from 福岡 - 6 - 福岡花火師の心意気。~心は形を求め。形は心を強くする~

(2010.08.03)
大きく開いた花が下までしだれてくる花火「錦冠(にしきかむろ)」。関門花火大会の模様です。今年の関門花火大会は8月13日開催。今回の写真提供はワキノファクトリーです。

「ひゅ~、どーーーん」と聞くとわくわくします。夜空を飾る色とりどりの大輪の花。徳川家康までも楽しんだといわれるほど歴史がある日本の花火です。夏になると花火を見に行きますが、どのくらい花火のことを知っているでしょうか。

「ワキノアートファクトリー」の脇野正裕さんにお会いして話を伺いました。同社は製造から花火イベントの企画・演出、打ち上げまで手掛け、年間、約3万発の花火を生産。関門海峡花火大会やハウステンボスのショーなど北部九州を中心に各種花火を提供しています。海外でもFIFA女子ワールドカップサッカーエンディング花火でオペレーションを務められています。また、国内外で多くの賞を受賞されています。

ワキノファクトリー花火製作所。
花火配合。
花火玉。

 
私は日ごろから不思議に思っていることを脇野さんに尋ねました。
 
地域による違いはあるの?
 
驚いたことに花火には地域性も現れているのだそうです。日本国内でいうと、九州は勢いとテンポの良さを求められ、東北や関東周辺では、ひとつずつを楽しめるテンポで打ち上げます。南(福岡も)はせっかちが多いのでしょうか……。いやいや、威勢がいいのだということにしておきましょう。

日本と海外の花火で最も大きく異なるのは、打ち上げる花火玉の形や構造。中心部に火薬があり、色が変わる星を四方八方に飛ばす日本の花火に対し、円筒形の玉を使い、単色の星が柳の枝のように垂れるのが外国の花火。いろんな国で花火が打ち上げられていますが、各国での特性があるそうです。そんな各国の特色を生かした技を披露する大会、第2回世界花火競技会がハウステンボスで開かれます。日本(8/14)、中国(8/21)、ポルトガル(9/4)、アメリカ(9/11)、フランス(9/18)の5カ国から、様々な受賞暦を持つ花火師たちが、それぞれの国の特色を活かした技を披露し、その技を競います。携帯電話での投票で結果が出ます。音楽を交えての夜空のショーを是非とも見てみたいものです。
 
よい花火ってどんなの?
 
打ち上げられた花火玉が上昇して、もとも高く上がったところから落下するとき、ほんの一瞬、玉は静止します。このときに開く花火は「玉の座りがよい」花火と呼ばれ、よい花火とされます。また、玉が上昇、落下の途中で開いた花火は、盆がいびつな形になってしまう可能性があるのです。大きく開ききったとききれいに丸い状態のものを「盆がよい」ともいいます。また、星がきれいに放射状に飛んだものは「肩のはりがよい」花火と呼ばれます。花の一部が開かなかったりすると抜け星や星が泳ぐといい、よい花火とはいえません。また、星が燃焼して、すべて同時に色が変色し、同時に消えるのを「消え口がそろう」といいます。

芯入り変化菊(しんいりへんかぎく):芯とは、大きな和の中心にある輪のこと。黄色の芯、大輪は色が変化する「変化菊」に分類される花火。
千輪菊(せんりんぎく):「千輪」の中でも菊の小花がたくさんひらくものを「千輪菊」とよぶ。写真の花は、黄・赤・青の小花が咲いています。
小割浮模様(こわりうきもよう):花火ひらいて、消えてから、小花がたくさんひらく花火。

素人目な私は色があったり大きかったりすると喜んでしまいますが、花火師の方々は、玉のすわりがよく、盆、肩のはりがよく、バランスがとれ、また、ぱっと同時に消える(消え口が揃った)花火をよい花火とよんでいるのです。今度花火を見るときにはそういったところも注意してみると楽しいでしょう。

花火ソムリエとは?

「花火鑑賞士」という認定資格があることを見つけて驚きました。「大曲の花火」で知られる秋田県大仙市のNPO法人大曲花火倶楽部が花火文化の向上を目的に年一回開催している資格認定試験で、高校生以上なら誰でも受験可能。花火の歴史や製造、打ち上げに関する知識があり、楽しみ方や玉名の判別法にも詳しいことが合格の条件。花火の時期にはちょっと人気者になれるかもしれません。

掛け声のたまや~! かぎや~!ってなに?
 
