from 山梨 – 11 - ラグビーを楽しむ その2:One for all,all for one.

(2010.05.26)

前回は「そもそもラグビーは何をやっているのか?」について考えてみました。
かつて私がラグビーをさっぱり理解できなかったのは、ラグビーを「ボールをゴールに入れて得点する球技」としてだけ捉えていたからなんだと思います。
なので、よくわからないルールは「簡単に得点できないようにするために存在しているのだろうか?」なんて思ったりして、「なんでそんなゲームが面白いんだろう?」という大変ネガティブな感想につながっていたわけですね。
でも「ラグビーはボールを境界線にした陣取り合戦である」ということが理解できたとたん、今までさっぱりわからなかったゲームの流れやルールを「なるほどねー」と思えるようになり、さらに「面白い!」とまで思うようになりました。
そして、「あんなに乱暴なのになんで紳士のスポーツなの?」という疑問も一気に解決、むしろその部分に俄然興味が湧いてきました。
それらを踏まえて、今回はラグビーの不思議な得点と、よくわからないプレーについて書いてみようと思います。
…少し知っているルールを、すごく知っているみたいに。

 

「ゴール」と「トライ」

繰り返しになりますが、ラグビーというのは楕円のボールを使った陣取り合戦で、自分の陣地と敵の陣地の境界線は、ボールの位置でゴールと平行に引いた線です(プレーによって例外あり)。

黒ジャージチーム、陣地拡大中。

写真は、黒ジャージのチーム(右から左に向かって攻撃)が自陣を拡大してきて、黄+青ジャージのチーム(左から右に向かって攻撃)の陣地がなくなってきているところです。
黄+青ジャージチームの反則で中断したプレーが、「スクラム」(敵と味方ががっちりと組み合っている密集)の中にボールを投げ込む事によって再開、この後、黒ジャージチームが写真の左方向に進んで行き、H型の白い棒(ゴールポスト)を越えたところ(インゴール)でボールを地面に押さえつけることができれば、黒ジャージチームの陣地が100%、黄+青ジャージチームの陣地が0%になります。
これで黒ジャージチームの「トライ」が成立です。

そう、サッカーはゴールにボールを入れれば「ゴール」で得点になりますが、ラグビーはインゴールにボールを運んで地面に押さえつけた時点でトライ、その後にゴールキックを蹴ってゴール、という2段構えの得点方法になっています。
獲得点数はトライが5点、その後のゴールキックが決まれば2点が追加され、合計で7点になります。

実はラグビーの初期の獲得点数は、トライは0点でゴールキックが1点でした。
得点するためのゴールキックを蹴るためにまずは陣地を全部取りましょう、「陣地を全部取ったらゴールキックに挑戦(トライ)することができますよ」ということだったのですね。
ですから、今も昔もトライをとる際にボールを地面につける場所は、インゴールの中ならどこでもいいのです。
写真に写っている、ゴールポストの縦の棒の間で地面につけなくてはいけないというものではありません。
しかし、その後に蹴るゴールキックは、ゴールポストの間の白い横棒(クロスバー)を超える位置に蹴りこまなければ得点にはなりません。

後年になってトライにも得点が与えられるようになり、その後もルール変更を繰り返しながら、現在ではトライのほうがゴールキックよりも獲得点数が大きくなっています。
トライ後のゴールキックを「コンバージョンキック」と言うことがありますが、これはトライで得た5点がその後のゴールキックを決める事で7点に変換(convert)されるという意味です。
「なんでトライで得点してその後のキックでまた得点するんだろう?」という疑問はこれで解決ですね。

他に、プレー中に直接ゴールポストのクロスバーの上にボールを蹴り込む「ドロップゴール」という得点方法があります。
これは、トライの過程を経ずに、プレーの中で突然繰り出されるキックによる得点方法で、獲得点数は3点。
近くで見ないとわからないと思いますが、ドロップゴールになるキックはいったん地面について跳ね返ったボールを蹴らなくてはいけません(地面について跳ね返ったボールを蹴ることをドロップキックと言います)。
ついでに言うと、ラグビーにはサッカーの「オウンゴール」のような、「オウントライ」(?)はありません。

 

よくわからないプレー

以前、「ラグビーの何がダメ(わからない・つまらない)なのか?」について話をしていた時、ラグビーをよく知らない人にとっては「選手が集まって積み重なってゴニョゴニョやっているけれども、ボールが見えないからどっちのチームがボールを持っているのか、何をしているのか全くわからない。積み重なって下敷きになっている選手は手の届くところにボールがあっても取りに行こうとしないし、上にかぶさっている選手を振り払おうともしない。そうこうしているうちに審判の笛でプレーが止まる。プレーが再開したら、またぶつかって積み重なっている」というあたりがダメなのではないか、という話になりました。
確かに、試合中ボールがどこにあるのかわからない球技というのは、あまりないように思います。
それが「どっちが攻めて、どっちが守っているのかわからない」→「何をやっているのかわからない」ことにつながっているのかなと。
ボールを持って、もしくはパスしながら走っている時はいいんですけどね。

