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坂の街・小樽でも屈指の急坂である船見坂(ふなみざか)。勾配15%を超える坂の入口付近に『バラヴィン』はあった。「どういう意味なのだろう」と地元民、観光客問わず、誰もが考えるはず。 |
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カスーレ。白インゲンマメと肉、ソーセージなどを陶器の鍋で煮た後、オーブンで焼き色をつけるフランス・ラングドック地方の伝統料理。北海道で「カスーレ」を食べることができるお店は、早々見つからない。 |
自分が東京から小樽へと転勤することとなり、「落ち着いたら是非一度足を運んでみたい」と思っていたフレンチのお店があった。その名は、『バラヴィン(BARAVINS)』。船見坂(ふなみざか)の登り口付近に位置し、JR小樽駅から徒歩5分。お店の名前からして興味がそそられる。Bar a Vins=ワイン・バーというフランス語である。
初めてバラヴィンさんに足を踏み入れてから、約3年半が経過した。ホールを担当しているオーナーとは、お会いしたその日に、直ぐに意気投合。世界の「丹下健三(たんげ・けんぞう)」先生に師事され、大学卒業後、若くしてフランスへと渡り、建築、都市計画などの仕事に携わり、フランス人の奥さまと恋に落ち、結婚された。
古林史玄瑠(ふるばやし・しげる)さん。そして、奥さまのLiliane(リリアン)さん。
小樽に生まれ育った古林さんのご家庭の事情により、フランスから小樽へと戻られ、小樽で店を開いたのは1996(平成8)年12月のこと。クロスボルトの曲線美からなる店内の空間。古林さん自らが設計されたという「創造的な空間」。ワインセラー自体、壁面を応用。装飾品のすべてをフランスから輸入したという拘りの中、フランス語しか話さないリリアンさんからお聞かせいただくフランス文学論、そして空気のように流れるシャンソン。まるで、「小樽の中のフランス」とでも言うべき空間が、そこにはあった。
フランスの都市計画と特に北海道の社会資本整備との違い、各々のメリットやデメリット、さらにはフランス料理には欠かせない「ジビエ」を管理すべき森林保全に対するフランス流の考え方など、北海道にいながらにして、フランスという国について教えていただき、また、ワイングラスを傾けながら議論させていただいた。
料理を担当していたのは奥村利浩(おくむら・としひろ)さん。世の中、本当に「縁」というものがあるのだろう。いずれ『WEBダカーポ』で紹介することになるであろう、札幌にて20年近くお店を営み、自分も足繁く通っている『ビストロ ルプラ』というお店がある。そのオーナー・シェフ、ムッシュ新居(あらい)さんのお弟子さんであるとお聞きし、世の中というか、料理の世界の狭さを実感する。さすがに新居さんのお弟子さん。奥村さんの腕は、小樽の料理界では群を抜いていた。
小樽という北海道の近代史を彩る港町で、「伝統的フランス料理」に拘り続けてきた「バラヴィン」。今年の3月末、静かに店を閉じた。
「家内の体調も優れないこともあり、フランスのラングドックで、ゆっくりと2人の時間を過ごしたい」と、古林さん。以前から、体調が優れないという話はリリアンさんからお聞きしていた。治療の度にフランスへと渡られているということも。恐らくは慣れない日本、しかも冬場の寒さが厳しい小樽の街で、様々なご苦労もされたことだろう。
古林さんご夫婦は、今年の5月末には日本を離れ、フランスへと旅立たれるとお聞きしている。奥村さんは、すでに小樽を離れ、札幌での新たな出店に向けて準備を始めている。
古林さんご夫妻と奥村さんには、長い人生の中での「少しばかりの短い時間」ではあったが、小樽にて、書き尽くすことができないほどお世話になった。新たな旅立ちに際し、3人のご了解の下、感謝の気持ちと3人の今後のご多幸を心から祈念し、その足跡の一部を紙面に留めさせていただいた。
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古林さんご夫婦が、小樽を離れて住むことになるラングドック地方の地図を見せていただき、この地方の生活ぶりや景観などについて語り合う。 |
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「4人で写真に納まるのも、これが最後ですね」と、記念撮影。写真左から古林史玄瑠(ふるばやし・しげる)さん、奥さまのLiliane(リリアン)さん、シェフの奥村利浩(おくむら・としひろ)さん、そして筆者。 |