「たまや~! かぎや~!」の声。これは江戸時代に実在した「玉屋」と「鍵屋」という人気花火師に由来しています。当時の花火大会は両者の競演で観客たちは応援の意味を込めてすきな花火が上がったときに声をかけ、花火を楽しんだそうです。 

今では「鍵屋」は東京で「宗家花火鍵屋」として受け継がれ、「玉屋」は千葉で「元祖玉屋」として、花火制作をされています。ということは、「ワキノ~!」だっていいのかしら。
 

錦冠(にしきかむろ):大きく開いた花が下までしだれてくる花火。
小割(こわり)。

花火とは?
 
「花火とは町おこしだよ」と脇野さんは答えました。私は内心、くさいセリフ「夢を提供する」な~んていうのを期待していたのですが、違っていました。脇野さんはこう続けました。「大勢の人が集まり、満面の笑みを浮かべて、空を見上げては、感動し、元気になって、そして、また町を好きになってほしい。花火は地域、また、花火師によって色や音の出し方などに特徴があります。地域特有の花火を提供し、その地域、そのショーの特徴をだして、また、その町の花火を見にこようと思えるような花火を演出していきたい。新たな感動と新しい価値を常に生み出していきたい」と。
 
花火製作会社は全国で300ほど、うち、福岡には4つがあります。北九州ではひとつです。話を伺うと、ワキノアートファクトリーは奄美大島や沖縄の花火大会をも手掛けているという。花火製作会社数が少ないがゆえに顧客は固定になるのではないかと思いましたが、なぜエリア外の奄美大島や沖縄まで拡げることができたのか疑問に思い尋ねると、脇野さんは、少し寂しそうな顔をして話し始めました。

同社から一人の社員を他県の花火製作所に修行に出しました。ところがその花火製作所で事故がおこり、製作所もろとも爆弾が落ちたかのように根こそぎなくなってしまいました。脇野さんは、テレビのNEWSで事故を知り何度も社員に電話をしますが、鳴るだけでなんの返答もありませんでした。つながるはずがありませんでした。なぜなら事故防止のため携帯電話は製作所内にもって入ってはいないのです。製作所に電話がつながりましたが電話に出た人は泣くばかりで現状がわからず、福岡から車を飛ばして現場へ向かいました。何度も何度も車の中から社員に電話をしましたがつながりません。遺体は体育館へと移されていましたが、お香がたちこめる中、遺族のすすり泣く声がひびいていました。遺体が確認できていない時点では、脇野さんはご家族へ連絡も取っていなかったとのこと。ご家族のところへ遺体を届け直接謝りに行った脇野さんに
 
「本当にありがとうございました。花火で死ねたのは息子の本望です」
 
とご両親はおっしゃいました。亡くなったのは22歳の青年でした。脇野さんは二度と同じ悲しみは繰り返せないと、すぐに自社の徹底した花火製作所の安全対策に乗り出しました。危険性の高かった花火の点火作業をすべて機械化、事故の危険性の高い製造工程や作業の見直し。機械や、コンピューター点火への転換で、従業員にも技術力が求められるようになり全社員の意識改革図りました。花火師さんとの様々な意見の衝突もありましたが、命と安全性を第一に脇野さんは説得しました。「命あってのものだ」と、力強く何度も繰り返しておられたのが印象に残りました。
 
その花火製造所の事故をきっかけに、その事故を起こした製造所の後を引き継いで、沖縄や奄美大島の現場で花火を打ち上げに行っているようです。

夜空に舞う花火はなぜあんなに美しいのか分かる気がします。長い歴史を通して感動を生み出そうとするたくさんの花火師の思い、努力の結晶だからでしょう。人に感動をあたえる為、地域を元気にする為、家族の思い、いろんな思いがさらに花火を美しく彩るのだろうと思いました。
 
「ひゅ~、ど~ん。」と上がる花火がなんだかひときわ心に響きました。ふと、日本放送局会長の言葉が頭をよぎりました。「心は形を求め。形は心を強くする」と。

 
 
株式会社ワキノアートファクトリー

住所:北九州市小倉南区大字呼野601-12
Tel:093-451-2500
http://www.wakino-art-factory.com

参考資料/花火図鑑 泉谷玄作著 ポプラ社