というわけで、何をしているのかよくわからない代表的なシーン。

両チームの選手が集まって、なにがなにやら。

これこれ。
黒ジャージチームは写真左から右の方向へ攻めていて、黄色ジャージチームは右から左の方向へ攻めています。
黄色ジャージの選手がひとり、密集の中で倒れていますね。
そして、その選手の手元にあるボールを、同じく黄色ジャージの選手が拾おうとしています。
このプレーを前後を含めて簡単に書くと、

(写真の中で倒れている)黄色ジャージの選手がボールを持っていた。
黒ジャージの選手がボールを奪いに来て、ボールを持っていた黄色ジャージの選手を倒した。
倒された黄色ジャージの選手が、自分の陣地側にボールを置くようにして後ろを向いて倒れた。
黒ジャージの選手にボールを奪われないように黄色ジャージの選手が集まってきて、力で黒ジャージの選手を押し返した。
黒ジャージチームにボールを奪われることなく、黄色ジャージチームは密集からボールを出すことに成功する。
ボールを拾い出した黄色ジャージの選手は、ボールを持ったまま自分で前に走るか、自分より後ろにいる味方チームの選手にボールをパスするかしてゲーム続行。

という流れになります。
そして、「ラグビーってよくわからない」という人がこの写真を見ていると湧いてくると思われる、ひとつの疑問。
「ボールが見えているのに、どうして黒ジャージチームの選手はボールを奪いに行かないの?例えば密集の横にいる黒ジャージの13番とか10番の選手の位置からならボールも見えているはずだし、すぐに取りに行けるのでは?」
……かつての私の疑問に、自分で答えてみます。

上の写真を良く見ると
・ボールは地面についている。
・両チームの選手がそれぞれひとり以上、立った状態で身体を密着させてボールを囲んでいる。
ことがわかりますね。
ボールを奪い合うために選手が集まって形成された密集が上の2つの条件を満たすと、「ラック」というプレーになります。
そして、この「ラックが成立している状態」にはいくつかの別ルールがあり、この時はオフサイドラインも変更になります。

前回、ボールの位置でゴールと平行に引いた線が自分のチームと相手チームの陣地の境界線(=オフサイドライン)で、紳士のスポーツであるラグビーでは、このオフサイドラインを超えた相手チームの陣地内でプレーしてはいけないという、ラグビーの根幹を成すルールを説明しました。
ラックが成立している状態では、オフサイドラインが「密集の中の、自分のチームの選手の一番後ろ」になります。
写真を見ると、密集に頭から突っ込んでいる2名の黒ジャージ選手の後ろで、もうひとりの黒ジャージ選手が彼らに手をついて立っていますね。
この状態での黒ジャージチームのオフサイドラインは、手をついて立っている選手の後足の位置になるというわけです。
ですから、13番や10番の黒ジャージの選手がいる位置はオフサイドになっていて、彼らはプレーすることはできません。
また、密集の横からボールを取りに行くこともできません。
なんらかの形で密集に加わろうとするなら、自分の陣地であるオフサイドラインの後方から加わらなくてはいけないのです。
「密集に横から入ってしまった」というのは、密集で起こりがちな反則です。
ちなみに、手をついている黒ジャージの選手が手をついていなかった(=密集に参加していなかった)としたら、黒ジャージチームのオフサイドラインは、スキンヘッドの選手が後ろに出している足の位置になります。

「じゃあ、密集に頭から突っ込んでいる選手が、相手を押すだけじゃなくて手を伸ばしてボールを奪えばいいのでは?」
ごもっともな指摘です。
サッカーと違って、ラグビーは手でボールを持ってもいいんですからね。
しかし、「ラックの中ではボールを手で扱ってはいけない」というルールがあるのです。
思わず「えっ?サッカーじゃないのに?」と言いたくなる、まさかの「ハンド」という反則です。

そんな事を聞くと、「手を使わずにどうやってボールを奪えば良いの?」という疑問が湧いてきますね。
写真の状態は、「黄色ジャージの選手がボールを持って倒れて、自分の陣地側にボールを置いた状態」ですから、黄色ジャージチームボールのラックであり、当然黄色ジャージチームに有利な展開です。
黒ジャージチームがボールを奪うためには、黄色ジャージチームを「力で押して・力で押し込んで・力で押しのけて」前進して、ボールを自分たちのオフサイドラインに近づけて足でかき出すか、拾い出すかしなくてはならないのです。
とかく「よくわからない」と言われがちなこの密集プレー、実は両チームの力比べというラグビーのとっても大きな見所なのですね。

