、クローゼットは備え付けだし、リビングにはソファー(大、小)とテーブル、テレビ(14インチのブラウン管ですが)、書棚には1860年頃に出版された皮革装のバルザック全集、壁には大家さんのお父さんが趣味で買ったというキュビズムの絵も掛かっている。

キッチンはモダンに改造されていて、大型冷蔵庫の他、カウンターの下にはドラム式の洗濯機と大型の皿洗い機、四つ口のガスレンジの下は電気オーブン、シャープ製の電子レンジ(部屋を借りる時に、大家さんが日本製だから使いやすいと自慢していた)もあるし、食器棚には10人分のミート皿、スープ皿、デザート皿、ワイングラス、ナイフ・フォーク・スプーン、フライパンと大小の片手鍋、サラダボウルと言った具合に、一人で生活するには十分過ぎる食環境は、パーティーが開けるような装備です。

ある晩カルチェラタンにある、すごく美味しい鶏の唐揚げを出す韓国料理屋で、友人の細木さんと暁子さん、仙石さんといっしょに、焼き肉とか豚足とかコムタンスープとか腹いっぱい食べたあと、腹ごなしにサン・ミッシェル方面への坂を降りながら、私のアパートに寄って一休みしようかということになり、遅くまでお喋りしたことがありました。キッチンのカウンターでコーヒーを飲みながら、細木さんは大きなオーブンに注目。「たなかさん、このオーブンで何を焼きましたか」。いや、それが、まだ使ってないんですよ、一人暮らしだし。「なんと、もったいない、宝の持ち腐れだ」。でも大きいし、一度にたくさん食べられないし、オーブン料理ってあまりやったことないし……。「じゃ、このオーブンを使って料理大会やりましょう、オーブンの釜開きってことで」。

という具合に話が進み、細木幹事の呼びかけで“釜開きの会”を私のアパートで開催する運びとなりました。“たなかにも出来る簡単オーブンレシピ”を各自持ち寄り、その場で調理実習と試食会をやろうという一石二鳥の料理教室です。参加者は私、細木さん、暁子さん、仙石さん、稲葉さん、由紀子さんの6名。各人のメニューは、細木さんと暁子さんがスズキとジャガイモのオーブン焼き、由紀子さんがピペラード、仙石さんはデザートのキャトル・キャール、なおオーブン未経験の私は鍋を使ったラタトゥイユを用意。

レシピその1は、ピペラード。
タマネギとトマトと赤ピーマン(パプリカ)をニンニク・オリーブ油でしんなりなるまで焦げ付かないように炒め(この段階ですでに食べられます)、耐熱皿に移したらその上にバイヨンヌの生ハムを乗せて20〜30分焼いたもの。バスク地方の郷土料理で、赤い色が鮮烈。トマトの酸味とタマネギ、パプリカの甘みが混じり合った野菜の自然な旨味が舌にやさしい。

レシピその2は、スズキとジャガイモのオーブン焼き。
あらかじめ炒めたジャガイモ(白ワインも含ませて)、長ネギ(タマネギでは甘くなりすぎ、と細木シェフ)の上に、腸を抜き鱗も落として塩胡椒したスズキ(尾頭付き)を乗せて160度で40分程焼く。白身はさっぱりと、魚の旨味はジャガイモにしみ込むという寸法。スズキは朝市で買った一本釣りの天然魚だそう。焼き上がりにイタリアンパセリを刻んで。私、久しぶりに、魚の骨というか頭というか目玉をしゃぶって食べました。レストランでは出来ない。細木さんはホウボウでやりたかったそうだけど、この日は市場になかったのでスズキになったそう。でもわたし、大満足。

うろこ取り器がないので、包丁の背でスズキの鱗を取る細木シェフの慣れた手つき。それにしても、フランスの流し台はシンクが狭い。洗い物をしない文化なのか? フランス製の包丁はひどい代物だし、まな板も殆ど使わないようだし、(鋏で切ったりするからなあ)台所に関しては日本の方が断然使い勝手がいい。
火を通したジャガイモの上に、ドーンとスズキを2尾のせて焼きます。
オーブンのマニュアル見ながら、温度と時間を調節して。チキンも丸ごと入ります。

 

オーブンで40分、焼け具合はどうかな? オーブングローブも必要だな。
あっという間に、ピラニア軍団に食い付かれたスズキ。このあと、私は骨までしゃぶったので、指はべたべた、カメラは持てない。

飛び入りメニューは、初夏にだけ出る野菜、アスパラガス・ソバージュ(野生のアスパラ)をバターでさっと炒めて、仕上げに醤油をたらして。オーブンは使わないが、簡単、旨い。たぶん、アスパラとは関係ない野菜というか、フランスの山菜みたいな感じで、すこし粘りがあって、さっぱりしていて、どこか和風。由紀子さんは茹でておひたしにするそうです。

さらに予定外のもう一品は、子羊のオーブン焼き。超レアな(それでも20分は焼いた)バラ色のラム肉が、旨かったぁ〜。暁子さん特製の、リンゴとセロリの根をすりおろしたペースト状のソースを絡めて食べました。東京で羊のあばら肉を探すのは大変だけど、パリの市場では簡単に手に入ります。

デザートは仙石さんが家で焼いて持参した抹茶風味のキャトル・キャール(quatre quarts/パウンドケーキ 粉、卵、砂糖、バターの4つを4分の1ずつ)にクリーム(仙石さん、ジャムの瓶に生クリームを入れて混ぜたらクリームが出来た! 手品みたい)、野生っぽい小さな苺も添えて。

 

細木さんが朝市で見つけたアスパラ・ソバージュ(左)、日本では見たことがない野菜だ。
ニンニクとバターで炒めて、仕上げに醤油をたらして。
塩胡椒を擦り込み、包丁で切れ目を入れてニンニクを差し込み、オーブンで20分。
焼きたての肉の色って、バラ色できれい。暁子さん特製のリンゴとセロリの根のペーストが、羊の肉の味を引き立てる。
一台のオーブンでは時間割が大変なので、仙石さんが家で焼いてきてくれたキャトル・キャール。パリには抹茶の香りがよく似合う。

なお、私は前日久しぶりにラタトゥイユを作って鍋ごと冷蔵庫で冷やしておきました。黒胡椒とコリアンダーシードをスプーンで潰して使ったせいか香りは抜群。夕方5時半からスタートした釜開きは、全員で作りながら、食べながら、しゃべりながら、飲みながら、テレビでサッカーもちょっと見ながら、赤4本と白1本開けて、お開きは夜12時でした。パリの夏の夜は長い。

パリでは初めて作ったラタトゥイユ。煮込み用の鍋が一つあると料理をする気になるから不思議です。高い鍋でも安い買い物? それにしてもフランスの茄子は大きすぎて困った。