このラックについて、別のプレーでもう少し見てみます。

タックルの後、ラックが形成された直後。

この写真は、ボールを持った黒ジャージの選手が黄色ジャージ選手のタックルによって倒されたところで、ラックの初期の段階です。
倒れた黒ジャージ選手は自分の陣地側にボールを置き、別の黒ジャージの選手がそのボールを拾い上げて次のプレーにつなげようとしています。
ですが、黄色ジャージの選手がボールを拾い上げようとしている黒ジャージ選手を押しのけようとしていますね。
そしてよーく見ると、その黄色ジャージの選手の動きを抑え込もうとしている黒ジャージの選手がいます。
そしてそして、動きを抑え込まれそうな黄色ジャージの選手をサポートし加勢するべく、後ろから黄色ジャージの選手が密集に加わろうとしていて、黒ジャージチームの選手も密集に集まってきています。

ラグビーには、その精神性を表す「One for all,all for one(ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために)」という有名な言葉がありますが、その精神は文字通りの草ラグビー(?)を撮った1枚の写真にもあふれています。

ここでまた、ふと湧く疑問。
「この倒された黒ジャージの選手がボールを離すから黄色ジャージチームにボールを取られそうになるんじゃないの?味方が集まってくるまでボールをキープしておけばいいじゃない」
これもごもっともな指摘です。
サッカーだってバスケットボールだってラグビーだって、パスする時が一番ボールを奪われやすいのですから。
しかしラグビーには、「自立していない選手はプレーしてはいけない」というルールがあるのです。
これは密集プレーの場面では例えば「タックルされて倒れた(=地面に膝をついた)選手は、速やかにボールを離さなくてはいけない」とか、「倒れた(=地面に膝をについた)選手は、他の選手の妨害をしてはいけない」というもので、密集では反則をとられる事の多いルールです。
上の写真では、タックルを受けた黒ジャージの選手と、タックルをした黄色ジャージの選手が両方とも倒れていますから、この2人はプレーしてはいけない人になっています。
ですから、ボールを持って倒れる選手は倒れる前の最後のワンプレーで、自分の陣地側にボールを置いて倒れようとするのです。
これで「ボールが近くにあるのに寝てる人がいるんだけど、何してるの?」という疑問も解決ですね。

長くなりますが、よくわからないプレーをもうひとつ。
先に説明したラックの定義は「ボールが地面についている」「両チームの選手がそれぞれひとり以上、立った状態で身体を密着させてボールを囲んでいる」でした。
それに対して、「ボールは地面についていなくて、自立している選手が持っている」「(その)ボールを持って自立している選手に対して、敵ひとり以上、味方ひとり以上がそれぞれ自立した状態で身体を密着させてボールを奪い合っている」という状態の密集プレーがあります。
このプレーを「モール」と言います。

ボールは見えないけど、モールが成立しています。

オフサイドラインの考え方はラックと同じで、密集に横から入ってはいけないのも同じです。
しかし、モールは最初から選手がボールを手で持っているので、ハンドの反則はありません。

 

細かいルールは審判に任せて

今回説明した得点や密集プレーには、他にもバリエーションや細かなルールがあります。
ラグビーの詳しいルールや用語は、トップリーグの各チームや、大学のラグビー部の各チームのサイトを初め、様々なサイトで丁寧に紹介されていますので、興味のある方はお好みのサイトで是非ご覧になってみてください。
例:トヨタヴェルブリッツの「ラグビーはこんなスポーツだ」など(リンク先トップページのメニューからどうぞ)。
日本ラグビーフットボール協会のサイトにもルールが載っています。
でも、ルールブックを読んで細かいルールまで把握しようとするのは、とても大変です。
そして、これは次回触れようと思っていることですが、ラグビーでは常に審判が選手の反則をとるわけではないのです。
試合の流れの中で、「その反則をどう処理するのか」が常に審判の判断に委ねられています。
なので、細かいジャッジは審判に任せて、目の前で繰り広げられている全力の陣取り合戦を楽しむことが、ラグビー観戦を楽しむコツと言えると思います。

今回、「私を含めて、ラグビーって何をやっているのかわからないと思っている人があまりにも多い。なぜなのか」という私の疑問に、人生の半分以上ラグビーを続けていらっしゃる方々からひとつの答えが示されました。

「やっぱりオレたちが悪いんだよなあ。彼女とかできて“ふーん、ラグビーやってるんだ~。私、ラグビーのルールってよくわからないから、今度教えてね”って言われて、その時は喜んで“うん、いいよ”って返事するんだけど、一緒に試合観に行って“ねー、今なんで反則だったの?”“ねーねー、今何やってるの?”とか聞かれると、答えるのが面倒臭くなっちゃうんだよなあ。“ねーねー、あの人動かないけど、何してるの?寝てるの?”“そう、寝てるの”“なんで寝てるの?”“眠いから”……って、これじゃダメなんだよなあ、たぶん」

えーと、それはラグビーの認知度とは関係なく、別の意味でダメなのでは?

(続く)